新派百二十五年
年忘れ新派公演
「三婆」
さんばば
STORY
オリンピックを来年に控えた、
昭和三十八年の初夏。
一代で財産を築いた金融業者の武市浩蔵が、
神楽坂の妾、
駒代の家の風呂場で倒れ、
死んでしまった。
武市産業の専務の重助始め社員馬場らと
お通夜の準備に余念のない駒代の元に、
本妻の松子が駆けつけてきた。
松子や故人の妹タキらは重助を責め、
お通夜を目黒の本宅へと強引にかえてしまうのであった。
一代で大きくした会社ではあったが、
浩蔵が死んだ後に残ったのは莫大な借金であった。
松子はその返済に、
妹タキの家と本宅の一部を売り、
社員の給料や妹タキ、
それに妾の駒代にお金を支払い、
何とか住む家一軒だけは残ってホッとしたのも束の間、
兄の家は自分の家も同然と、
突然タキが引っ越してきた。
追い打ちをかけるように、
妾だった駒代も、
女中の常子を連れて、
料理屋を開業するまでの間、
置いてくれと押しかけて来たのである。
近所の八百屋のご用聞き辰夫と
結婚の約束をしている武市家の女中お花は、
あわよくば後妻になった松子の財産を自分のものに
したいと思っているので、
タキや駒代の存在は邪魔でしようがない。
松子は松子で、
植木屋の田中の紹介で山田吾郎夫婦に部屋を貸す算段をしたりと、
松子、駒代、タキの三人の婆に加えて、
女中のお花たちの思惑が交錯する生活が始まる。
そして半年後。
会社が潰れてしまい娘の嫁ぎ先の鳥取に身を寄せていた重助だったが、
政治家は六十を過ぎても大臣になれるのに、
うちのお爺ちゃんはポンコツだとか、
お婆ちゃんなら孫の子守もして貰えるのにだとか、
散々な嫌みを言われて追い出され、
みんなの住む目黒の本宅へ戻って来ていた。
そして、東京オリンピックの開催された昭和三十九年十月、
女中のお花はご用聞き辰夫との結婚を機に、
この家から出て行くことになった。
タキ、重助、駒代たちも、
タキは松子が探してきた八王子の老人ホームへ、
重助は武市産業の社員でもあった馬場の世話で、
寮の掃除人が決まり出て行くことになり、
駒代と常子もまた、
引っ越すことになった。
そのお別れ会の場で、
松子の口から以外な言葉が飛び出した…。
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