松平 健出演
「忠臣蔵」
大石内蔵助




STORY




元禄十四年三月十四日、
事件は江戸の千代田城内で起こった。

赤穂藩主、浅野内匠頭が高家筆頭の吉良上野介に対して
刃傷に及んだのである。

内匠頭は殿中での狼藉を咎められて即日切腹、
一方の上野介がお咎めなし・・・
その瞬間から多くの人々の運命を
狂わせて一つの歴史が動き始めた・・・。




藩主を失い、家名断絶の処分を受けた播州赤穂浅野家の家臣たちの
動揺は想像に難くない。

籠城殉死を唱える者、城明け渡しを迫る幕府と
一戦交え討死をしようと主張する者、
そして保身に走り逃亡する者・・・。




そんな家臣たちの心を一つに束ね、
後日の決起を約した上で平穏な明け渡しを実現させたのは、
普段はその范洋たる人柄から
「昼行灯:と仇名されていた国家老の大石内蔵助、
その人であった・・・。




しかし内匠頭の一周忌を過ぎても、
内蔵助が同志たちと約した「後日の決起」が
実行に移される気配は全くなく・・・
妻りくと子供たち、
老僕八助を伴って京の山科に屋敷を構え
楽隠居を気取ったかと思えば、
一方では京の色里に足繁く通い、
伏見撞木町には馴染の太夫まで作る
という放蕩三昧の日々であった・・・。




その噂を聞き付けて江戸からやって来たのは堀部安兵衛、
高田郡兵衛ら、一日も早い決起を望む急進派の面々。

内蔵助を詰問しようとする彼等を必死で宥めるのは
京都留守居役、小野寺十内・・・
果たして内蔵助に決起の意思は有りや無しや・・・
同志たちの喧々諤々の論争の傍らにあって
大石家の長男松之丞は父親の堕落に心を痛めるばかりだったが・・・。




そんな内蔵助が遂に立つ日が訪れた。

かねて幕府に提出しておいた嘆願書・・・
内匠頭の弟を藩主に戴いての浅野家再興・・・
その最後の願いを拒否された内蔵助にもう憚るものは何もなかった。

亡君の讐討ちを決心した旨、同志たちに急使を放つ内蔵助・・・。

父親の放蕩が敵の目を欺くための策略だったと知った
松之丞の喜びは大きかったが・・・。




一方、りくにとって夫の決心は
睦まじい家族の離散を意味するもの・・・
自らの信念の為には家庭の幸福さえ犠牲にする男の生き方・・・
その非情への恨みは胸底に秘め、
気丈な暇乞いの挨拶を残すと、
幼い者たちと共に内蔵助のもとを去って行くりくであった・・・。




変名を使い身分を隠して東海道を江戸に下った
内蔵助を待ち受ける様々な難問・・・
上野介の首級を挙げ亡君の讐を討つ計画は
予想通り簡単には進まなかった・・・
が、根気強く慎重な態度で問題を解決した内蔵助は、
内匠頭の命日を翌日に控えた師走十三日、
赤坂南部坂の浅野土佐守下屋敷を訪れる・・・。




浅野土佐守は内匠頭の未亡人、
瑶泉院の実兄に当たる人物・・・
夫亡き後の瑶泉院は老女戸田局ほか
僅かばかりの召使を伴って兄の屋敷に身を寄せ、
内匠頭の菩提を弔っているのである・・・。




内蔵助の南部坂訪問は吉良邸討入の決行を知らせる為であったが、
新参の腰元の態度に不審を抱いた結果、
とうとう真実を伏せたまあ辞去する羽目になる・・・
讐討ちなぞ全く念頭になきごとき内蔵助の言動に、
瑶泉院と戸田局の落胆は激しく、
怒りに任せて出て行けよがしの態度を取るのだったが・・・。




元禄十五年十二月十四日深夜、
内蔵助を先頭に本所松坂町の吉良邸に討ち入った赤穂浪士四十七名が、
目指す上野介の首級を挙げたのは翌十五日の未明の事であった・・・。

神妙に処罰を仰ぐ四十七名に対し、
幕府は一党を四組に分けそれぞれ大名家にお預けの上、
彼らの仕置きを検討することとした・・・。




元禄十六年二月四日、内蔵助をはじめ小野寺十内、
大石瀬左衛門、礒貝十郎左衛門ら十七名の浪士が
お預けとなっている芝高輪の細川越中守の中屋敷は、
今日も穏やかな春の光の中にある・・・。




細川家では家臣一同、赤穂浪士の快挙に感嘆しきり、
十七名に対し手厚い供応を提供するが、
とりわけ世話役の堀内伝右衛門の濃やかな心遣いには
浪士たちの心を打つものがあった。

そんな堀内が礒貝十郎左衛門に引き合わせようと
画策するひとりの娘おしの・・・
その名を聞いた礒貝の狼狽ぶり・・・
彼女は一体何者なのか・・・。




一方、讐討ちの大望を果たした上に、
世間から武士の鑑と賞賛を受けながらも、
大石内蔵助の心は晴れない。

果たして自分のした事にはどんな意味があるのか・・・
それは切腹という名誉ある死に価するだけの行為だったのかどうか・・・
出来得れば切腹をと願う自分の心に奢りはないのだろうか・・・。




春の庭に囀る鶯の声に耳を傾けつつ、
さまざまに思いを巡らす内蔵助・・・
と、そこに細川家下屋敷から届けられる早咲きの桜・・・
桜は亡き内匠頭の最期をも彩ったと聞く花である・・・
”風さそふ花よりもなほ我はまた春の名残をいかにとかせん”・・・。




脳裏に亡君の辞世が甦り、
内蔵助は自分にも最期の時が訪れようとしている事を察知する・・・
あたかも迷いの霧が晴れたかのように、
その顔には静かな微笑が浮かんでいた・・・。




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