宝塚歌劇団 花組
ミュージカル
MAIHIME
−森鴎外原作「舞姫」より−




STORY




明治十八年、日本が近代国家建設に向け、
欧米諸国に追いつこうと国力を養っていた時代・・・。

日本陸軍のエリート官僚、太田豊太郎は法学を学ぶ為、
国費留学生としてドイツへ赴くこととなる。

日本国の発展に貢献するという大きな役目を担った豊太郎は、
母・倫、妹の清、そして親友の相沢謙吉に見送られ、
大海原の彼方へと旅立つ。




ヨーロッパ大陸へと足を踏み入れた豊太郎は、
日本にはない西欧の“自由と美”の精神に触れ感動を覚える。

西洋にはあらゆる分野において学ぶべき事が沢山あると悟った彼は、
最終目的地ベルリンで様々な階級や職種の人々が集まるドイツ人のサロンへと通う。

そして多くの人と積極的に交流を持つのだった。

しかし、豊太郎の上司・黒沢は、
政府が与えた課題は軍事の研究であり、
専門外の分野に首を突っ込むような行き過ぎた行動は慎むようにと彼を叱責する。

留学生仲間の中には、日本同士の付き合いを疎かにし、
西洋の考え方に傾倒する豊太郎に反感を持つ者も少なくなかった。




ある昼下がり、豊太郎は街角で原芳次郎という画家と知り合う。

私費留学生としてこの街に滞在している芳次郎は、
貧しい生活を続けながら自らの手で進むべき道を切り開き、
ひたすら夢を追い続けていた。

そんな芳次郎の生き方に憧憬を覚え、
エリート官僚たるべくして歩んできた自らの半生を思い起こす豊太郎・・・。




やがて彼は、ある教会の前で声を押し殺して泣いている一人の少女に出会う。

理由を尋ねた豊太郎に、
彼女は父を失い金銭的に困っていると戸惑いながら話し始めるのだった。

そしてエリスというその少女の話に胸を痛めた彼は、
これをお金に換えるようにと持っていた時計を手渡す・・・。




三日後、豊太郎のもとへエリスが訪ねてくる。

ヴィクトリア座の踊り子である彼女は、
豊太郎に礼を言い、必ず借りた金は返すと話す。

豊太郎の優しさに触れ次第に彼を慕うようになるエリス。

そして豊太郎も又、彼女との出会いによって
心のままに生きる喜びを知り、これほどまでに激しい想いが
自分の中に存在していたことに気付かされるのだった。




数カ月後、豊太郎とエリスの交際は、世間の中傷の的になっていた。

それを理由に豊太郎は、黒沢から日本への帰国命令を受ける。

命令に従わない場合は全ての官職を失い、
国からの援助を一切断つと告げられた豊太郎は、
その理不尽な処分に納得出来ず帰国命令を拒み、免官処分となる。




そんな豊太郎のもとに母・倫が亡くなったという知らせが届く。

豊太郎の免官を知り失望した倫は、彼を諌める為自害したのだ。

自責の念に苛まれる豊太郎は、
祖国への思いとエリスへの深い愛の間で苦悩する・・・。




全てを失った豊太郎は、
エリスの家に移り住み新しい生活を始めていた。

エリスの母ローザの反対に合いながらも、穏やかな時間を過ごす二人・・・。




そんなある日、
相沢が日本の次期首相候補と言われる天方伯爵と共に
彼の秘書としてベルリンへやって来る。

相沢の話によれば、以前ベルリンの宮廷舞踏会で
豊太郎と言葉を交わしたことのある天方が、
彼の才能を高く評価し是非とも仕事を任せたいというのだ。




数日後、豊太郎は天方からの依頼を受け、
日本が近代国家としての政治基盤を整える上で、
最も重要な大日本帝国憲法草案を立ち上げる仕事を手伝うことになる。

天方に引き合わせてくれた相沢の心遣いに感謝する豊太郎。

だが、相沢にエリスとの関係を責められる彼は、
今は彼女と離れる事は出来ないと答えるのだった。




しかし、日本への郷愁そして祖国発展の為に自分に課せられた大きな任務に、
豊太郎の心は微妙に揺れ動き始めていた・・・。

やがて豊太郎の将来を案じた相沢は、
エリスに手切れ金を渡して彼と別れさせてようとする。

だが、彼のその友情が、豊太郎とエリスを永遠に
取り返しのつかない悲劇へと導いてしまうのだった・・・。