新橋演舞場6月公演
藤山寛美 没後二十年
「大人の童話」(夜の部1)




STORY




愛嬌たっぷり、客の評判も上々の女将妙子が、
切り盛りする小料理屋・千鳥亭では、
今日も明るい笑い声が絶えません。

妙子は、大阪は島の内老舗料亭千鳥亭の看板娘でしたが、
実夫幸七が商売を広げた途端の世界的不況。

その煽りを受けて、
あっという間に借金だらけ、
遂には店まで手放す羽目となり、
今では借家暮らしをしています。




妙子さん一家は近所でも評判で、
父幸七を始め、夫福造は元の千鳥亭で働いていた腕のいい板前で、
真面目は人柄、商売一筋を買われ婿養子となりました。

そしてこの福造が目の中に入れても痛くないほど可愛がっているのが、
二人の一粒種の貴裕。

誰の目から見ても絵に描いたような仲の良い家族です。

そんな幸せ一杯の妙子にも悩みもあれば、
誰にも知られたくない秘密もあります。




今、この千鳥亭の家主が一億を超える値段で、
是非買い取ってほしいと持ちかけますが、
妙子達の懐具合にそんな余裕はありません。

人の良い福造と来たら、
商売そっちのけで、
近所の夫婦喧嘩の仲裁に奔走し
「男はどんな時でもドーンとしてなさい」と呑気に助言までしています。




そこに突然、滝沢という人の訃報が伝えられます。

うろたえる妙子と幸七。

決して知られてはいけない秘密・・・
実は、この滝沢こそが貴裕の本当の父親だったのです。

七年前、身重となった妙子が、
妻ある身の滝沢とは添い遂げることは叶わず、
身重のまま何も知らない福造との結婚を決めたのです。

もう滝沢との事は過去の事・・・
今の妙子にとって、福造との情愛が何より温かく尊いもの。




ところが滝沢は「一億円」という大金を遺産として貴裕に残したのです。




妙子は今更受け取れない・・・が、
今の千鳥亭には喉から手が出るほどほしいお金。

でも、福造は何も知らず、自分を大切にし、
貴裕が八月子(月足らず)で生まれた事にも何ら疑わず可愛がっている。

この幸せを失いたくはない・・・。

幸七達は、何とか福造に内緒で遺産を受け取れる方法はないかと思案を巡らせ、
福造に疑われず受け取れるとなった矢先、
すべてを福造に知られてしまいます。




愕然とする福造。

自分一人何も知らなかった・・・
妙子達の為だけに働いてきた自分は騙されていた・・・
可愛い貴裕は自分の子供ではない・・・。

男だってこんな時はドーンとなんて構えていられない。

この家を出て行く事が一番いいと・・・
家を出ようとします。




そんな福造に妙子は、
今はどれだけ感謝しているか、
どんなに大切に思っているかを伝えるのですが・・・
そこに貴裕が帰ってきます・・・。




童話は大体、めでたしめでたし・・・
と終わるのが決まりですが、
大人の童話の結末は・・・。




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