Snooky Pryor

シカゴで一番ノイジーな男は誰だ、の巻


 
1994 Chicago Blues Festival 


「ワォ!こいつを見てみろよ!俺様も随分ハンサムだったじゃねえか。まぁ、今でも変わりはないがな!」
1994年、シカゴ・ブルース・フェスティバルを見に行った私は、幸運にも前年に引き続きバック・ステージ・パスを手に入れる事ができ、多くのブルースマンと会うことが出来た。と言っても英語を完璧に話せる訳でもなく、何となく居心地の悪い思いをしていると、そこに現れたのは、あのスヌーキー・プライヤーではないか。さっそく「Real Fine Boogie」(P-Vine PCD-2158)のジャケットをもって、サインをねだりに行ったら冒頭の雄叫びである。親戚・友人と思われる人々の間を廻り、結局私の元に返って来たのは20分もたった頃であろうか。無愛想だったスヌーキーの顔もほころび、逆に握手まで求められる始末で、恐縮しきってしまったのであった。

Real Fine Boogie
(P-VINE PCD-2158)

Boogie Twist The JOB Sessions
(P-VINE PCD-24016)

そんな、愛すべきジェイムス・エドワード"スヌーキー"プライヤーは、1921年9月15日にミシシッピー州のランバートに生まれた。父親は牧師をしており非常に厳格な家庭だったらしいが、周りで流れるブルースの魅力に取り付かれ、7歳の頃には、すでにハーモニカを始めていた。その後、ジミー・ロジャースらと共にハーモニカ・トリオを作ってプレイしていたという事は有名な話だが、当時、スヌーキーというあだ名はロジャースのものだった。
ちなみにスヌーキーの意味は、スヌック(snook)から来ている、というのが高橋"Teacher"誠氏の説だ。スヌックとは、片手を垂直に顔の前に持っていき、親指を鼻の頭に付けて他の四本の指をバタバタ揺らす仕種の事。日本で言えば「あっかんべー」と同じような意味になる。その仕種をしてみると、ほーら、ハンド・ヴィブラートをかけている格好と同じでしょう!?うーん、説得力があるなァ。

さて、その後のスヌーキーは、16歳の頃には家を出て南部諸州を放浪しはじめ、1940年にシカゴに辿り着いている。しかし、その時は数カ月滞在しただけで南部に一旦戻るがすぐにシカゴに舞い戻っている。そして、第二次世界大戦の勃発で軍隊に召集されたのだ。ところが、そこでブルース史上に残る「事件」が起こった。

俺はニュー・カレドニアの部隊に配属された。そこでメッセンジャーや郵便事務員をやっていたが、(起床合図などの)ラッパ吹きもやっていたんだ。新兵をたたき起こすためにでっかいPAシステムを使ってラッパを吹くんだよ。みんな飛び起きたもんだぜ。」「そのうち俺がハーモニカを吹ける事が分かって、USOショウ(慰問楽団)の一員として演奏するようになった。その時に、PAを通してハーモニカを吹いてみることを思いついたんだ。ウッディ・ハーマンの「フライング・ホーム」(注:ウッディ・ハーマンは30年代から活躍するジャズのクラリネット奏者。「フライング・ホーム」の方は、彼のヴァージョンよりもイリノイ・ジャケーの名演が聴けるライオネル・ハンプトン楽団の演奏の方が有名)をハープで吹いてみた。そいつはものすごくパワフルで何マイル先までも聴こえたものだぜ。」「45年に除隊してシカゴに戻って来たんだが、俺はさっそく504サウス・ステート通りの店に行って、同じようなPAシステムを捜したよ。なんたって、あいつの効果はすごいからな。そこで見つけたのは鉄製で二つのスピーカーと噛みタバコの箱みたいなマイクが付いているやつだった。」「俺はそいつを持って、さっそくマックスウェル・ストリートへ出かけて行った。そしてマイクをつないでみたんだ。イヤ、バカでかい音が出たぜ。他にこんな事をしている奴なんかいなかったしな。そして俺は、その日からでかいノイズをシカゴの街中にばらまき始めたのさ。」

彼の証言だけでアンプリファイド・ハープの「発明者」と断言するわけにはいかないが、少なくともその中の一人であった事は間違いないと思う。真偽の程は定かではないが、サニー・ボーイ氓ェ最初だという証言もあったり、真実は永遠に分からないというところであろう。
シカゴでの彼は、サニー・ボーイ氓窿^ンパ・レッド、ホームシック・ジェイムス、ジョニー・ヤングらとの演奏を経験した後、46年にはフロイド&ムーディ・ジョーンズのいとこコンビと共にバンドを結成。「スヌーキー&ザ・クロス・タウン・ボーイズ」の名前でマックスウェル・ストリートを中心に活動を始めていた。この46年から47年という年は、まさに我々が後にシカゴ・ブルースと呼ぶダウンホームなブルースが噴火活動を始めた時代であり、シカゴの街のあちらこちらで火山性微動が起こっていたのである。

さて、そんな彼らにレコーディングのチャンスが訪れたのは、47年の事。まずは、Snooky&Moody名義で「Stockyard Blues/Keep What You Got」(Marvel/Old Swingmaster22)が録音された(Aに収録。ディスコグラフィーを参照)。ところがこれは、実際にはフロイド・ジョーンズが唄っており、なぜこう言う名義になったのかは不明だ。サニー・ボーイ汳シ系と言ってしまえばそれまでだが、それまでのいわゆるブルーバード・スタイルとは一線を画した南部の匂いがプンプン香る無骨なサウンドだ。
翌48年には、再びSnooky&Moody名義で「Boogie」「Telephone blues」を録音。「Boogie」は御存じリトル・ウォルターがパクリ「Juke」と名前を変えて大ヒットした名曲だ。たった二人きりの演奏だが、ムーディーの抜群のリズム感に支えられ、信じられない位感情豊かなハーモニカを聴かせてくれる。
そして同年、さらに重要なレコーディングが行われる。それが、ジョニー・ヤングがMan Young名義で録音した「Let Me Ride Your Mule/My Baby Walked Out On Me」(Planet/Old Swingmaster 19)である(A)。ジョニー・ヤングのマンドリンとジョニー・ウイリアムスのギター、そしてスヌーキーのハーモニカが一体となって素晴らしい躍動感を産み出している。まさに「アーリー・シカゴの傑作」にふさわしい名演だ。

Snooky Pryor
(Paula PCD-11)

さらに翌49年にはJOBの第1号アーティストとなるリロイ・フォスターのセッションに参加し「My Head Can't Rest Any More/Take A Little Walk With Me」(JOB 100)を録音する(C)。ギターにリロイ、そしてベースにはムーディーという布陣である。
ところで、ここで重要なのは、リロイのセッションでのスヌーキーのハープがアンプリファイドされているということである。リトル・ウォルターが初めて録音にアンプリファイド・ハープを使ったのは51年のマディのセッションでの事なので、おそらく初めてアンプリファイド・ハープが録音されたレコードになるのではないだろうか。色々と調べてみたが、はっきりと書かれているものはなく未確認のままだが、まず間違いはないと思われる。
また、(おそらく)このセッションの際に、初の単独名義である「Boogie fool」「Raisin' sand」を録音している。こちらは生ハープを吹いているのでリロイのセッションとの音色の違いが良く分かるだろう。

その後、しばらく自己名義のレコーディングは無いが、この間にサニーランド・スリムのセッションで2曲を録音。録音は無くともマックスウェルで日銭を稼いだり(これが思いもよらず大金になったらしい)、フロイド・ジョーンズやリロイ・フォスターらと共にテネシー、アーカンソー、ルイジアナあたりをツアーしていた様だ。
そして52年から53年にかけて、JOBに対して3回のセッションを持つ事になる。
まず、52年4月に「Fine boogie」「I'm getting tired」「Going back on the road」を録音。久し振りの録音の為か、素晴らしく力の込った演奏が聴ける。なお付属のディスコグラフィーは「Blues Records」を参照したが、「Fine boogie」ではスヌーキーが「オーライ、ビッグ・ムーディー!」と声をかけてギター・ソロになるので、ムーディーがギターを担当し、他にベースが居るのは間違い無い。
また、JOB録音のほとんどの曲で、サニーランド・バンドのドラマーだったアルフレッド・ウォーレスがドラムを担当している事になっているが、私は、以前から彼にしてはあまりの芸の無さに疑問を抱いていた。ところが「リヴィング・ブルース」誌No.123でスヌーキー自身が「多くのJOB録音でドラムスをプレイしている。」と答えているではないか。彼によると、バスドラを踏みながらハープを吹いていたらしい。この発言でなぞが解けた次第である。
なお、付け加えると、ムーディはこのセッションで唯一の自己名義録音を残している。こちらも、ぜひ聴いていただきたい。

続いて52年後半か53年初頭にかけて「Hold me in your arms」「Real fine boogie」「Harp instrumental」を(たぶん)同じメンバーで録音。内容は決して悪くは無いが、52年と言えば、リトル・ウォルターがチェス/チェッカーからさっそうとデヴュー。その革新的なサウンドの前には、古臭さは否めない感じだ。
53年のセッション「Cryin' shame」「Eighty nine ten」では、アンプリファイド・ハープの使用と、ギターにエディ・テイラーを起用するなどのモダン化をはかるが、やはりどこまでもダウンホーム。あまり売れなかったことは、想像するに難く無いが、40数年たって聴く私達には、たまらないサウンドだ。
(たぶん)同年に、今度はParrot/Blue Lakeに「Crosstown blues」「I want you for myself」を録音する。前者は南部時代にアイドルのひとりだったサニー・ボーイまる出しのフレーズを聴かせ、後者ではサビ付きの8小節バラードを決めている。どこを切っても金太郎飴状態のスヌーキーにあって、異色のセッションになるのではないだろうか。また、同レーベルにはサニーランドのセッションでもハープを吹いている。

Hand Me Down Blues
(RELIC 7015)


また、この頃スヌーキーは、Chanceのウイリー・ニックス、ホームシック・ジェイムスのセッションに参加している。
蛇足だが、53年にはVJのサニーランドのセッションに参加しているが、今日まで未発表のままである。権利の有るうちにP-VINEさんで発掘してもらえないだろうか。

未発表と言えば、70年代以降に発掘されたのが「I'm going away」 「Rest a little while」「Stop the train conductor」「Stop the train conductor」「Walking boogie」である。「I'm going away」 「Rest a little while」は海賊盤の(E)に収録されているが、音質の悪さから言って、おそらくオーディション用のアセテート盤などから起こされたと思われる。Stop the train conductor」「Stop the train conductor」「Walking boogie」はコブラに録音されたもの。「Walking boogie」は正にタイトル通り、のどかに散歩をしている雰囲気。今のスヌーキー・スタイル(?)の原形と言えるのではないだろうか。
続いて56年にはVJに登場。以前はあちらこちらのLPにバラバラに収録されていたりしたが、今では(F)にスッキリまとめて収録されている。アーサー・クルーダップの改作である「Someone to love me」が若干異色だが、残りはいつものミディアム・ブギである。

さて、日本のブルース・ファンでヴィンテージ・スヌーキーと言われて思い出すのは間違いなく「Boogie twist」であろう。
このセッションは、50年代の終わりあるいは62年とも言われているが、その辺ははっきりしていない。音のはずし具合が凄まじい「Uncle sam don't take my man 」なんてのもあるが、やはり「Boogie twist」はブルース史上に残る名演だ。
また「My head is turning grey 」「I can't feel good no more」はこの時と同じセッションとなっているが、このデータはどうも疑わしい。(A)のCDジャケットに記されている様に、別のセッションでの録音で間違いないと思われる。

「Boogie twist」という大傑作を残したものの、商業的には全く成功しなかった彼だが、これは本人の力量と言うよりも、弱小レーベルを渡り歩かざるを得なかった運のなさからなのであろう。
その後の彼は、音楽の仕事からきっぱりと足を洗い大工をやっていたらしい。ところが、71年にホームシック・ジェイムスを通じて再発見され、「リヴィング・ブルース」誌に登場。演奏活動を再開してToday,Bluesway,Big bear等にアルバムを残した。またサニーランドのBluesway盤「Plays The Rag Time Blues」に参加しているという話もあるが、随所にビッグ・ウォルター風のフレーズが登場する事から、白人ハーピストであると思うが皆さんはどう思われるだろうか。
その後もKrazy Kat,Wolf,Blind Pig等から気の抜けたアルバムを発表していたが、80年代になってAntone'sの網に掛かり、91年にソロ・アルバムを発表。二度目の復活を果たしたのは皆さんも御存じの通り。 先日もElectro-Fiに移籍して新作を発表したばかりだ。私は未聴だがいつもの太いサウンドは健在の事であろう。

今回は比較的まとまってCD化されていたので非常に書きやすかった、と思っていたら、P-VINEのCDは権利が切れて、すでに廃盤になっている事を聞かされた。Paula盤だけでは不充分なので是非何らかの形で再発して戴きたいものである。
スヌーキーといえばアントンズしか知らないと言う若いファンが大勢いらっしゃるとも聞く。そんな方達に、いつまでもブルースを愛し続けてもらうためには、やはりヴィンテージ期の彼を聴いてもらわにゃ話にならんね。


Snooky Pryor Discography

SNOOKY & MOODY
V/hca with Moody Jones, g. Chicago, 1948
1. Boogie (A)(I)
2. Telephone blues (A)(I)

SNOOKY PRYOR or SNOOKY PRYOR & HIS TRIO
V/hca with Leroy Foster,g ; Moody Jones,b Chicago,1949
3. Boogie fool JOB 101 (B)(C)(J)
4. Raisin' sand JOB101 (B)(C)(J)

V/hca/Prob.d with Sunnyland Slim, p; Moody Jones, b Chicago, 28 Apr 1952
5. Fine boogie  (A)(B)(J)
6. I'm getting tired  JOB115 (A)(B)(J)
7. Going back on the road  JOB115 (A)(B)(J)

V/hca/Prob.d with Sunnyland Slim, p; Moody Jones,g ; unk, b ; Chicago, 1952/3
8. Hold me in your arms  (A)(B)(J)
9. Real fine boogie (A)(B)(J)
10. Harp instrumental (A)(J)

V/hca/Prob.d with Eddie Taylor, Moody Jones,g ; Chicago, 1953
11. Cryin' shame  JOB1014 (B)(C)(J)
12. Eighty nine ten  JOB1014 (B)(C)(J)

V/hca with Lazy Bill Lucas, p; unk, g ; Moody Jones, b ; unk, d Chicago, 1953
13. Crosstown blues  Parrot 807 (D)
14. I want you for myself  Parrot807 (D)

V/hca with Lazy Bill Lucas, p; Homesick James, g Chicago, 1954
15. I'm going away  (E)
16. Rest a little while  (E)

V/hca with unk g; b ; d Chicago, mid-1950s
17. Stop the train conductor  (A)(B)(J)
18. Stop the train conductor [take2,3]  (B)(J)
19. Walking boogie  (A)(B)(J)

V/hca with Johnny Young, Floyd Jones, g ; Earl Phillips, d Chicago, 17 Jul 1956
  A date with my baby  (unissued)
20. Someone to love me  VJ 215  (F)(G)
21. Someone to love me[alt tk]  (F)(G)
22. You tried to ruin me baby  (F)(G)
23. Judgment Day  VJ 215  (F)(G)
24. Judgment Day [alt tk]  (F)(G)

V/hca with Sylvester Sylvester Plunkett, g ; J.C. Hurds, b ; Little Joe Harris, d Chicago late 1950s
25. Uncle sam don't take my man  JOB 1126 (A)(J)
26. Uncle sam don't take my man [alt tk] (B)
27. Boogie twist  JOB1126  (A)(B)(J)
28. Big guns  (B)(J)
29. Can't we get this straight  (B)(J)
30. My head is turning grey  (A)(H)(J)
31. I can't feel good no more [alt tk]  (H)

(A)「Snooky Pryor」(Paula CD-11)
(B)「Real Fine Boogie」(P-Vine PCD-2158)
(C)「Chicago Blues Harmonicas」(Paula CD-19)
(D)「Hand Me Down Blues」(Relic 7015)
(E)「Chicago Anthology」 (Sunnyland KS-101)【LP】
(F)「Billy Boy Arnold & Snooky Pryor」(P-Vine PCD-5265)
(G)「Combination Blues」(Charly 1042)【LP】
(H)「Baby Face Leroy & Floyd Jones」(Flyright FLY-584)【LP】
(I)「Chicago Blues Hard Times」 (Indigo IGOCD 2095)
(J)「Boogie Twist The JOB Sessions」(P-VINE PCD-24016)

(1999年9月27日記)
(2000年8月23日改訂)
(2000年10月20日改訂)
(2001年8月12日改訂)


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