吉宗評判記
「暴れん坊将軍」
〜新之助お化け長屋騒動〜





STORY




亨保七年(1722)六月、江戸。

八代将軍徳川吉宗の治世は、
赤坂の山王権現の「天下祭」で賑わいを見せている。

将軍の御側御用取次の田之倉孫兵衛と共に
祭を見物する徳川吉宗。

そこへ、お熊は「将軍の顔が見たい」と
祭に出かけて来たのだが、
吉宗の顔を見るなり「悪党」「地獄の鬼」
という言葉を吐く。

いとけない子供の口から出た言葉に戸惑う吉宗。




ガマの油売りの大道芸人・加納文吾や
紙屑屋のゴン助、
占いのカガミの婆たちが住んでいる貧乏長屋。

その名も「むじな長屋」。

この長屋を仕切っているのは、
差配の幸兵衛ではなく、
お虎というなかなか気の強い婆さんだ。

将軍に「悪党」と言ったのも、
お虎婆さんの孫娘で、
お虎の娘・お鷹の娘。

迷子になったのを心配していた一同は、
無事な姿に胸をなでおろす。




翌日、ヤクザにからまれて困っていた紙屑屋の
ゴン助を助けたのは、
旗本・徳田新之助と名を変えて市中を
見回っている吉宗だった。

お化けが出るという「むじな長屋」に興味を示し、
長屋を借りることに。

ところが、長屋の住人はどことなく新之助によそよそしい。

遊んでいるわけにも行かない新之助は、
紙屑屋の仕事を手伝うことに…。

その最中、長屋に因縁を付けに来たヤクザと
張り合うお虎・お鷹母娘を助ける新之助。

ヤクザを追い返しホッとしたところへ、
先日の祭であったお熊に出会い「将軍だ!」と言われ、
進退窮まって将軍の振りをする新之助。

どうもこの長屋の住人は将軍に対して良い印象を持っていないようだ。




夜になり、越前の大聖寺藩の藩主・大聖寺蔵人が
お鷹はただ長屋の住人ではないらしい…。

一人侘しく夕飯を食う新之助の長屋を訪れたお鷹と語り合う新之助。

二人の心にぽっと暖かな炎が灯った。




江戸城の吉宗の前で滔々と政道の改革を語る大聖寺蔵人。

吉宗はその姿勢に好感を抱くが、
実は蔵人は近江の水島藩の小姓組で、
二十年前に藩主が徳川家康から拝領した花活けを割ったために
お家取り潰しとなった折りに、
大聖寺藩に養子に入った上、
怖れ多くも徳川将軍家の乗っ取りを企む悪人だった…。




夕刻、長屋に祀ってあるお稲荷さんの前に
長屋の住人の多くが集まっている。

そこへ現れた新之助が見つけたものは
「八代将軍徳川吉宗」を呪う札だった!

「むじな長屋」の住人たちは二十年前の
水島藩のお取り潰しに関係があり、
徳川幕府のやり方に長年恨みを抱いている人たちのようだ。

お虎やお鷹の辛い胸の裡を聴いた新之助は、
自らが将軍・吉宗であることを明かし、
みんなを慰める。

自分たちが恨み続けていた「将軍」が目の前にいる
こんなに優しい人だったとはと、
呆然とする長屋の人々…。

自分たちの積年の恨みは何だったのだろう…。




数日後の秋晴れの日、同心・笹森が
「むじな長屋」を訪れ、
立ち退きを命じる。

長屋の危機を知って駆け付けた新之助ともども奮戦するみんな。

その一方、大聖寺蔵人は、
元・水島藩の姫君だったお鷹を口説いている。

しかし、この大聖寺蔵人こそ、
二十年前の水島藩取り潰しの
きっかけを作った張本人であることを知り、
悪事に悪事を重ねようとする蔵人と
新之助は激しい立ち廻りになり、
蔵人は正義の刃に破れる。




江戸城・吹上御殿。

すべての事情を知った吉宗の采配で、
水島藩のお家再興も叶った。

お虎・お鷹の母娘の深い感謝を受けて、
吉宗の心も落ち着いた。

しかし、やんちゃ娘のお熊は相変わらずで、
それをほほ笑ましく見送る吉宗だった。






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