幕間狂言
●交錯する矜持!
フェザーン地下最大トーナメント!!
これにてAブロックの試合全てが消化されたこととなった。
そして、手元にあるパンフレットを見る自治領主ルビンスキーの目を
細めるに充分すぎるカードが次なるBブロックにも目白押しであった……。
ヤン・ウェンリーVSサイファー・アルマシー!
砂柄 実保VS四乃森蒼紫!
ラヴァVS竜堂 始!!
そして、
「A・Hの最終兵器」伊倉雅弥VSケイン・ブルーリバー!!
「こりゃタマランわぃ………」
一方、共同控え室では、その伊倉雅弥と「真夜中の鴉」壬生九朗が奇妙な
稽古をしていた。
一種の型稽古なのか、双方とも非常にゆっくりとした動きで突き、蹴り、斬撃、刺突
の寸止め組手を行っていた。
「オレも、クロウさんとあの稽古したことがある……あの太極拳みたいなゆっくりした
稽古を………躱せなかったよ、一発も」
「僕もですよ。砂柄さん」
話相手の祐希の言葉に実保は驚きを隠せなかった。
「あの稽古は見た目ほど楽じゃない。それを……すごいなぁ……あの人は、
本当に剣術を完成させたのかもしれない」
そう言うと祐希は頭部を右下方にスウェーさせた。数本の頭髪が、不意打ちで放たれた
実保の後ろ廻し蹴りの為に舞っていた。
「覚えておけ!Bブロックから上がるのはオイラだ!」
坊ちゃん剣術に見せてやるさ……雑種の強かさってのをよ……。
「はい?」
「キサマに話がある……」
稽古中の雅弥に軍用ベレー帽を被った弁髪の男が近づいていた。
「ヤン・ウェンリーだ……一体何の用だ……」
周囲がざわめきだす中、雅弥が悠然とヤンに相対した。
「伺いましょ」
「我々共和主義者を差し置いて、剣術を完成させたとはどういう事だ……」
「いや、どういう事って……僕がいってるわけじゃないからなぁ……」
とぼけた若造の言葉に、ヤンの表情がさらに歪む。
「いかなる物にもベストではなくベターを目指してきた、我々共和主義四〇〇〇年の
歴史を侮辱する言葉だ………ただちに訂正しろッ」
「どう、訂正するんだい?」
飽くまで飄々とした態度を崩さない雅弥に、激昂寸前、と言った風のヤンが淀みなく
こう言い放った。
「我々共和主義から伝わった武術を不完全に継承し、それで功が成ったと勘違いしている、
愚かで不完全な闘技者です……ッ」
この無茶苦茶な要求に、周囲の緊張が一気に高まった。
「……出来ると思う?ソレ」
「貴様の考えを考慮する気は無いッッッ!!!」
「雅弥………」
クロウの視線を感じて否か、雅弥の「空気」が好戦的なものに変わりつつあった。
「ふぅん……どうすれば納得してもらえるのかなぁ……この場で君に
『完成された剣術』を見せればいいのかなぁ………」
綻(タン)!!
ヤンがついに蟷螂拳の構えを取った!
「艦隊旗艦はスパルタニアンを叱らないという諺があるが、私の考えは異なる」
「ボクがスパルタニアンではなくサイコ・ガンダムかも知れないとは考えなかったのかね
ブルース・リー君」
「おい……!」
一触即発の両者の空気を裂いて、一人の男がヤンに迫った。
「一回戦の相手は俺だぜ………」
バラム・ガーデン風紀委員、サイファー・アルマシー!!
「何ならここで相手してやろうか………ッッ!」
●偉大な「まま先生」!
「何なら今ここで相手をしてやろうか……」
雅弥に突っ掛けかけたヤンに、風紀委員サイファーが詰め寄っていた。
「君には関係の無い事、口出しは無用だ。隅でセコンドの風神雷神とトリオ漫才
でもやっていろ!」
「そうは行かない。お前が僅かでも傷つくことは、俺の勝利をも傷つける事になる」
その発言に、今度はヤンとサイファーの空気が歪み始めた……。
「キサマの勝利だとぉッッッ!?」
真っ赤な顔面を皺だらけにしたヤンの激昂を正面から受け止めたサイファーが、さらに
続けた。
「そうだ。俺はこの大会の優勝を偉大なまま先生と我が母校バラム・ガーデンに捧げる事
にしている」
「……マズイんじゃね〜の〜。このタイプにそういう言い方ァ……」
雅弥の小馬鹿にしたような言い方はともかく、内容は的確だったようだ。
ヤンは、すでに卒倒寸前の怒りの余り白眼にさえなっていた。
「愚か者が!!」
両者、乱闘突入か!?その時、さらに一つの影が現れた。
「見え透いてるぜ、お前らのやり方ァ……戦う気持ちが折れちまったんで問題起こして
失格になろうって腹かい」
身長5mの超肉体、不二。
どいつもこいつも……………。
祐希や実保にいたっては既に呆れモードに突入していた。
「それ以上の侮辱は許さん……」
静かな口調のサイファーを嘲笑いながら不二が風紀委員の白コートの襟を掴んだ。
「闘技場へつまみ出してやろうかぃ………」
次の瞬間、不二の顔面が炎に包まれた!
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!」
そして、次の瞬間には逆手に握ったガンブレード「ハイペリオン」が唸りを上げて衝撃波
を巨人の右腕に叩きつけた!!
始末剣・雑魚散らし!!
「ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
粉砕骨折した右肘を押さえ悶絶する不二を見下ろしながら、サイファーの精神は時を
遡行した………。
北方の雪国、トラビア。
「引く力こそ始末剣の力だ!早く引き上げるンだサイファー!!」
サイファーは偉大な師、まま先生、魔女イデアの檄を受け、命懸けの荒行を敢行中であった。
石炭を満載したトロッコを、己一人の力で引き上げるという荒行を!!
「早くしないと、何もかも凍り付いてしまうぞ!!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ」
すでにサイファーの裸の上半身は氷の装束を纏いつつあった。
それを見た魔女は、コートを脱ぎ捨て、薄手の服一枚の体を凍土の風に晒した!!
「血を滾らせるんだサイファー……このトロッコを引き上げられたのなら、キサマに
勝てる人間はあらゆる時空に存在しない!!」
サイファーの、血が、滾り始めた!!
「ハラショー・サイファー!ハラショー・サイファー!!ウラー・バラム・ガーデン!!!」
トロッコが引きあがる!引きあがる!!
「ハラショー・サイファー!!ハラショー・サイファー!!!」
やがて、トロッコが引き上げられた時、彼を捕らえつつあった氷の装束が熱き血潮の前に
湯気となっていた。
「さすがにチョット冷えるのぉ……ウォッカでも飲もか……」
弟子とは対照的に、全身が氷結しかかった「まま先生」が、労いの言葉を掛けた……。
「礼はいわぬぞ、風紀委員……獲物を横取りされたのだからな」
不敵な笑みを浮かべるは、共和主義者も風紀委員も同じであった。
「第一回戦!Bブロック第一試合!!」