魚眼レンズによる画像から、通常のレンズによる画像への変換


 多くの人が、幼稚園や小学校の写生大会などで思い悩むことがあるでしょう。
それは、射影の問題。すぐ目の前に、とても高いビルがあるとします。そして、
そうですね、ビルの 3Fぐらいまでを画用紙に入れようと思ったとしましょう。
人は地面や窓を直線や長方形で表現することになります。

   building_rect

 ちょっと上を見上げて、5Fから 20Fの部分だけを描いてみるとしましょう。
遠近法という言葉を知らないとしても、写生という「見たままを切り取る」こ
とを覚えたばかりの小さな芸術家の画用紙には、台形が描かれると思われます。

   building_trapezoid

 そう、ここで発生するのが最初に指摘した悩みです。それは: ■ ビ ル 全 体 
を 描 く こ と は で き る の か 。

 少し思い悩んだ結果、おおかたの人の間では、台形と長方形の疑問は"構図の
問題"として葬り去られてしまいます。悩みぬいた挙句に、下のような絵を描い
てしまう人は、ほんのわずかのようです。

   building_barrel

 しかし、この人たちは、魚眼レンズで写した写真を見た時に、ある種の革命を
感じたはず。これだ!! 人間の目には、本当はこう映っている!! 直線のものが直
線に見えるのは、目ではなく脳の働きなのだ、と。それは"平行線は交わらない"
というユークリッド幾何学的世界観からの解脱とも言える革命でした。ビルの高
さ方向の平行な外形は、はるか上空では一点に収束することが明らかですから。
いや、高さ方向だけではありません。すべての構成要素は、曲線的に収束するこ
とになります。目の前に巨大な網戸があったとすると、左右を見ても真上真下を
見ても、平行に編まれている網は一点へ収束して行きます。 

   curved_convergence

 人間は、網膜に映った映像をアタマの中で再構成しているのでしょう。中心
部以外の視力は極端に低いとは言え、一応、人間の視界は 180度近くあります
が、これは目または"意識"を中心とした半球状の世界ととらえられます。網膜
上でも、それは球面上にマッピングされていますので、平面の紙に射影させる
のは無理があります。それでも人間は、まっすぐなものはまっすぐに見えるは
ず!という信念、学習、または錯覚によって、ビルを台形に表現してしまうので
した。

 ピンホールカメラの発明がレンズによる結像に進化し、画角を広げるためにレ
ンズの焦点距離が短くなってきた時代、この信念がレンズの設計に大きく影響
したことは容易に想像されます。要は、周辺部を放射方向外側へひっぱれば、直
線の物体を直線にしたまま平面へ投射することができるわけです。こうして、
超広角レンズの周辺部の放射状に歪んだ形式は、文化的に許諾されました。明ら
かにパース(パースペクティブ、遠近感)を強調しすぎてしまい、建物の角が 90
度以下の鋭角になってしまっている高層ビルの画像を建築のチラシなどでよく
見ますが、これも妥協の産物なのです。

 全周魚眼、または円周魚眼という種類のレンズでは、乾板・フィルムまたは 
CCDなどの平面受光素子上に、円状に囲まれた画像が結像します(ちなみに光学
系の中には、シュミットカメラのように、焦点面が湾曲しているものもありま
す)。Nikonのお化けキノコのように 180度を大幅に超えた画角を持ったレンズ
もありましたが、多くは 180度前後、すなわちカメラを真上に向けても真下に
向けても、円周部分が地平線となるような設計になっています。また、写った
面積は、被写体の立体角に比例するものがほとんどです。要は、真上に向けて
雲の面積が 20%だった場合は、実際の雲量も 20%である、というわけですね。
被写体の立体角が面積に比例するので、中心から離れるほど、画像は円周方向
(放射方向と直角)に湾曲しつつ伸びるということになります。

 逆に考えると、円周魚眼の画像は、周囲を放射方向に伸ばすような数学的な変
換を施すことによって「普通の」、すなわち直線が直線に表現されるような画
像に加工することができるわけです。例えばオリジナルの円周魚眼の画像(画角 
180度):

   original_fisheye

に Panorama Toolsという freewareを適用し、正方形で縦横 150度の画角に変換
加工をすると、こうなります。この建物の天井骨組みはもともと湾曲しています
が、右に見える柱や壁面の直線、奥や左側の壁に見られる直線が、直線として描写
されているのがわかります:

   fisheye_converted

 既述のように、周辺には極端な歪み(伸び)が出ていますね。これをまぁなんと
か使える程度に、中心部を切り抜いて 2:3にしたものがこれ↓です。相変わらず
パースはかなり強調されていますが、横(水平)方向の画角が 110度ほどでしょう
か。つまり 35mmフィルム用のレンズとして 14mmぐらいの、超広角レンズで撮影
したような画像になっています。

   fisheye_converted_cropped

 全周魚眼レンズによる画像は、合成することで俗に言う「ぐりぐりムービー」
(真上や真下も見られる;QuickTimeプラグインによるおよび説明)に変換する
こともできます。2009年現在、Flashプラグインをつかった「ぐりぐり」は、
Google Streetviewによって非常にポピュラーになりました。たいへん喜ばし
いことです。


[参考] PanoTools
ttp://photocreations.ca/panotools/index.html
PanoTools12_2007Apr25.zip [Version: MinGW 2.8.6  Size: 894KB]
をインストールし、Photoshop pluginsフォルダ内の PTAdjustの拡張子を 8BF
に変更。Photoshopのプラグインフォルダに移動、pano12.dllは system32かど
っかの下に移動。円周魚眼の円周が接する正方形で切り抜いた画像を 
Photoshopで開き、フィルタから PTAdjustを選び、Use Option右の[Set]から、
上部を 180・縦ピクセル・横ピクセル、Fisheye Circleにセット。下部は取り
出したい画角・縦ピクセル・横ピクセル、Rectilinearとすればおkです。


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