宝塚歌劇団 雪組
「スサノオ」
-創国の魁-



STORY




第一場 大和(スサノオの光臨)


夜を司る神、月読が、愛する大和、
日本のために一編の詩を歌う。

スサノオの暴力に怒った姉の太陽神アマテラスオオミカミは
天の岩戸に身を隠し、それ以降、大和の国から光が消えたと。

何もかも私のせいだと嘆くスサノオの前に、
生け贄を求める大和の民に追われた
アシナヅチとイナダヒメ父娘が現われる。

月読は、このまま生け贄を見殺しにするのかと
スサノオに問いかけ、剣を渡す。

八百万の神からの贈り物だという、その剣を手にしたスサノオは、
アシナヅチ達が民に叩きのめされている様を見かねて、
遂に剣を抜き、民のな中に切り込んで行く・・・。




第二場 大和(スサノオの旅立ち)


スサノオに助けられたアシナヅチは、追われていた訳を語り始める。

光を失った大和では、作物の収穫もままならず、森で食べ物を得ようとした。

だが、その為には森に住む八本の首を持つ大蛇・ヤマタノオロチに
生け贄を捧げなければならなかった。

民を束ねる立場にあったアシナヅチは、
毎年一人ずつ自分の娘を生け贄として捧げており、
残ったのはこのイナダヒメだけとなってしまったと言う。

今年は、誰か自分の娘を捧げて欲しいと民に訴えたが、
私の娘は生け贄に出来ないという答えしか返ってこなかったのだ。




人々は自分さえ無事なら他の誰がどうなろうと
気にもかけはしなかったのだと嘆くアシナヅチは、
先ほどの剣を振るい、ヤマタノオロチを退治して欲しいとスサノオに頼む。

そして、アシナヅチは人を恨むな、
人のために生きよという言葉をイナダヒメに残し、息を引き取る。

オロチの退治にはやるイナダヒメに、スサノオは、
何故この国から光が消えたかを語り始める。

かつてアマテラスと男と女の優劣を競ったスサノオは、
アマテラスが出した答えに怒り狂い、暴力を振るった。

その為、アマテラスは天の岩戸に姿を隠し、この国は闇に閉ざされたのだと。

暴力ではこの国は救えない、
二度と暴力は振るいたくないとスサノオは言う。

しかし、イナダヒメは、力の使い方を間違っていただけであり、
決して希望を捨てて諦めてはいけないとスサノオを励ます。




第三場 森


森に向かった二人は、生け贄となったはずのイナダヒメの姉達と出会う。

姉達は、祖国に絶望し、この森にやってきた人々と共に、
森を治めるアオセトナに守られ、楽しく暮らしているというのだ。

スサノオはアオセトナに勧められた酒を口にするが、
その杯には毒が塗られており、スサノオはその場に倒れてしまう。

慌ててスサノオに駆け寄ろうとしたイナダヒメも、
姉達の手で取り押さえられるのだった。

アオセトナはスサノオを葬り、
イナダヒメを自分達と同じ青い魂に入れ替えようとする。

しかし、八つ裂きにされるまで決して朽ち果てることのないスサノオは、
剣を手に地中から甦るのだった。

そして、アオセトナに、何故大和を滅ぼそうとするのかと問いただす。




アオセトナは、我々はかつて大和に滅ぼされた
偉大な国々の青い魂だとその正体を明かす。

アオセトナが姿を消すと、そこに、ヤマタノオロチが現われる。

壮絶な闘いの末、スサノオがヤマタノオロチを倒したかに見えたその瞬間、
森の奥にアマテラスが光臨するのだった。

平和は、たとえ何があろうと守らなければならない
掟であるとアマテラスの言葉に、スサノオは手にしていた剣を落とす。

すると、その剣を拾ったイナダヒメがアマテラスに斬りかかり、
咄嗟に剣を奪ったアマテラスがイナダヒメを斬りつけるのだった。

瀕死のイナダヒメは、国が滅んでも守るべき平和とは?と、
スサノオに問いかける・・・。




最早、何もかも分からなくなったと言うスサノオだったが、
それでもイナダヒメを傷つけたことだけは許せないと、
アマテラスに向かい、その剣で私を斬って欲しい、
同時に私もあなたを絞め殺すと言う。

アマテラスがスサノオを斬り刻み、
スサノオの手はアマテラスの首を絞め続ける・・・

すると、アマテラスに化けていたアオセトナの姿が露となるのだった。

すべてはお前の仕業かと問うスサノオに、
決して大和の罪は消えはしないと言い残し、アオセトナは消滅する。

力尽きようとするスサノオの下へ月読が現われる。

ようやくスサノオは、自分の力を畏れた八百万の神が、自分の死を望み、
剣を与えてヤマタノオロチ退治に向かわせたのだと、事の全てを悟るのだった。

そして、それを見届ける役目を託された月読に対し、
まだ息のあるイナダヒメを救い、
私の亡骸から作った笛をアマテラスが隠れる岩戸の前で
この娘に吹かせて欲しいと言い残し、ついに息絶える。




第四場 天上界


天の岩戸を訪れたイナダヒメは、笛を吹き始める。

その笛の音こそスサノオの声であり、それを聞いたアマテラスは
必ず天の岩戸から顔を出すはずであると信じた月読は、
八百万の神タヂカラオとアメノウズメに協力を仰ぐ。

イナダヒメが息の続く限り笛を吹き続けると、
やがて天の岩戸に変化が現われる。

タヂカラオが轟音と共に戸をこじ開けると、
辺りは一瞬にして白く輝く世界へと変わり、アマテラスが姿を現す。

スサノオはどこにいるのかと問うアマテラスに、
月読は、スサノオは戦いの果てに死んだ、
その笛は亡骸から作ったものだと答える。

アマテラスは、誰もスサノオを助けなかったのかと
八百万の神に問いかけると共に、
自分はスサノオを冷たく突き放したが、
いつかきっと祖国の未来を見出してくれるはずと
信じていたと嘆き悲しむのだった。




アマテラスは、人の痛みを自分の痛みとして胸に深く感じられるようにと、
神々や大和の民に語りかける。

そして、時を遡る場所である天の岩戸に、
スサノオの笛を放り込む。

すると、白煙と逆光に包まれ、スサノオが再び甦るのだった。

何故私を甦らせたのかと問うスサノオに、
アマテラスはあなたが大和の力だからと答える。

しかし、タヂカラオから再び剣を受け取ったスサノオは、
狂い出し、剣を振り回して叫ぶ。

"まだ私に剣を振るわせるのか・・・

あの嘆きを人々に与えようというのか・・・

なぜ戦う?・・・最後に誰よりも傷つくのは、他人ではなくお前らだ"と・・・。

イナダヒメはスサノオに向かい、
もうこれきり剣を振るうのをやめるようにと諭す。




やがてスサノオは、かつて自分はいかに愚かな戦いを挑んだか、
しかもあなたの愛に飢えて暴力をふるってしまったのだと、
アマテラスに全てを告白する。

そして、男と女は共に励まし合う未来へと
礎であると気付くことが出来たのはイナダヒメの御陰であり、
彼女と共に未来を築いていきたいと、イナダヒメに手を差し伸べる。

"力の時代は終わった、私が心に抱く大和は平和への魁である"と、
スサノオは高らかに宣言する。

アマテラスや八百万の神々は、スサノオに心からの賛意を表し、
やがて神々と民が共に手を取り合い、平和の国、大和の明日を祝うのだった。