Report by "la lumiere des yeux"

エクサンプロヴァンス音楽祭


2001年7月10日 ヴェルディ:フォルスタッフ
Direction musicale Enrique Mazzola
Mise en scene, decors, costumes, lumiere Herbert Wernicke
Assistant musical Stefan Karpe
Chef de chant, pianiste repetiteur Stephane Petitjean
Chef de choeur, pianiste repetiteur Alain Altinoglu
Repetiteur d'italien Caterina Galiotto
Assistant aux decors Michael Veits
Assistante aux costumes Eva-Mareike Uhlig
Sir John Falstaff Willard White
Dottor Cajus Wolfgang Ablinger-Sperrhacke
Bardolfo Santiago Sanchez Jerico
Pistola Paolo Battaglia
Meg Page Charlotte Hellekant
Alice Ford Geraldine McGreevy
Nannetta Miah Persson
Mrs. Quickly Nora Gubisch
Ford Marcus Jupither
Fenton Yann Beuron
Choeur Academie europienne de musique
Sopranos et Mezzos Catriona Barr Elin Carlsson
Virginia Dimopoulou Elizabeth Donovan
Claudia Hetzner Helen Lyons
Alison Metternich Anna Sollerman
Tenors, Barytons et Basses Jerome Avenas
Ruediger Ballhorn Anthony Cleverton
Julio Fernandez David Johansson
Jonas Samuelsson Immo Schroeder
Robert Toth
Orchestre Orchestre de Paris
Nouvelle production du Festival d'Aix-en-Provence,
en coproduction avec le Teatro Nacional Sao Carlos (Lisbonne, decembre 2001) et le Theatre des Champs-Elysees (Paris, juin 2002).





当初、指揮をエサ・ペッカ・サロネンが担当すると発表されていたこのプロダクション、残念ながら病気を理由に彼はキャンセル、無名と言って良いでしょうイタリアの若手、エンリケ・マッゾーラに交替しました。誠実な音楽づくりは好感が持てるものの、若者にしては少々穏健すぎるかなとも感じました。将来に期待は持てますが、悪いなと思いつつサロネンならまた違ったのではと考えてしまうのはしようがありません(ロンドンフィルとの来日公演でテンシュテットの代役にヴェルザー・メストが立った時の事を思い出します。メストの演奏も良かったですが、やはりテンシュテットの運命、田園を聞きたかった!)

見て下さい、この写真。おそらくこのようなフォルスタッフ像は前代未聞では。舞台はおそらく西部開拓時代のアメリカ、床、壁面、天井全てが一様な板張りのがらんとした一室が三幕通じての舞台装置となります。第一幕、音楽の開始とともに登場人物達が正面の壁の一部、突然戸と化した所から一斉に机や椅子、ベッドなどの簡素な小道具を運び入れつつ直ちに演技を始めます。ウィリー・ホワイトは裕福な黒人の旦那、バルドルフォとピストーラはのっぽとちびで、もうまんまローレル&ハーディ、そうです、西部を舞台にしたアメリカ製サイレント期のスラップスティックコメディの世界だと直感しました。









ウェルニケのデザインした装置はどこから何が出てくるか、意表を突かれ飽きません。第一幕第二場では左右に大きくひもが張られ洗濯物干場になり、西部の女性達の登場、馬の鞍を持ってカウボーイハットのフェントンが左の壁から上に向かって歌いかけると高い所の一部が窓よろしく開きナンネッタが答える。二場終了と共にひもはするすると引っ張られて消え、休みなく第二幕へ、クイックリー夫人はどことなく挑発的で何やら意味ありげな素振り、フォードも裕福な牧場経営者か穀物扱いの商人と言った風体でカウボーイハット着用。


第二場、フォードの乱入が傑作で大勢の人間が舞台をめちゃくちゃに右往左往し、壁の引き出し(そんなものがあるなんて一見ではわかりません!)のなかの書類をあたりに放り出しひっくり返し、壁の上の小窓からも紙や衣類がどんどん投げ込まれる、私は大笑いしてしまいました。私の直感は正しかったわけです。めでたくフォルスタッフは奥の壁の向こうへ運ばれ川へ投げ込まれて陽気にこの幕を閉じ、約20分の休憩に入りますが、散らかり放題の舞台を3、4人の男女がしんぼう強く片付けていたのも可笑しかった。

第三幕、音楽の始まる前に疲れきったフォルスタッフがよたよたと登場、ベッドに倒れ込みます。前奏曲がトゥッティになるとそれに合わせ四肢を痙攣よろしく震わせるのは御愛嬌。クイックリー夫人はひそひそとフォルスタッフと二人で下手に姿を消します。後で裾の乱れた彼女がボタンを直しながら退場していくのは言うまでもありません。フォルスタッフはイギリス(スコットランド?)風マントとハンチングの装いで待ち合わせに向かいます。


第二場、大きな本物の犬を連れたロンドンスタイル(?)のおまわりさんがあの密やかな前奏に乗ってゆっくりと舞台をまわる(サイレントのコメディに警官は付き物ですからその点では統一してるんでしょうが、私にはどうしてもイギリス風に見えました)、動物や子供に弱いのは万国共通で聴衆から笑いやざわめきがおこってしまって折角の音楽にとっては残念でした。巨大な鹿の角が上からゆっくり釣り下げられてきて、ちょうどその間下にフォルスタッフが入って、今日の獲物といった格好。床下から登って来るランタンを持ち仮面をつけた合唱、同じようないでたちの登場人物達にどぎつくどつかれ、ふてくされ上手袖に座り込むフォルスタッフ。
フィナーレは登場人物としてではなく、オペラ上演終了後、出演者としてスタッフとして公演の成功を祝い、お互いの労をねぎらうように進み、ラストの和音とともに閉じられた木造の枠としての舞台装置が大きく割れて、その外、舞台裏が露出します。この世は冗談、舞台は作り物、しかし閉じられた世界ではなくて外の、大きい実社会とつながらなくては、とでもいうか、なかなかしゃれた結末です。ブレヒティアンですね。

歌の面でも不満無く、充分に堪能しました。ヴェルニケという人、アイディアがなかなか豊富な感じで面白いですね。最近NHKBSで放送していたベルリオーズのトロイの人々は演奏も含め本当に素晴らしかった!ラ・モネでの同じカンブルランとのリング、舞台写真を見るからに興味深く思ってまし。確か、バイエルンでのレーンホフ演出に替わる新しいリングをヴェルニケが担当するんでしたね?余談ですが来年のシャンゼリゼでの本プロダクションではサロネンが指揮をするんでしょうか?なお、次のリンク先でFrance 2の収録した本公演の一部(ちょうど私の観ていた公演でした)の映像をRealPlayerにて鑑賞できます。


http://www.france2.fr/musique/classique/musiconcert.htm