宝塚花組
上方絵草紙
「近松・恋の道行」
CHIKAMATSU KOI NO MICHIYUKI





STORY




道頓堀の竹本座では、
徳兵衛とお初の心中事件に題材を取った、
近松門左衛門の人形浄瑠璃「曽根崎心中」が上演され、
巷で大評判を呼んでいる。

天下泰平の世にあって涙に飢える人々の心に、
恋に殉じた徳兵衛とお初の物語りは一体何を訴えるのか・・・。




ある雨の日。

茶碗商を営む一つ屋の跡取り息子嘉平次は、
生玉神社境内の水茶屋で、偶然、
一人の女に出会う。

さがという名のその女は、
新伏見坂町にある柏屋の女郎であった。

ふと見つめ合う嘉平次とさが・・・。

二人は惹かれ合うものを感じるが、
それも束の間、
さがは柏屋の遣り手お香に呼ばれ、
去っていく。

その姿を見送りながら、
嘉平次は生まれて初めて感じる想いに胸の高鳴りを覚えるのだった。




柏屋では、さがの妹女郎、
小弁が体調を崩して臥せっていた。

浅野内匠頭の家臣原惣右衛門の妾の娘である小弁は、
赤穂浪士として父が本懐を遂げた後やむなく女郎に身を落としていたが、
かつての生活との違いから廓に馴染めず、気を病んでいた。

そんな小弁にさがは、
退屈凌ぎにと「曽根崎心中」の浄瑠璃本を手渡す。

愛しい人のため命をも捨てる徳兵衛とお初の恋に想いを馳せながら、
さがは嘉平次の面影を思い浮かべるのだった。

その頃同じく、
さがへの狂おしいまでの恋心に身を焦がした嘉平次は、
意を決し柏屋へと向かう。




数週間後、柏屋の奥座敷では、
近松門左衛門の次男鯉助が女郎を総揚げして酒をあおっていた。

鯉助は父と同じ道を志すも、
名声を博す父には到底及ばない自分に嫌気を起こし、
遊び呆けていた。

小弁も座に加わり、鯉助の相手をしていたが、
酔いに任せて言い寄る鯉助を咄嗟に拒んでしまう。

座敷を飛び出した小弁は、
様子を窺っていた出入りの小間物商、清吉に呼び止められる。

小弁の父に使えていた足軽の息子である清吉は、
小弁が柏屋に身を売った後も、
常に側で支えとなっていたのだ。

清吉の優しさに触れた小弁は、
思わずそれまで抑えていた清吉へのひたむきな想いを打ち明ける。

小弁の一途な恋心を知った清吉は、
もはや制する事の出来ない小弁への恋慕の情に身を任せていくのだった。




同じ時、柏屋の一室では、
嘉平次がさがと逢瀬を重ねていた。

さがと出会い、
初めて生きる喜びを知った嘉平次は、
さがを身請けし、
一生の契りを交わす事を約束する。

一つ屋の大切な跡取りが、
女郎のために道を外してはならないと、
さがは嘉平次を案じるが、
必ず女房にするという嘉平次の言葉に、
さがの心はこの上ない幸せで満たされるのだった。




一方、嘉平次が女郎に現を抜かしているとの噂が日増しに広がり、
嘉平次の父五兵衛は、
さがと別れなければ勘当すると嘉平次に厳しく言い放つ。

店を飛び出した嘉平次は、
幼馴染の長作と落ち合う。

嘉平次は先頃、
さがを身請けするための金を工面しようと、
長作が持ちかけた儲け話に手を出し、
借金を負っていた。

恋と義理との板挟みに苦悩する嘉平次とさが、
清吉と小弁・・・。

人の持つ業の深さに慄きながらも、
命を懸けて愛を貫こうとする恋人たちの行く手に待ち受けているものは・・・?