宝塚歌劇団 花組
グランド・ロマンス
「明智小五郎の事件簿-黒蜥蜴-」
−江戸川乱歩作「黒蜥蜴」より−
STORY
先の大戦から十数年ほど経った銀座。
クラブ「黒トカゲ」のマダムである緑川のもとへ
元ボクサーの雨宮潤一が差し迫った様子で現れ、
逃げる為の金を貸して欲しいと懇願する。
人を殺してしまったと告げる雨宮に、
緑川は身を守る方法があるから自分にまかせるようにと話すのだった。
やがてクラブに大勢の客がやって来る。
踊ってくれと歓声を上げる客達に応え、
トカゲの刺青を入れた背中をさらして踊る緑川。
そんな中、彼女は一人の男性客に目を留める。
明智小五郎と名乗るその男は、緑川に、宝石商岩瀬氏の娘早苗が、
友人のあなたに会いたがっているので
一緒にホテルへ来て欲しいと告げるのだった。
翌日、明智は緑川を連れて岩瀬親子のもとを訪れる。
娘の早苗を誘拐するという脅迫状を受け取った岩瀬は、
世間で名探偵と評判の高い明智を雇っていたのだった。
緑川は「送られてきた脅迫状なんて、ハッタリに決まっている」と言い、
明智にこの退屈な時間を楽しもうと一つの賭けを持ちかける。
それは、もし早苗が誘拐されれば明智は探偵をやめる、
そして明智が犯人を捕まえれば緑川は
自分の所有する宝石のすべてを彼に渡すというものだった。
初めは緑川の誘いを断っていた明智も、次第に興味を示しその賭けに応じる。
やがて、緑川に誘われ彼女の自室へ向った早苗は、
部屋に入るなり中にいた雨宮に捕らえられトランクに詰め込まれてしまう。
緑川の指示通り、早苗の誘拐を手伝う雨宮だったが、
自分の身の安全について不安を隠せずにいた。
そんな彼に緑川は新聞を差し出す。
そこには、雨宮が殺人を犯し、部屋から飛び降りて
自殺したという記事が掲載されていた。
全ては彼女の仕組んだ事であり、雨宮はまるで魔法のようだと驚く。
そして緑川は早苗になりすまして迎えに現れた岩瀬と共に部屋を出て行く。
一方、誘拐犯を警戒する明智は、波越警部と共に
深夜までホテルのロビーで見張りを続けていた。
自分は何の為に事件を追いかけているのだろうか・・・
探偵という仕事に感じていたときめきも、
今は消えつつあるのだと友人の波越に胸の内を語る明智。
そこへ、「午前二時」と犯行予告が記された電報が届けられ、
彼らは岩瀬の部屋へ急行する。
早苗が寝ていたベッドには彼女の首人形が仕掛けてあり、
早苗の姿はそこにはなかった。
慌てる岩瀬を落ち着かせ、
明智は冷静な態度で波越達に捜査協力を求める。
そして、明智との賭けに勝ったと喜ぶ緑川に対し言うのだった。
犯人は取り逃したものの、早苗さんは無事保護した、
そして真犯人は、あなただと。
驚く一同の前に、明智の手配した見張りに連れられ早苗が現れる。
誘拐された当人である早苗が来た以上、言い逃れる術はない。
窮地に追い込まれた緑川は拳銃を手に逃げ去る。
後を追う明智は、大物の女盗賊「黒トカゲ」の出現に、
失いかけていた情熱が甦ってくるのを感じるのだった・・・。
岩瀬邸では、事件以後一切外出を禁じられた早苗が
我侭放題に振舞い、使用人のお重達は以前とはまるで違う彼女の様子に戸惑っていた。
実はこの邸にいる早苗は、明智が連れて来た替え玉だったのだ。
ある日、厳重な警護を破って、一人応接間にいた彼女がさらわれてしまう。
岩瀬が娘の為に注文していたソファーが届けられた直後、
その中に隠れていた雨宮が、彼女が替え玉の“早苗”とは知らずに
連れ去ったのだった・・・。
浮浪児が集まる上野公園。
岩瀬は、黒トカゲが娘と引き換えに渡すよう要求した宝石「エジプトの星」を
持ち彼女を待っていた。
そこへ一人で現れた黒トカゲは、岩瀬を脅して宝石を奪い、
既に娘を家に戻したかのような話をして彼を追い返してしまう。
やがて岩瀬を警戒した黒トカゲは、近くの売店の親父に
悪い男に付けられているから安全な所まで付き添って欲しいと助けを求めるのだった。
歩きながら話を始めた二人は、互いに戦争で親を亡くした身の上だと知る。
それぞれに大切な兄や妹がいたと語り合う二人は、
どこか似たような悲しみを抱えているのを感じるのだった。
実は、この売店の親父の正体は黒トカゲを追跡する明智だった。
待たせていた車に乗り込む彼女を見送りながら、
明智は思いがけず黒トカゲの純粋な一面に触れた事を皮肉に思う。
そして、今や、黒トカゲを徹底的に打ち負かすことに
とりつかれている自分に気が付くのだった。
やがて、隠れ家へ向かう黒トカゲの船を突き止めた明智は、
船の一室にしのび込む。
そんな中、部屋のソファーに座っていた黒トカゲは、ふと、
そこに人の気配を感じ、自分に話しかける明智の声を聞くのだった。
明智が自分のやり方をそっくり真似てソファーの中に隠れていると
思い込んだ黒トカゲは、すぐさま雨宮を呼び、
甲板からソファーごと海へ放り込んでしまう。
やがて部屋へ戻った黒トカゲの前へ、船員の松公が姿を現わす。
実は部屋の中に身を隠していた明智が、密かに変装していたのだ。
黒トカゲはそのことに気付かず、明智を殺したいと思い続けていたのに、
それが現実となった今、なぜか悲しいのだと彼に語り始める。
そして、これまで秘めていた明智への熱い想いを告白するのだった・・・。