ヨーロッパでの木材認証に関する議論
トム・エドワードソン


 96年5月下旬にパリで行われたヨーロッパ森林運動(Forest Movement Europe)の会議に参加した。森林問題に取り組む西欧各国のNGOが定期的に行っている会議である。ここでは、日本ではまだあまり知られていないが欧米を中心に大きな盛り上がりを見せて いるFSCの木材認証(エコラベル)制度に関する議論の内容を紹介したい。
 この木材認証制度への取り組みは、世界自然保護基金(WWF)など のNGOや木材関連企業などにより93年10月に設立されたForest Stewardship Council (FSC)という組織が中心となって進められて いる。社会・環境・経済の側面から適切な方法で木材が生産されて いる森林経営単位(あらゆる種類の森林を含む)を独立・中立的な 機関が認証し、そこで生産された木材の加工、流通の全過程を管理 し、最終製品にエコラベルを付ける。FSCは直接森林経営単位を審 査しているのではなく、審査・認証を行う機関(certifier)を認 定(accredit)しており、これまで米国と英国の4団体が認証機関 として認定されている。FSCが採択した「森林管理に関するFSCの原 則と基準」に基づき、各地域や国毎のより厳密・詳細な基準が策定 される予定であるが、それまでは各認証機関がそれぞれの基準に基 づいて審査・認証を行っている。
 イギリス、オランダ、ベルギーのNGOの多くがFSCや木材認証制度を 強く推進する立場を取っているのに対して、特にドイツ、スイスの NGOがかなり批判的な姿勢をとっており、地域によるばらつきが感 じられた。イギリスでは96年2月時点で国内の木材消費量の約 1/4(約1000万立法メートル)を占める木材関連企業がFSCの木材認証システムを推進するWWF1995グループに加盟しており、業界を巻き込んで 大きな勢いを付けることにNGOが全力をあげているのが伺えた。な るべく多くの企業が木材認証を受け、FSCエコラベル木材を使うよ うになるための強い経済的なインセンティヴを作りながら、実際の 森林経営が改善され、一般市民の信頼できるエコラベルにするに は、どうしたらいいか、幾つかの角度から議論が行われた。
 原生林からの木材の認証を認めるかどうかについては、原生林の全面伐採禁止を強く求めるNGOと、一定の基準を満たすものなら認めるべきだとするNGOとで意見が分かれた。(原生林がまだ比較的に残っている)カナダやロシアなどのNGOが原生林の全面禁伐を要求すべ きではないと主張していることをあげて、北欧などのようにほとんど原生林が残っていない地域とは区別するべきだとの主張、森林経 営をしなければ原生林の農業用地などへの転用を回避できない場合 にのみ認めるべきだとの主張などが聞かれた。原生林を二次林に、二次林をプランテーションに転用しないことを認証の最低条件とす ることで、一定範囲の意見の一致が見られた。
 情報公開については、審査基準が各認証機関に一任されている現状 では、審査の基準と実施などについての資料を全面的に公開すべき だと強く主張する団体と、情報が漏れることによって企業が経済的 な損害を受けるものに関しては、機密保守のための一定の制約を設 けざるを得ないとするNGOとで意見が分かれた。現在公開されている抄録(Summary Report)では審査が適切に行われたかどうかを第三者が判断するには著しく情報が不足していることでは意見が一致 した。
 認証機関の中立性・独立性をどう保つかも大きな争点となった。 現在は、認証を求める企業が認証機関に直接審査を依頼し、その費 用を直接支払うシステムが取られている。認証機関の間の健全な競 争が促進されることを理由にこのシステムを奨励するNGOもあった。 しかし、認証機関の間で審査規準が統一されておらず、審査の厳し さにかなりの開きがあることが指摘されている現状では、癒着の危 険性が高く、FSCが認証機関を指名するシステムか、審査を依頼する側と行う側の間にワン・クッション置く形が望ましいとするNGOも多く、意見は分かれた。
 以上の争点を浮き彫りにする危惧すべき事例についてドイツの Rettet den RegenwaldというNGOから問題提起があった。ヨーロッパの最大手の熱帯木材業者であるIsoroy社がガボンの熱帯雨林の原生林での伐採事業の一部に対するFSC認証を求めており、FSCが認可した認証機関の一つ、SGS(英国)と共に「ヨーロッパ・オクメ憲章」("Charter Eurokoume"、オクメは木材の名称)なるものを策定し、記者発表をしているケースである。同社はこの事業が「かつて人が住んだことが全くない」地域で行われており、1 ha当たりオクメの木を3本以上切らないことを定めるガボンの法律を遵守して いることをアピールしている。SGSの人も署名しているこの憲章では、同憲章が「FSCの原則を尊重した」ものであると明記している。 しかし、原生林で一回限りの択伐をし、あとは放置するそのやり方 は「森林の長期的な使用権が明確にされ」「伐採量が永続的に維持 されうるレベルを越えない」というFSCの原則と明らかに矛盾している。同社は、ガボン政府が伐採後100年間は他社へのコンセッションを発給しないと約束していると言っているが、伐採後の同地域 の森林経営については責任を引き受けておらず、二次林の木材は質 が劣るので扱わないとまで明言している。
 ヨーロッパ森林運動会議終了後、幾つかの重要な動きがあった。6月にメキシコで行われたFSCの総会で、メンバー団体の間での投票権の割当てが変わった。それまでは社会・環境に関わる団体(NGO、 先住民族組織など)が投票権の75%、経済的利害を有する団体(企業)が25%を持っていたが、社会に関わる団体、環境に関わる団体、 企業がそれぞれ投票権の1/3ずつを持つようになり、企業の影響力が強まった。96年9月にはWWFによる日本初のFSC木材認証制度に関 するシンポジウムが行われた。朝日新聞の社説でもFSCが好意的に 紹介された。
 以上のことなどから、私はFSCの現在の方向性について幾つかの面 で危惧の念を抱かざるを得なかった。経済原理を利用して企業に環 境を守らせようとする試みで、NGOは責任をもって見守れる守備範囲を逸脱して、企業の土俵で相撲を取ろうとしている気がしてならない。今後、WWFグループに加盟した多くの企業は、その莫大な需要を満たすだけのFSC認証木材を当然求めるだろう。環境や社会の 面で本当に持続可能と言える森林経営が極めて少ない現状で、FSC は各伐採現場での状況を十分把握し、審査規準の面で妥協すること なしに、その需要や期待をいったいどうやって満たすつもりだろう か。認証機関の独立・中立性、基準の客観性、情報公開を保証する メカニズムが極めて不十分な現状のまま進めば、収拾のつかない事態になりかねない。
 また、木材認証が国際的な自由貿易体制を大前提として議論されて おり、木材の自給や地域循環の必要を唱える声が皆無だったことも大変残念だった。自国内で手をかけて生産された木材よりも、大量のエネルギーを浪費して地球の反対側から運ばれてきた輸入木材の 方が安い、自由貿易の理不尽を容認したままの木材認証では、かえ って森林・環境破壊の根本原因を見えにくくしかねない。
 何よりも危惧することは、木材認証への動きが、森林破壊によって生活を脅かされている(特に第3世界の)人たちの意志を十分尊重した形で進められているかどうかという問題である。今回の会議に 参加したカメルーンのNGOの人は、自国でのFSC木材認証規準を策定 する役目の「国内認証作業部会」を設立する会議でアフリカのNGOの意志が軽視されたことについて訴えた。カメルーンの国内の会議 である筈なのに、ヨーロッパ委員会やWWFベルギーの主導で行われ、参加していたヨーロッパ人も投票が許され、アフリカのNGOへの相談もなしにコーディネーター捜しが行われていたという。FSCの副 代表をしていたBrazilian Rubber Tappers Councilの人も、南の国々の社会問題に取り組む団体が、実質的な権限をほとんど与えられていないFSC理事会に加わることは、「自らの戦いと何ら関係ない 一連のイニシアチブに正統性を与えるために利用される」ことになる、と述べて95年3月に辞表を提出している。マレーシア地球の友 (SAM)の事務局長を長年されていたチー・ヨーク・リン氏も、96年8月に行われた世界熱帯雨林運動(WRM)会議で、NGOがFSCから手を引くよう訴えている。
 第三世界のNGOや人たちの間にも、FSCについてはいろんな意見があ るだろう。しかし、FSCの木材認証への動きが、北の国のイニシア チブで始まり、今も進められていることは否定しがたい。これから 日本でも木材認証への動きが本格化し、森林問題に取り組む活動者の姿勢が問われるだろう。FSCも、私たちの運動も、森に生きる人 たちの声に謙虚に耳を傾けることを常に出発点としなければ、問題 解決は遠のくばかりであろう。..

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