「さらば八月の大地」





STORY




一九四四年、
万州映画協会(満映)新京撮影所。




撮影の準備をしている大勢のスタッフたちを
取り仕切るのはチーフ助監督の張凌風。




仕事の出来る凌風はスタッフからの信頼も厚く、
揉め事があっても「気持ち、丸く、丸く」
と言って治めていく。




今日から撮影助手として現場に入った池田五郎が
凌風に挨拶しようと近寄るのだが、
そのぶしつけな態度から、
凌風は珍しく感情をあらわにする。




満映の理事長、
高村國雄は、
残虐非道の人物と噂されているが、
満映の使命はただの国策映画ではなく、
満人に喜ばれる映画を作ることだと明言していた。




現在撮影しているのは、
スター俳優の澤田勇介と、
この映画が初出演作となる陳美雨が終演の
「大陸の燃える恋」。




しかし、監督の永澤大吉は王国慶の書いた脚本が気に入らず、
撮影は遅れる一方である。




凌風と美雨は恋人同士なのだがスターを夢見て、
初の主演映画に意気込む美雨と、
満人蔑視の永澤大吉監督の望む通りに美雨が演じることに
我慢がならない凌風は、
口を開けばお互いを傷つける言葉しか出てこない。




その年の冬。




撮影現場で国慶に了承を得ていない
脚本の改訂が永澤から配られた。




永澤の描きたい表現に、
納得できない国慶は凌風を振り払って出て行く。




これには五郎も異を唱えるが、
撮影監督の土浦由蔵に制される。




永澤にたてつく五郎を見る凌風に、
五郎は「気持ち、丸く、丸く…やろ」
と笑ってみせるのだった。




その夜。




新京の露店の傍では、
美雨が高村と話をしている。




二人を見て美雨と高村の関係を怪しむ五郎に
感情的になる凌風。




凌風はそのことを詫びながら、
映画の話を始める。




国籍は違えども、
映画に情熱を傾ける者同士。




いつしか二人は意気投合し、
互いが満映に入った理由や夢を語り始める。




そして、国慶とともに、
いつか一緒に映画を撮ることを誓い合うのだった。




「僕たちの映画のために、乾杯!」




一九四五年、春。




撮影所では由蔵や衣装係の栗原はつえたちが、
八路軍のゲリラが貼ったビラに心配を募らせている。




そこへもたらされた撮影一時中断の報せ。




東京で大空襲があり、
劇映画の製作は一時中断されるというのだ。




日本の戦況と、
あと一シーンの撮影を残すのみというタイミングで
中断に皆衝撃を隠せない。




そのとき、憲兵隊が、
街頭でビラを貼りつけていた咎で逮捕した凌風の義父、
劉燕生を引き連れて来る。




燕生だけでなく息子である凌風にも
暴力を振るう憲兵隊に、
五郎や国慶たちが加勢する。




そこへやって来て憲兵隊を一喝した高村に、
凌風は父を助けてくれるよう懇願する。




五郎や美雨たちにも請われ、
高村は憲兵隊本部に出向くのだった。




日本人スタッフたちが、
日本の敗戦が近づいていることを確信する中、
澤田の付き人の大森秀樹に召集令状が届く…。




その年の夏の夜。




涼風、五郎、国慶が、
まもなく進軍して来るソ連軍から隠すため、
完成しなかった「大陸の燃える恋」のフィルムを運んでいる。




そこへトランクを手にした永澤が現れる。
高原の手配で、列車に乗って日本に帰るのだ。




どれだけみっともなくても生き抜いて映画を
撮り続けると言う永澤の生きた方を、
五郎は認めることができない。





高村は去りゆく永澤にだけ、
自分は満映の行く末を見守り、
死ぬ覚悟であることを語る。




凌風は美雨を心配して、
高村のそばにいるのをやめるよう忠告するが、
スターを夢見る美雨には届かない。




こんな時世にも明るい出来事はある。




編集兼スクリプターの佐藤みねこと照明の北川正彦の結婚だ。




撮影所で満映職員慰安会も兼ねた結婚式が執り行われる。




めでたい席なのだが、
敗戦の決まった日本人と中国人との温度差は否めない。




さらに、由蔵との会話から察した凌風が理事長室へ向かうと、
高村が青酸カリで自決していて……。




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