流石博士の経済豆知識 第2回
last update: 04/03/21
国債は本当に元本が保証される?
個人向け国債の販売に、国がやたらやっきです。国債のCMを流す金があるなら、少しでも償還したらどうかと思うのですが。国と地方合わせて680兆円借金があるんだからさ。自転車操業してるのが見え見えじゃんか・・・冗談です。
(注)自転車操業については、日経新聞・2月20日付でも指摘されてます
さて、この国債、元本が補償(保証)されるならば、一定額の利息をもらえた上で、元本が将来戻ってくるのだから「ローリスク・ローリターン」な商品ではないのか、、と一瞬思いがちですが、かなり危険な投資とも言えるのです。
そもそも、国債の金利(利息、利率)とは、例えば基本的に全額が補償される(ペイオフ時の1000万円超を除く)普通預金の金利よりも悪ければ、誰も国債など買わないから、金利は預金金利よりは高いのは当然。しかし、株式のような高い価格変動リスクはないから、株式の配当利回りよりは低い金利になるでしょう。また、なんせ国の借金だから、民間企業のように倒産はしないはずだから、民間企業の社債よりは信用があるから、社債よりはリスクも低いはず。
てなわけで、国債の金利は、預金金利<国債の利率<社債の利率<株式の配当利回り みたいな構図が基本的には成り立ちます。
ここで、問題となるのは、この金利は、あくまで現在の金利であって、将来市場金利が変動しても、国債の金利は変動しないということです。当たり前ですが、例えば毎年額面100万円の1%の利息をもらえる国債を買えば、その後市場金利が0.5%になろうが、10%になろうが、もらえる利息は毎年1万円です。
そして、結論から言えば、将来金利が上がるならば、現時点での国債購入は実質的に損であり、将来金利が下がるならば、現時点での国債購入は実質的に得なのです。金利の上昇は、債券価格の下落につながり、金利の低下は債券価格の上昇につながる、つまり金利と債券価格の関係は必ず反比例の関係にあるからです。
なんでこれが断言できるか。例えば、10年後償還で利息1%の国債を100万円買った後、1年後に普通預金の預金金利が2%になり、それが9年間続いたとします。1年後もしも普通預金に100万円預けていれば、利息として毎年2万円ずつもらえたのに、国債を買ってしまったがゆえに毎年1万円の利息しかもらえないからです。そして、この場合当然国債から普通預金に乗り換えたほうがいいのですが、このような国債を処分しようとしても、このとき市場はこの国債を100万円では買ってくれません。なぜなら、9年後に100万円が戻ってくるとはいえ、毎年1万円の利息しかもらえない有価証券であるため、そんなのを100万円払って買うくらいなら、普通預金に100万円預けたほうがいいからです。
細かく計算してみますと、利息1%で額面100万円、9年後償還の国債の現在価値は、市場金利が2%になったとすれば、
1/1.02+1/(1.02)2+1/(1.02)3+・・・・+1/(1.02)9+100/(1.02)9=91.8377・・・≒91.8 (単位は万円)
つまりは、単純計算すると、額面100万円の国債は、91.8万円でしか売れません。既に1年分の利息1万円をもらっていたとしても、割に合いません。
てなわけで、国債を買った場合、その後金利が上がると、損するのです。「10年後に100万円が戻ってくるんだから、元本が保証される」といえば確かにそうですが、もしも金利が上昇するならば、その価値は確実に目減りしているのです。だから、「元本が保証されるから株式よりは安全だ」といって投資するのは、あまりにも危険なのです。
さて、ここで「じゃあ金利が上昇しなければ、価値は目減りしないのではないか」との疑問も沸き起こります。金利とは、景気がよければ高いし、景気が悪ければ低い。普通そうです。なぜなら、景気がよければお金を借りる人が増える、すなわちお金の需要者が増えるから、金利は上昇します。景気が悪ければ、お金の需要者たる人は減るから、金利は下がるのです。
さらに、妙にインフレ率が高い国では、金利も妙に高いです。なぜなら、年間のインフレ率が1000%の国で、利息10%の債券を発行しても、絶対誰も買わないからです。
日本の場合、諸外国に比べてこれまで大変インフレ率が非常に低く推移してきた国らしいので、諸外国のありえないようなインフレ率を知りません。だから、「某国の国債が金利が高くていいじゃん、いま流行りの外貨預金だぜ」とか言って外債を買ったとしても、場合によってはそれを円で換算しなおした時に初めて大損に気づくことになります。それに、「某国」によっては元本すら返ってこないことも。最近ではアルゼンチン国債。ちょっと前のロシア国債の時には、ロシア国債にかなり投資していたLTCM(ロング・ターム・キャピタル・マネジメント)という、ノーベル経済学賞を受賞した学者が2人もいた投資ファンドが吹っ飛びました。
さて、話が逸れましたが、現在の日本は不景気です。だから金利は低いです。さて、将来金利は高くなるでしょうか、低くなるでしょうか。日本の景気が良くなれば、金利は上がるでしょうし、悪くなれば金利は下がるでしょう。おそらく、景気は良くなることはあっても、これ以上悪くなることはないでしょう。それに、仮に景気が悪化したとて、預金金利が最初に0が5ケタも6ケタも付くこの御時世、これ以上金利が下がるのでしょうか。きっと、これ以上下がらないでしょう。現在は経済学でいうところの「流動性のわな」の状態といえます。金利はこれ以上下がりようがありません。日銀が金融政策(≒金利を下げて、投資を喚起する)を遂行すべく、公定歩合を下げようとしても、もうこれ以上下げようがない、下げるのりしろが無い状況なのですから。
というわけで、金利は上がることはあっても、下がることはないでしょう。つまり、国債の価値は将来目減りするでしょう。経済学の観点からも、この「流動性のわな」の状態の際には、人々は「将来金利が上がることを予想する。だから、資産の保有形態が貨幣と債券の二者択一とすれば、現在債券(≒国債)を買うのは損であり、資産を現金の形で保有する」とされます。
それに、現在日本国政府はもう返せないほどの借金をしています。国際的には、債務危機の中南米諸国と同じくらいの扱いを日本国は受けています。まあ、返せる見込みがないんですから当然でしょう。ここで、クラウディングアウトという問題がクローズアップされるべきだと思うのです。
クラウディングアウトとは、簡単に言えば、政府が将来の資金を先取りしてしまうため、将来金不足が生じ、このため長期金利が上昇し、民間の投資意欲を減退させる・・・という効果です。結論から言えば、国が借金しまくる(長期国債を発行する)ことによって、民間における資金不足が発生し、資金の需要者に対して資金の供給者が少ない状態が発生するので、金利上昇が起こる。たとえば、資金の供給が1000万円で、100万円需要する資金の借り手が10人居たなら、競争相手は居ませんが、1000万円のうち、500万円分だけ国が国債発行の形で吸収したなら、上記の10人は、残り500万円の資金供給を巡って、争うでしょう。多少金利が高くてもいいから借りよう・・・という争奪戦が起きるでしょう。
このように、国債増発によって、長期金利が上昇します。細かく言えば、長期国債の場合は、長期資金についてクラウディングアウト効果が発生するから、長期金利上昇につながります。そして、長期金利は、結局は短期金利の積み重ねだから、長期金利の上昇は、短期金利の上昇にもつながる。だから、国債の増発は、金利の上昇につながるのです。長期金利の上昇のネタは、時々マスコミの話題になりますが、あまりクローズアップはされていません。なんとか長期金利の上昇を抑えようと、日銀・政府は必死になっていることもありますし。ただ、現状のような国債大量発行・自転車操業の下で、上記のようなクラウディングアウト効果が表に出ないことはないでしょう。景気回復と同時に、噴出・・・つまりは一気に金利が上昇するのではないかと思います。
では、なぜ現在国債発行によって金利が高くなっていないのか。それは、銀行が国債を一生懸命買ってくれているから、国も金利を上昇させずに国債を発行できているからです。つまり、低い金利であっても銀行が国債を買ってくれるから、金利が上昇しないのです。もしも銀行が低い金利では国債を買ってくれないんだったら、国は金利を上げて国債を買ってもらえるように画策するでしょう。そうすると、(長期)金利は上昇するはずなんですが。
それでは、なぜ銀行は国債を買うのか。それは、今は手元にカネが余っているけど、民間企業に貸すノウハウは無いから(≒どれが危なくてどれが危なくない企業なのか見極められないため、貸せないから)、”安全資産”、すなわち元本が保証されて利息ももらえる国債に投資するのです。民間企業にお金を回さずに、国債購入という形で国におカネを貸す。ここでも一種のクラウディングアウトは起きているのです。
しかし、上述の通り、金利が上がると、国債の価値は目減りします。銀行さんはやっと不良債権問題が一息ついたかと思えば、今度は国債の目減りという大問題に直面することになるでしょう。その前になんとか処分しないと、今度こそ本当に潰れてしまうかもしれませんね。
(04/03/21更新・ここから)
でも、おそらく、そんな状況を、銀行自身もわかっているとは思います。だから、銀行も国債を手放す機会を狙っているはずです。だから、何も知らない一般投資家に国債を押し付けてしまいたいと願って、せっせと店頭で国債を販売していることでしょう。しかし、こういう事実がわかってしまえば、国債は投売りの嵐にさらされても全くおかしくはないわけです。
(04/03/21更新・ここまで)
長くなりましたが、てなわけで、将来の金利上昇は必至だから、今国債を買うと、損なのです。
さて、こういう状況を専門家は熟知しているので、普通国債を買ってくれません。しかし、このたび「物価(インフレ)連動国債」なるものが登場しました。これは、物価の上昇、金利の上昇にあわせて、利息も上昇してくれる国債です。この国債ならば、上述のような「目減り」は原則無くなります。この物価連動国債については、2004年3月5日付け日経新聞によると、ゴールドマン・サックス証券を筆頭に、外資が積極落札したそうです。 この物価連動国債ならば、インフレまたは金利上昇による国債価値の目減りは抑えられます。唯一残るリスクは国債償還のリスク。つまりは元本が戻ってくるかどうか、すなわち日本国政府が国債について債務不履行をやるかどうか。
先日、日経新聞の「経済教室」の欄で、著名な先生が「日本国債についてもしも債務不履行を起こしたら、海外からの資金供給が一斉に引いてしまい、それこそ破滅する」みたいなことを書かれていたように思いますが(新聞の切り抜きが現在行方不明なので、裏づけがとれませんでした)、経済一流・政治三流のわが国ならば、債務不履行もやりかねません。
このような国債、果たして買うべきか買わざるべきか。まあ、日本国債が債務不履行になる時代には、日本も破滅だから・・・と考えるならば、買ってもいいんじゃないすか?ただし、買うならば「物価連動国債」に限ります。
(おまけ)
幸田真音(こうだ・まいん)著の「日本国債」上・下巻を以前読みました。日本国債について未達が発生し、金利高騰、債券暴落、企業が破綻続出、、、というパニックを描いたフィクションです。実際、この本を読む前に国債の未達が起こりました。が、パニックにならなかったですね。でも、多少パニくるほうが、財政危機を政治家及び国民に知らしめるための御灸となって、いいんじゃないかと個人的には思うのですが、、この考え方はまだまだ若いのでしょうね。
(04/03/21更新)
ひとつ言い忘れてました。結論をの一部を占める、大事な事を。仮に、元本保証されている・・・例えば、10年もの国債100万円を買って、10年後に必ず100万円が帰ってくるという保証がなされていたとします。
ここで、いきなり50年以上前の話ですが、戦時下で大陸から多くの外国人が日本に連れて来られ、強制労働を強いられた、または安い賃金で働かされていたことについて、現在までその賃金未払いについての裁判が続いていることを考えてみてください。当時のお金で「数円の未払い」について、本当に今「数円」を払って、原告側が納得するでしょうか。絶対納得しませんよね。
つまり、終戦直後はハイパーインフレが発生したため、円の価値が急落したんです。つまりは、当時の1円は、現在の10万円になるとか。上述(←ずいぶん上です)のように、日本では比較的低いインフレ率で推移したとはいっても、やはり30年前の1000円と、現在の1000円では価値が大きく違うのです。
すると、現在の100万円は、10年後の100万円とは全く価値が違うこともありうるのです。すなわち、今後(1)すさまじいインフレが発生する(2)金利が高騰する、などの原因によって、現在の100万円は徐々に目減りしていくことになるのです。普通預金であれば、たとえ金利が上昇したとしても、預金金利が上昇することにより受けとる預金金利が増えて、現在保有している預金の”目減り”は緩和されます。が、国債の場合は予め利息が契約で確定しているため、そんな効果はありません。
このような状況下で、10年後に100万円が戻ってくることが”保証”されている国債について、果たして本当に「元本が保証されている」と言えるのかどうか、甚だ疑問であります。
(おわり)