1994年連続講座第2回報告
熱帯林破壊と南北問題

★松井やより氏(ジャーナリスト)
★小柳好弘氏(林野庁木材流通課)

6/19 於:カンダパンセ801号


■サラワクについて(松井氏)

 マレーシアのサラワク州にあるバラム川、その流域の奥地にロンガンという村があります。ここはもう何年も村の人たちが伐採反対の闘争をやっており、ケニヤ人という先住民族が住んでいます。私は2回この村を訪れました。歩いて6時間か7時間くらいのところで伐採が行なわれているのですが、そこに代わる代わる村の人たちが行って道路封鎖を続けています。それは食料を生産する人手がとられてしまい、たいへんな負担になります。しばらく封鎖を続けていると今度は警察が来て彼らを逮捕していくわけです。今年の2月に判決が下り、1,000マレーシアドルを払うか、あるいは1ヶ月牢屋に入るかを選ぶということだったのですが、とてもそんなお金は払えない。10人くらい一緒に逮捕された中で1人だけ様子を早く知らせたいからとお金を払って村に戻り、あとの人たちは1ヶ月服役することになったと、サラワクから来たミニコミにありますが、ある老人は、なんで自分たちは投獄され罰せられるんだろう、何も悪いことをしたわけでも誰かを殺したわけでもなく、正直に食物を探す自分たちの土地を守っているだけなのに、貧しい家族を支えるためなのにと嘆いています。
 日本に先住民族の女性たちが来られましたけれども、断りもなく自分たちので森林を破壊して木材をもっていって、それは「盗品」ではないか、と言われたのが非常に印象に残っています。結局そのような一次産品のひとつである熱帯木材を供給する国々と先進国との関係が「盗む」関係、「収奪する」関係であるということを当事者のことばでよく表していると思いました。

■ 南北問題の構造について(松井氏)

 こうした問題がなぜ起こってくるのかということをグローバルに見て行くと、そこには南北問題があります。現在、世界中の総所得の85%は、23%にすぎない豊かな国の消費者が消費しているという状況があり、10億人を超す貧困者は1日1USドル以下の生活しかできないという「南」の現実があるわけです。熱帯林の問題を考えるには、いつも先進国のほうが得してまう国際経済の仕組みを考えないといけない。、輸出される一次産品の値段が下がって南が損をする貿易の不公正な問題を見なければいけないと思います。
 もうひとつは債務の問題です。南の国々は巨額の債務を抱えている。400億USドルくらい一年に返さなくてはいけない。「北」から「南」に流すODAというのは500億USドルとかいう単位ですから、ODAと債務の返済がほとんど違わないような状態です。ドイツのあるNGOがおもしろいスローガンを作りました。「南から北への援助をやめろ」というものです。「北から南」じゃなくて「南から北」です。色々な形で資金とか富とかがすべて「南」から「北」へと還流するシステムを変えないでおいて、その一部をその国の人びとにとって少しも得にならないようなODAとして流すよりは、債務を返すことについて、たとえば利子を1%下げるだけでどれだけ「南」の国の財政負担が軽くなるか、ということです。
 先程、所得配分のことを言いましたが、別の言い方をすると世界の豊かなほうから20%くらいの人と貧しいほうから20%の貧困層の人々との所得の格差は15:1なんですね。その格差は開きつつあって決して縮まらない状況です。なぜ開くのかというと先にふれた通り、貿易のあり方、あるいは債務、それから企業進出を通して巨額のお金が技術料だとか特許料だとか色々な形で先進国の方へ戻っていってしまうという構造があるからです。
 イギリスのスコットランドにSEADという開発教育について取り組んでいる女性たちのグループがあって、スコットランドの多国籍企業が他の国と合弁でやっている企業について色々な形で問題にしています。マドラスに世界の縫い糸の大きなシェアを占めるクォーツ社の工場があって、そこの賃金がものすごく安い。その賃金の安いマドラスの工場からあげた利益とOXFAMという世界でも有数のイギリスの民間援助団体が市民から集めて途上国に出した援助額とがほとんど同じだというんです。ですから民間の援助でお金を集めるのもよいが、それよりも、まず収奪して持ってくるという仕組みを考えなければいけないとSEADは訴えています。

■南北問題を解決していく鍵とは(松井氏)

 今、開発途上国への援助の問題を考えるときに「Enpower(力をつける)」というのがひとつのキーワードです。たとえば森林を回復する場合でも、ただ単にプランテーションを作って木を植えればいいんじゃなくて、そこに住んでいる人びとがどのくらいEnpowerされて自分たちの力で森を回復させていくかということが鍵だといわれています。そのように人間が主体となって植林計画ができるかどうかは、そこの民主主義の度合いによります。何ら土地の権利もなく、生活の手段を奪われ、何の政策決定にも参加できない状況では自主的な活動はできないのです。民主主義に反する政治的に抑圧的な独裁的な仕組みがあるからこそ、支配する側にいる人たちは勝手に大切な資源を先進国に売ることができるわけです。ですから、南北の不平等な経済構造を変えるためにも、本当の意味で民が主になるような政治的な改革が伴うこと、これが南北問題において大切なことではないかと思います。
 タイ北部のある地域に行きましたら、自分たちの力で森を守り切った人たちの村があったり、あるいは東北のほとんどハゲ山になっている所を一人の農民の力で周りを実に豊かな森に変えていくという運動がありました。それを見た村の人たちは自分たちも一緒にやろうという事になり、人工的に植えたプランテーションとは全く違い、そこに人間がいて、その人間が生きる喜びを感じながら森を回復していくという事になっている。植林の国際協力の場合に、あくまで相手の国に住んでいる先住民族や農民が主体になった森林回復計画でなくてはいけない。森林の破壊を阻止するためにその地域の中の民主主義というものがどんなに大切かということ、さらにそれを回復する過程において人々の参加という形でやはり民主的に植林をしていかなければ、本当の意味での森林の回復にならない。それを私は非常に強く感じたわけです。

■木材消費と貿易に関する林野庁の見解(小柳氏)

 世界の木材の生産量全輸出量ですが、3億7千3百万m3が輸出されており、日本の輸入量は8千1百万m3、全輸出量の2%です。その内、丸太の形で輸入しているのは3千万m3で全て産業用材という事になります。アメリカ、カナダからは針葉樹の丸太が入って、その他にロシア、ニュージーランドの人工林、南洋材としてはマレーシアから丸太という形で入ってきます。
 紙の原料となる木材チップですが、これは木を細かい小片状にしてそれを溶かして紙を作るわけですけど、小片状にしたものをチップと呼んでいます。これは丸太に換算し直すと2千3百万m3となります。
 さらに製材は1千2百万m3ですけど、これは特に建築用で家をつくる時などに使われる柱などです。それとパルプについてもカナダ、アメリカ等から輸入されています。合板で5百万m3輸入していますが、これはほとんどインドネシアから熱帯材の合板になったものが輸入されております。数字的には少ないのですが針葉樹の合板が輸入されています。その他に、合板用の単板として南洋材の関係でマレーシア辺りから輸入されています。

■ITT0と日本(小柳氏)

 熱帯木材に関する国際的取り組みという事ではITTA(国際熱帯木材協定)の第一回理事会でITTO=国際熱帯木材機関が設立される事に決定され、このITTOの本部は日本に1986年に開設されました。本部が日本に置かれたという事は日本が熱帯木材の最大の輸入国となっており、日本としても積極的に誘致したという経緯もありました。ITTOは熱帯木材の安定的供給などを目的としており、協定自体が目指すものが経済成長と環境保全の両立を図って行く、持続可能な開発を目的として活動してきているというわけです。加盟国は生産国が(これは開発途上国と同じであると言って良いと思います。)27ヶ国、消費国の方がヨーロッパ共同体も含めると53ヶ国となっております。他にもオブザーバーという形で環境国際機関、FAOだとかの国際機関、木材産業の団体、それからサラワクキャンペ−ン委員会も含まれるとは思うのですが、環境保護団体、NGO等もITTOに参加しています。
 ITTOの具体的活動としては、生産国から森林開発計画など重要なプロジェクトの提案が出て、理事会がこれは重要であると判断するとその事業に対してITTOが資金を供出するというのがあります。
 日本もそうしたプロジェクトなどの活動の財源としてITTOに対して平成5年度(1993年)には外務省、農林水産省合わせて約16億数百万円という金額を供出しました。日本の供出割合が全体の供出の約6割という形になっています。ちなみに消費国の中でも日本は熱帯木材の輸入量のうちだいたい半分ぐらいを占めており、それ相応の貢献もしなければいけないという事でそれだけの負担がなされているわけです。

■日本政府の取り組み(小柳氏)

 さて消費国の日本として、できる事はしていかなくてはならないわけでが、熱帯木材貿易の3原則というのをつくっております。
 まず一つは「熱帯木材貿易のモニタリング」と呼ばれるものです。それは、どういう形で熱帯木材が輸入されているのかという調査や今後木材貿易がどうなっていくのか、持続可能な経営といった場合どのくらいの木材の生産が可能であるのか、持続可能な経営にかかるコストはどれくらいかといった問題に取り組むものです。
 2つ目は「熱帯木材の付加価値の向上」です。これはただ丸太の状態で輸出するのではなく、現地で製材し合板にするとか、最近ではパーティクルボードにするなど二次加工、三次加工に取り組むという事です。
 3つ目は「熱帯木材消費の合理化」です。例えば、合板も型枠として1回から2、3回だけ使って捨てられてしまうものではなく、何回も使えるようなものをつくっていく。さらに針葉樹を使った合板など原料転換の技術開発だとか、型枠のリサイクル、廃材を細かく小片に砕いて再利用するなどの技術開発も含まれます。


質疑応答

Q.日本が悪いということであれば、私はエビを食べませんとか、そこまで踏み込んで日本の草の根の意識を高めていくような活動をするべきではないかと思いますそういった意味で松井さんはどのような活動をなされていますか。

A.(松井氏)私が熱帯雨林のことに関わるようになったのは1986年の秋にマレーシアのペナンで開かれた第三世界森林資源危機会議というNGOの会議に出てからです。ほぼ10分おきにジャパン、ジャパンとあらゆる国から言われ、私は非常に深く恥じたんです。私はその頃シンガポールの特派員をしていて熱帯雨林の記事を何本か書いたことがありましたが、先住民族の人たちがこれほど傷ついているということに、そのとき初めて気がついたんです。
 なぜこんなに大きな問題が日本では知られていないかというショックが大きく、それは日本のマスコミ、ジャーナリストに問われていることだと思いました。私はすぐ、その年の暮れにサラワクに入り、先住民族の人たちと生活を共にして実態をお伝えしたわけです。一番ショックだったのは伐採労働にたずさわらざるを得ないように追い込まれている状況でした。暮らしていこうにも他に職業が無い。そして若者たちがばたばたと伐採事故死んで、血まみれになった遺体が届けられるとが、現実にサラワクではあるのです。数字から見ても、伐採事故の死亡率はものすごいです。そういうことを飛行機でわずか3〜4時間しか離れていない所にいるの日本人はなぜ知らなかったのか。日本の林学者は何をしていたのか、誰のための学問なのか、勿論ジャーナリストが問われたのですけれども……。今私がやれることの一つは、そういうことを皆さんに伝えることです。
 生活の在り方を変えなければいけない。その通りだと思います。私はエビなどはあまり食べませんが、そういう日常生活の変化というのは、ひとりひとりがある程度実践していかなければならない。しかし、構造的に誰がそういうことを引き起こしているのか。やはり多国籍企業のグローバルな支配、第三世界での再植民地化、新しい植民地主義というような南北の構造的なものは学習していかなければならないと思います。南北問題というのは去年の先住民族年で分かるように500年前からの西欧による先住民族、アジア、アフリカに対する支配の結果として起こっているのですから。バナナ一本で誰が泣いているのか、世界の不公平な経済についてを考える広い視野も必要と思います。個人生活の変革と同時に、やはりキャンペーンを組織して運動を強めていく。両方が必要と思うのです。本当に非力で申し訳ないのですが、私が感じているのはそういうことです。


Q.小柳さんにですが、熱帯雨林と環境問題というのは貧困を抜きにしては考えられない、現地の人々が食べて行けるような仕事を作るという事を援助の考え方の一つとして入れるべきではないかという風に考えています。それについてはどのようにお考えですか。

A.(小柳氏)生活の安定、生活をもっとよくしていくには食料を増産していくことが必要です。そして食料増産だけではなく、換金作物、商品作物をつくって必要な物を買う事になります。このように第一次産品を加工して地元にお金が落ちるようにしなければならない。
 個人的な意見を言わせてもらえば、今の熱帯木材の価格は安すぎると思います。木材が安く、ただ切って売るだけで何も残らないという形から、木材をできるだけ高く買い、長持ちさせて、高い分、地元に多くお金が残り、持続可能なコストとして山に還元されて使われるというスタイルに変えていかなければならない。木材の価格というのはもっと高くなってもいいんじゃないかと考えています。
 また、木で製材を1m3立方つくる時の消費エネルギーは鋼材やアルミニウムを1m3つくるの時0.5%で済むわけです。もし環境の面で考えるのではあれば、どういう材を使ったらいいのかトータルな面で考えなくてはならない。ただ木材だからダメというのではあります。法隆寺は1,300年もっているわけです。そのように出来るだけ環境に負荷がないものを出来るだけ長く使っていくという事が必要だと思います。


Q.自由貿易と環境問題ではどこが問題なのでしょうか。

A.(松井氏)いま自由経済が世界中に広がっています。そのために誰が犠牲になっているかという事を世界のNGOが問題にしています。自由貿易では児童労働、子供たちの奴隷労働や囚人労働でつくられた商品の貿易はやめようと話が出されています。そういった人権や環境といった基準をつくり、民衆が貿易や経済をどのようにコントロールしていくかが課題となっています。

※お話しを編集部でまとめました。


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