フラコ江戸川のSweet Home San Antonio !!
サン・アントニオに春が来た、の巻

実は私は、ライ・クーダーのファンである。
その縁で、彼のアルバムに参加していた、フラコ・ヒメネスの心地よいアコーディオンに痺れまくり、TEX-MEXという素晴らしい音楽にズッポリはまっている。
以前はフォークリリックから「TEXAS-MEXICAN BORDER MUSIC」と言う大河シリーズがLPで出ていたが、今日では多くの音源がCD化されている。ところが、それがなかなか日本では入手出来ないのだ!!
せっかくCD化されているのに手に入れる事が出来ないなんて、これは情けない!!
と言う訳で、今回は私に与えられたテーマを大きく脱線し、この素晴らしいTEX-MEXを紹介していこう。多くの皆さんに聴いていただきたいと使命感に燃えている次第である。

アメリカ南西部に住むメキシコ系アメリカ人(チカーノ)による、メキシカン・ミュージック。そこには、希望の国アメリカに不法入国し、貧困に苦しみながらも明るく朗らかに生活するチカーノ達の力強さを感じる、などというイメージを抱いていた私だが、大きな間違いを犯していたのを知ったのは、つい最近のことだ。いま、チカーノの多くが生活する、テキサス州からカリフォルニア州にかけての広大な土地は、かつてメキシコの領土だったと言う歴史的事実を、すっかり忘れていたのだ。
1821年にスペインから独立したメキシコは、広大な領土の開拓の為に、3万人以上のアメリカ人を移民として受け入れた。しかしこの移民達は、メキシコの法律を無視するなどの傍若無人な行動をくり返し、1835年にはついに勝手に「独立」を宣言し「テキサス共和国」なるものを樹立してしまった。だが、当然もともと居たメキシコ系住民との衝突は絶えず、有名なアラモ砦の戦いを経て、ついに国家間の全面戦争に発展した。これが1846〜48年のメキシコ戦争である。この戦争に敗れたメキシコは、1500万ドルでテキサスからカリフォルニアに至る土地を割譲。残されたメキシコ系住民は難民となり、自分達の権利を守る武力も政治的手段も持たず、差別と苦しい生活を余儀無くされたのである。このようなチカーノ達の娯楽がこんにちTEX-MEXと呼ばれる音楽なのである。

ところで、TEX-MEXと言うと、アコーディオンをメインに据えたダンス・ミュージックをイメージされる方が多いと思うが、そのルーツは「コリード」と言われる物語り唄にある。その殆どがギター(あるいはバホ・セスト)を弾き、デュエットする二人組で構成される。その感触は正に「素朴」。知らず知らずのうちに引き込まれていく。
佐々木健一氏の私信を引用させていただくと「メキシコから東北上に歩を進め、テキサスを東に向かい、アパラチア山脈東側一帯の白人貧困労働者層、いわゆるプア・ホワイトのマウンテン・バラッド〜ブルースとイメジが直結します。いや刺激的だ!」とのこと。皆さんの中でも、この辺の音楽が好きな方は、きっと気に入る事だろう。
この「コリード」を聴くには「Corridos & Tragedias De La Frontera」(Folklyric 7019/7020)が最適である。1930年代にヴォカリオン、オーケー、デッカ、ブルーバードに吹き込まれた27曲×2テイク(物語のためSPの両面が続きとなっている)を収めた二枚組CDだ。入門用としては少々ヘヴィーかも知れないが、P167のブックレット及び歌詞カードが付いている丁寧な作りで、損はしないはずだ。さらに、突っ込みたいと言う方には「THE MEXCAN REVOLUTION Corridos about the heroes and Events 1910-1920 and beyond !」(Folklyric 7041-7044)と言う四枚組CDもある。


Corridos & Tragedias De La Frontera
(Folklyric 7019/7020)

さて、冒頭に書いたアコーディオンを中心としたスタイルは、チカーノの間では「コンフント(コンボ)」と呼ばれている。テキサスには東欧からの移民もたくさんおり、これらの影響を受け、ポルカやバルス(ワルツ)、ボレーロなどが演奏され始めたのであろう。アコーディオンの導入もその一つである。それが1860年頃の事らしいが、1928年にブルーノ・ビヤレアールが録音したものが、アコーディオン奏者としての初録音となる。その頃の演奏を収めたのが「NORTENO & TEJANO ACCORDION PIONEERS」(Folklyric 7016)である。ナルシーソ・マルティネスやドン・サンチャゴ・ヒメネスなどによる30年代の録音集だ。この時代は、アコーディオンとバホ・セストだけというのがほとんどであり、野外のダンス・パーティーといった牧歌的な印象を与える。なお、ウォルター・ホートンのファンには、彼のレパートリィーである「ラ・クカラチャ」が収録されていることを付け加えておこう。


NORTENO & TEJANO ACCORDION PIONEERS
(Folklyric 7016)

さらに蛇足になるが、コリードやコンフント、さらにはストリング・バンド(と言っても、黒人によるそれとは違い、オーケストラの様なもの。「ドナウ河のさざ波」なんてのをやっている)などの、戦前TEX-MEXを集めたものに「AN INTRODUCTION : THE PIONEER RECORDING ARTISTS」(Folklyric 7001)と言うコンピレーションもある。入門用には最適のCDだ。


AN INTRODUCTION : THE PIONEER RECORDING ARTISTS
(Folklyric 7001)

時は移って、第二次世界大戦後。コンフントは、急速に他の音楽からの影響を受けていく事になる。手始めはベースとドラムスを入れた事であるが、これによりビートが強調される様になった。この辺はブルースの発展と非常に似た所がある。また、アコーディオンとサックスのユニゾンも、TEX-MEXではよく使われるが、これはメキシコからの「輸入」である。
これら40〜50年代のものはアーフーリーから、数多くのCDが出されているが、私のお勧めは50年代にサン・アントニオに在ったリオと言うレーベルの音源を集めた「SAN ANTONIO'S CONJUNTOS IN THE 1950s」(Arhoolie 376)である。題名通りのコンフント集なのだが、ポルカやバルスはもちろん、なんとザディコやジャイブまでもが収められている。これはちょっと興奮しますよ!!


SAN ANTONIO'S CONJUNTOS IN THE 1950s
(Arhoolie 376)

コンフントから枝別れし、現在のTEX-MEXの、もう一つの大きな流れを作っているものに「オルケスタ」がある。ベート・ビヤと言う人が、コンフントをベースにしながら、ホーンを入れ、ジャズ風味を効かせたのがそもそもの始まりだと言われている。そのレパートリィーは、マンボありポルカありボレロありと実に雑多。ジャンプがあったと思ったら、チャールズ・ブラウン風やフリオ・イグレシアス風なんてのもあり、これはかなりゲテっぽい。「ORQUESTAS TEJANAS」(Arhoolie 368)には、こんなゲテ物がてんこもり。イディアルと言うレーベルが音源の50年代オルケスタ集だ。この辺もはまったら抜け出せない。


ORQUESTAS TEJANAS
(Arhoolie 368)


さて、駆け足で紹介して来たが、まだまだ沢山のCD、LPが発売されている。
いろいろ書いて来たが、こればかりは聴いていただかないと、その素晴らしさは分かっていただけないであろう。おそらく、日本中捜しても、これだけのCDを全部揃えているレコード店はまずないはず。
あとはあなたの努力次第なのである。

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(1999年11月16日記)


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