「ボー(baud)」と「bps」について

PC-8801の現役時代初期、記録メディアにはカセットテープもよく用いられました。 データを音声情報に変換して記録、再生時に復号するものですが、速度のスペックを「600/1200ボー」などと表記するのが一般的でした。

その後、RS-232C経由でモデムなどをつなぐことも一般化しましたが、こちらは「1200/2400bps」などと表記することになり、「2400ボー」とは呼ばなくなっていきました。 LAN/WANが一般的になった今でも、通信速度の基本単位は「bps」です。

ここでは、「ボー」と「bps」という単位の違いを記すことにします。

それぞれの単位について

ボー」は baud と書き、意味は「変調速度」です。 デジタル信号をアナログ信号に変換(D/A変換)して伝送したり、記録したりする際の速度を表します (逆変換のアナログ信号をデジタル信号に変換(A/D変換)も同様です)。

bps」は Bit Per Second で、純粋に1秒間に伝送できるビット数を表します。 こちらはD/A・A/D変換は関係ありません。

カセットテープ(コンパクトカセット)

カセットテープ(コンパクトカセット)は、一昔前によく利用された、音声(音楽)を録音・再生するためのテープのことです。

1980年代前半、フロッピーディスクドライブは高価なものでした。 パソコン(当時はマイコンとも。以下PCと表記)では、フロッピーディスクよりも前の時代には、カセットテープに保存することが一般的でした。 当時カセットテープは音楽録音用に広く普及していて、比較的安価に入手できました。 カセットテープは「音」を記録するためのものなので、PCではデジタルデータを「音」に変換すればいいわけです。

規格は各社各様といったところですが、広く知られているのは「カンサスシティ・スタンダード」や、その改良版である「サッポロシティ・スタンダード」です。 単位の話からは逸れてしまうので、ここでの詳細は省きますが、いずれも

といったあたりの仕様でした。 1変調につき1bitを記録できたので、カセットテープに関しては多くの場合 が成り立ちます。 ざっくり言うと、PC-8801などの1200ボーのカセットは1200bpsということになります。

アナログモデム

アナログモデム(以下モデムと表記)は、公衆回線(電話局から引かれた電話線)を使って、他のコンピュータ等と通信を行うための機器のことです。

1985年、電電公社からNTTが発足します。このタイミングで、電話機やモデムを公衆回線に接続することができるようになります(通信自由化)。 PC-8801mkIITRが出てきた経緯も、そういったことからのようです。

88TRも搭載したモデム(modem)とは、MOdulator - DEModulator(変調器・復調器)の合成語です。 電話回線は音声を伝えるものなので、公衆回線では音声に変調して、接続先でデジタルデータに復調するということです。 「デジタルデータを音に変える」という点はカセットテープと似ています。 ただ、両者を聴き比べた人なら違いが分かるでしょう。音質は全く別物です。 簡単に言えば、電話回線の音はこもりがちで、高い周波数は伝えられません。

メディア 周波数帯域 [Hz] 備考
電話回線 一般加入電話 300 〜  3,400 電話局より線をひいた固定電話
VoLTE 50 〜  7,000 Voice over Long Term Evolution. LTE網で音声通話およびビデオ通信を実現するための技術
VoLTE(HD+) 50 〜 14,400 さらに高音質なEVSコーデックにも対応したVoLTE
カセットテープ TYPE-I 30 〜 12,000 ノーマルテープ。PCで主に使われたのはこれ。
TYPE-II 20 〜 15,000 クロムテープ。ハイポジション。
TYPE-IV 20 〜 18,000 メタルテープ。
CD CD-DA 20 〜 20,000 一般的な音楽CD。
ラジオ放送 中波放送 100 〜  7,500 日本国内におけるAM放送。
超短波放送 50 〜 15,000 日本国内におけるFM放送。

*VoLTEなどは当然当時存在しない規格だが、参考のため併記

音質は良くない伝送路でしたが、データの大容量化で高速化は避けられない問題となります。 そこで考えられたのが、「1変調で複数bitを送ろう」という発想でした。 変調方式の変化とともに、倍率も上昇していきました。

規格 baud 変調方式 倍率 bps 規格制定年
V.21 300 FSK 1.0 300 1964
V.22 600 QPSK 2.0 1,200 1980
V.22bis 600 16QAM 4.0 2,400 1984
V.32 2,400 16QAM 4.0 9,600 1984
V.32bis 2,400 128QAM 6.0 14,400 1991
V.34 3,200 TCM 960QAM 10.7 28,800 1994
V.34 3,429 TCM 1664QAM 10.7 33,600 1996
V.90 8,000 TCM PCM 7.0 56,000 1998

この表を見ると、たとえば 2400bps のモデムは 1200baud ということになります。 PC側(デジタル側)から見たら、2400bps の方が必要な情報で、アナログ側が何 baud で変調していようが構わないわけです。 こういったことから、PCから見たモデムの性能は bps で判断するのが妥当です。

アナログモデムも、伝送路がISDN、ADSL、CATV、光回線(FTTH)と高速な回線が普及していくことで、その役目を終えていきました。 以下、一般家庭向けの主な通信方式についてまとめました。 bpsの右側の列は、SI接頭語(k, M, G)を展開したもので、桁の増え具合が分かりやすいようにしています。

伝送路(有線) bps 備考
音響カプラ 300kbps 300bps 公衆回線。受話器にかぶせる機器で、接続先は人がダイヤルする必要があった。
モデム 〜56kbps 56,000bps 公衆回線。ほとんどのモデムは、コマンド送信でダイヤルする機能を持っている。
ISDN 64/128kbps 128,000bps Integrated Services Digital Network:サービス総合ディジタル網。INSネット64のものを例示。128kbpsはBチャネル2本使用時。
ADSL DL 12〜40Mbps 40,000,000bps Asymmetric Digital Subscriber Line:非対称デジタル加入者線。上り(UL)・下り(DL)の速度が非対称。
UL 3〜5Mbps 5,000,000bps
CATV DL 320Mbps 320,000,000bps Common Antenna TeleVision:TV共同受信。 ケーブルテレビ、事業者・プランにより異なる。
UL 10Mbps 10,000,000bps
FTTH 1〜10Gbps 10,000,000,000bps Fiber To The Home. 光回線、事業者・プランにより異なる。
伝送路(無線) bps 備考
PDC 5.6〜11.2kbps 11,200bps Personal Digital Cellular:日本の第2世代携帯電話(2G)。
cdmaOne/CDMA2000 1.2〜9.6kbps 9,600bps 第3世代携帯電話(2.5G/3G)。国内ではKDDI/沖縄セルラーで採用。
W-CDMA 1.95〜12.2kbps 12,200bps 第3世代携帯電話(3G)。国内ではNTTドコモ/ソフトバンクモバイル等で採用。
PHS 32kbps 32,000bps Personal Handy-phone System.
LTE DL 10.29〜299.5Mbps 299,500,000bps 第3.9世代携帯電話(3.9G). 複数の帯域を束ねることが可能となっている。
UL 5.16〜75.37Mbps 75,370,000bps
LTE-Advanced DL 301.5〜603.0Mbps 603,000,000bps 第4世代携帯電話(4G)。
UL 51.02〜102.0Mbps 102,000,000bps

年表

1976
[PC] カンサスシティスタンダードが定義される。
1978
[PC] SHARP MZ-80K出荷。
1979
[PC] NEC PC-8001発表。
1981
[PC] SHARP MZ-80B発売。
[PC] PC-6001/8801発売。
[PC] FUJITSU MICRO 8 (FM-8)発売。
1982
[PC] SHARP X1発売。
1983
[PC] NEC PC-8801mkII発表。FDD内蔵。
1984
[PC] SHARP X1turbo発売。FDD内蔵。
[PC] FUJITSU FM-77発売。FDD内蔵。この頃、カセットテープからフロッピーディスクへの世代交代が進む。
[通信] 電電公社がキャプテンシステムのサービスを開始(V.27ter:ダウンリンク4800bps、アップリンク75bps)
1985
[通信・モデム] 電電公社の民営化・NTT設立。民営化に伴い制定された電気通信事業法第49条において、接続しようとする端末設備が技術基準等に適合していれば、全ての端末機器(モデムも含む)を公衆回線に接続できるようになる。
[PC] NEC PC-8801mkIITR発売。300bpsのモデムホン搭載。
[パソコン通信] アスキーネット実験サービス開始
1986
[PC] SHARP X1turbo III発売。JIS第一・第二水準漢字ROM内蔵。
[PC] FUJITSU FM77AV40発売。JIS第一・第二水準漢字ROM内蔵。
[パソコン通信] PC-VAN運営開始・日経MIX実験サービス開始
1987
[パソコン通信] NIFTY-Serve開局
1988
[通信] INSネット64、INSネット1500の商用サービス開始。メタル回線を用いたデジタル通信。
[パソコン通信] ASAHIパソコンネット開局
1990
[PC] IBM DOS バージョンJ4.0/V発表。漢字ROMを持たないPC/AT互換機で日本語表示に対応したPC DOS。
1992
[通信・ISP] AT&T Jens(現SpinNet)、インターネットイニシアティブ(IIJ)がISPとしてサービスを開始。
1994
[パソコン通信] People開局
1997
[パソコン通信] アスキーネット、日経MIXサービス終了
2000
[通信] 東京めたりっく通信が東京23区内で商用ADSLサービス開始。ADSLはISDNより高速だが、当初はISDNと干渉することが問題視された
2001
[通信] Yahoo!BBサービス開始。ADSLモデムを無料配布していたことで知られる。
[通信] FTTH接続が都市部で開始。
[パソコン通信] PC-VANパソコン通信サービス中止、Peopleサービス終了
2006
[パソコン通信] NIFTY-Serveパソコン通信サービス終了
2019
[パソコン通信] ASAHIパソコンネットサービス終了
2024
[通信] 公衆交換電話網がIP網へ移行した。INSネットの「ディジタル通信モード」も提供終了。

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