御園座五月特別公演
「紺屋の恋女房」
〜「紺屋と高尾」より〜





STORY




江戸に住む紺屋職人の久造は、
染めの勉強に行った京の都で、
おとうと弟子に連れられて生まれて初めて島原の“太夫道中”を目にした。

見物の子供が一人の太夫に駆け寄ろうとして転んだとき
「坊、気いつけなはれ」そう呟くと、
一瞬目の合った久造にニコッと微笑みかけた。

この太夫こそ、六才の頃に島原へ売られ必死に芸を磨いて、
今はどんな大名や豪商さえ好きなようには出来ない
島原一の太夫“吉野太夫”であった。




江戸に戻った久造は、
この吉野に心奪われ“恋わずらい”で食も通らず」
仕事も手につかず、
遂には床に伏せてしまう。




親方、母親が見るに見かねて久造に仔細を聞いてひと安心。
「それなら金さえ持って行けば会える」
と聞いた久造は、
吉野に会いたい一心で一念発起して昼夜なしに働くことを決意する。




一年後、吉野に会うための五十両を作った久造は、
周りの人々の協力で“江戸は木場は材木商”と
その身を偽り島原にやってくる。

だが、久造は恋しい吉野を前にして嘘をつくのが辛くなり
全てを告白してしまう。

それを聞いた吉野は怒るどころか
「来年の三月十五日に年季が明けたら久造の女房にしてほしい」
と言い出した。

嘘と見栄の傾城で育った吉野は、
彼と話すうちに久造の心根の正直さ、
そして心底自分を想ってくれる想いの深さを知って
久造にほれ込んでしまったのだ。




そして三月、吉野を迎えるため必死に働いた久造は、
親方から店を任され若親方となった。

その上、江戸の町では太夫と夫婦の約束を交わした久造の染めを
“恋染め”と呼び大評判、
店は大繁盛していた。

ところが肝心の吉野は三月十五日を過ぎても姿を見せない。

そこで親方と久造の育ての母は、
親方の娘と久造に所帯を持てと迫る。

いよいよ進退きわまった久造は…。





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