●4月30日(日)ワーグナー楽劇『パルジファル』/ドイッチェ・オーパー・ベルリン
DEUTSCHE OPER BERLIN
Sonntag, 30. April 2000
Richard Wagner : Parsifal
Musikalische Leitung :Chiristian Thielemann
Inszenierung :Goetz Friedrich
Ausstattung :Andreas Reinhardt
Choere :Helmut Sonne

Amfortas :Wolfgang Brendel
Titurel :Hans Griepentrog
Gurnemanz :Laszlo Polgar
Parsifal :Robert Dean Smith
Klingsor :Lenus Carlson
Kundry :Doris Soffel
1.Gralsritter :Marc Clear
2.Gralsritter :Freidrich Molsberger
1.Knappe :Andion Fernazdez
2.Kanppe :Elenz Zhidkova
3.Kanppe :Peter Maus
4.Knappe :Steven Paul Spears
Blumenmaedchen
Erste Gurppe :Fionnuala McCarthy,
Abbie Furmansky,
Andion Fernazdez
Zweite Gruppe :Gudrun Sieber,
Yvonne Wiedstruck,
Anne-Marie Seager
Stimme aus der Hoehe :Kaja Borris
Der Chor der Deutschen Oper Berlin (Extrachor)
Knabenchor Berlin (Einstudierung: Karl-Ludwig Hecht)
Das Orchester der Deutsche Oper Berlin
Beginn 16:00 Uhr; Ende gegen 21.30 Uhr
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この劇場でティーレマンの指揮を聞くのは今回で2度目。前回は彼が就任そうそうに取上げたプフィッツナーの「パレストリーナ」であった。2年ほど前のDOB日本公演では不調だったようだが、今回のパルジファルは素晴らしい名演奏となった。オーケストラも昨日の魔笛とは打って変わり、アンサンブルの精度が高くパワーが炸裂。特にティンパニと金管群の迫力は物凄い。ザルツブルクでのゲルギエフ&ウィーンフィルのあの伝説的名演奏とまでは行かなくとも、それに迫るほどの迫力と興奮に満ちていた。聞くところによればベルリンでのティーレマンのワーグナーには定評があるとのこと。

素晴らしかったのは演奏だけでなく、ゲッツ・フリードリヒの演出と舞台もまた完成度の高さを見せた。彼の舞台は幻想的な照明を活かしたシンプルさが特徴で、DOBに独特のアイデンティティを育ててきたと言っても良い。しかし最近、彼のこういった演出は新しいコンセプトが見当らないという批評があるのも事実。確かにそうかもしれないが、このパルジファルにおいては十分な説得力があり、ドラマと音楽が絶妙に融合していたという点で、ワーグナーが目指した楽劇を表現しきったと言って良い。

歌手に関しても大いに満足した。まず筆頭はゾッフェルのクンドリー。この役柄はマイヤーの独壇場となっているだけにゾッフェルの凄い歌と演技に出会いいささか驚いた。ブレンデルのアンフォルタスも貫禄十分で、痛ましい役柄を十二分に発揮。その歌いっぷりは胸に迫るものを感じた。さらにポルガーのグルネマンツも素晴らしい。初めて聞いた歌手だが、思慮深く威厳に満ちた歌と演技に心を動かされた。タイトルロールのスミスはかつてのルネ・コロから見れば物足りなさは明らかだが、第3幕における盛り上がりに応じて良い歌を聴かせてくれた。

フリードリヒの指輪では楕円形のタイムトンネルが象徴となっていたが、このパルジファルでは直角形に奥まって行くトンネルがイメージされていた。直方体に閉ざされた世界に幻想のように人物のシルエットを浮び上がらせ、存在がとても淡いものであるかを印象づける。聖杯の儀式はこの四角くい空間で執り行われるのだが、ティトゥレルとイエスをオーバーラップさせたような演出は少し過剰表現と感じる。

パルジファルが登場する場面でステージ背景に「槍」と「傷口」のイラストが映し出された。ちょうどステージ上に血まみれの白鳥が横たわっており、強いコントラストを見せた。これは白鳥の血とアンフォルタスの血が同一のものであり、いずれはパルジファルによって救済に至ることを暗示させる。照明の扱いもフリードリヒらしく、第1幕の森をグリーンベルトの光線で表現し、第2幕のクリングゾルの世界はカラフルに。特に第2幕では空間をフルに活用した見せ場も随所にあって、演出と音楽の展開が素晴らしい。第3幕では雪に覆われた荒涼地から再び直方体の幻想世界へ。そして感動のクライマックスへと至る。

プログラム解説にアインシュタインのE=mC**2のエネルギー公式が書かれてあったが、変化する直方体を媒体として時空間を越えてパルジファル物語が進み行くことを示唆しているのかも知れない。それはともかく今日の公演は目が離せない魅力に溢れていた。この祝典劇では拍手をするなと思うものの、終演後は割れんばかりの喝采となった。

さてDOB来シーズンのプログラムが発表された。興味深い演目はメノッティの「アマールと夜の訪問者」、ヴェルディの「ルイザ・ミラー」と「ファルスタッフ」。クレネックの「ジョニー」、マルシュナーの「ハンス・ハイリング」など。またウィーン国立との共同プロダクションであるエネスコの「エディプス王」、R.シュトラウスの「ダフネ」が面白そうである。なお来シーズはワーグナーのリングは無いようだが、近い将来の新リングに期待したい。