菊藤山直美・西郷輝彦主演
「冬のひまわり」




STORY




一九二〇年代の横浜。

戦争の足音もまだ遠く、よき時代を謳歌していた。

港には今日も海外からの帰港者や迎え客があふれかえっている。




五十嵐家の家族もロンドンから数カ月ぶりに帰ってくる父、
貿易会社五十嵐物産社長・五十嵐渉(西郷輝彦)を
出迎えようとやって来ている。

執事の井沢、運転手の前川、
そして乳母のタツが子供達と共に来ていた。




帝大生の肇を筆頭に、一七歳の蘭子、次女ゆり子、
いたずら好きの次男健次、花が大好きな泰三、末娘のさくら。

腕白盛りで多感な子ども達六人は数年前に母親を亡くしていたので、
面倒を見る家庭教員を探していた。

ただ、どの家庭教員も子供達に手を焼いて、
長くは続かないのだった。

渉の婚約者で華族の三浦松子(鶴田さやか)も
乳母の桐川志津(入江若葉)を従えて来ている。




船が着き、渉を最初に迎えるのは、大番頭の笹山である。

渉は、抱きついてくる子供達に対して、
家で待つようにとの指示を守らなかったことで、叱責する。

子供達は取り付く島もない。

松子との再会もそこそこに、
渉は次の仕事へと向かってしまうのだった。




この港の公園に福田あかね(藤山直美)が、
婚約者の清太郎と久しぶりの再会に心ときめかせ、
待ち合わせにやって来る。

ふと気がつくと、ベンチに一人の少女を見つける。

末娘さくらであった。

一人いる可愛さから抱いてあげるあかね。

母親と同じ匂いを感じるさくら。

二人はお互いの居心地の良さを感じる。




そこへ松子たちがさくらを探しにやって来るが、
かえってさくらを泣かせてしまう。

それを見つけた次男の健次は、松子を出戻りと囃したて大騒ぎに。

その様子に呆れるあかね。

そこへ清太郎(国広冨之)がやってきて、
大阪に居るあかねの父親は元気にしていることを伝える。




かつて、あかねは教師を志して学校に進もうとしたが、
父親に反対され、それ以来、
父親との折り合いが少し悪いのだ。

そして、間に立ってくれら伯父善蔵の世話で教員生活を送ったが、
今回の婚約を機に教師は辞めたのだった。

そんなこともあって、清太郎は仕事で大阪に立ち寄った際に、
あかねの実家を訪ねてくれたのだった。

二人の微笑ましい姿が公園にあった。




福田善蔵(小島秀哉)の店は、化粧品店「福善」である。

妻の浜子(大津嶺子)との間には、子供がいないこともあって、
あかねの面倒を娘同然にみていた。

番頭の寅平(小島慶四郎)と店員の幸吉と半五郎がお客相手に忙しい。

だが今日はもう一人別の客が来ていた。

あかねが辞めた学校の梅沢校長である。

なんとかあかねに一ヶ月の間、上流階級の子供六人の
家庭教員になってもらえないかと頼みに来たのだ。

給金は百円の大金だと言う。




結婚を控え、やっと辞めさせたあかねを再び教員に戻すことは
清太郎に対して失礼でないかと善蔵には思われた。

あかねを教職に就かせた経緯を考えると、
あかねの親でる大阪の弟に対して顔向けが出来なくなってしまう。




そこへ、二人が帰って来る。

梅沢校長はあかねと清太郎に、この話を改めて伝えた。

すると清太郎は、自分たちとは違う世界が経験できて、
未練ある教員の仕事の区切りに出来るのだからと了解してくれる。




五十嵐家は洋館を中心に広い庭に囲まれている。

その庭では、昨日もおねしょをしたさくらが、
恥ずかしいのでその布団を干そうとする
召使いのハルとアキを止めようと一生懸命である。

誰ともしゃべろうとしない三男の泰三は、いつものとおり、
大好きな花壇の手入れに夢中だ。

長男の肇も無聊をかこって特に何をするでもない。
長女の蘭子は夢見がちな乙女、
次女のゆり子は頭脳明晰でもどこか冷たい。

次男の健次は水鉄砲で皆をねらい打ち。




この子供達を前に大人達はお手上げだ。

そんな中、あかねが家庭教員としてやってきた。

渉と挨拶を交わすが、最初から意見が合わない。

子供を監視する役目が必要だとする渉。

子供本来の力を認めようとするあかね。

公演で会った一番小さなさくらを始めとして、
閉ざした心を徐々に開かせようとするあかねであった。




その夜、子供達はいつもの通り新しい
家庭教員をどう追い出すか相談中。

でもあかねにとってはそんな子供達も可愛らしく映ってしまう。

夢や希望を心から信じているあかね。

子供達にはそれが不思議だ。

翌朝、毎日続いていたさくらのおねしょがすっかり治って
皆ビックリの大騒ぎになるのだった。




お屋敷へ行ったあかねが心配で、
ご挨拶を口実に様子を見に来た善蔵夫婦と寅平の三人は、
裏からそっと入ろうとして泥棒と間違われ、
子供達に追われてしまう。

子供達と一緒に泥棒を捕まえようとしていたあかねが、
伯父達だと気づいて、子供達を紹介していると
そこへ松子がやってくる。




お互い名乗る前に、松子は福善の人たちを十分調べていた。

子供達があかねになついてきたのが面白くない松子は、
下品な振舞いの人たちに上流階級の子供の教育は見て欲しくない、
このまま伯父さん達と帰りなさいと詰め寄る。

その騒ぎを聞きつけ庭に出てくる渉。

善蔵はその様子に、
あかねに不足があるようなら連れて帰ると申し出る。

子供達の中から蘭子が、先生を辞めさせないで欲しいと願い出る。

松子は、蘭子が若い男と付き合っている、
家庭教員の指導がきちんとしていないからだとたたみかける。




思わず蘭子に手を挙げる渉。

渉を押しとどめるあかねに子供達も味方する。

肇も思わず父親に盾を突く。

子供の話を聞いてあげて下さいと必死に懇願するあかね。

子供達の父親を憎むように見ることしかなかた。

渉はそれを見て、自分が小さい頃の父親を見る目と
同じであることに気づくのだった。




夜、一人でいる渉にあかねが声をかけた。

渉は語り始める。

なるまいと思っていた、自分の父親の姿に、
今自分がそうなっていることを。

かつて自分の父親がそうであったように、
優しい笑顔と愛情は仕事に熱中する余り無くしてしまった姿。

そんな自分に気づいたのだった。

子供達の声を聞いてあげて下さいと渉と子供達を導くあかね。

ゆっくりとそして少しだが親子の間が近づいた。

月明かりが子供達と渉そしてあかねを照らしていた。




今日はあかねが子供達の亡くなった母親の墓参りの帰りに、
福善商店に皆を連れて来ていた。

子供達にも物珍しい事ばかりだが、
一番嬉しいのは浜子のようだ。

家に花が咲いたようで、楽しくてしょうがないのだ。

でも嬉しいのはここだけではないようで、
堅物だった渉も最近ニコニコしているらしい。




あかねが子供達の家庭教員となって一ヶ月。

屋敷では五十嵐物産の感謝祭で、
これから晩餐会が開かれようとしていた。

あかねもドレスに身を包むということで、
子供達ははしゃいでいる。

ドレス姿のあかねを見るのは渉も初めてだが、
あかねにとっては、ドレスもそしてダンスも初めてだ。

松子の学友で華族令嬢高浜徳子、その妹野上波津子、
同じく学友である滝川幾子も晩餐会に来ていた。




松子にとってこの晩餐会は婚約者としてのお披露目でもあるのだ。

学友達には、渉の側にいるあかねが気になるらしく、
皮肉たっぷりに見つめていた。

間が悪く、外国人客が、あかねを渉の婚約者だと勘違いしてしまう。

松子の乳母志津はたまりかねて、
あらためて渉の婚約者が松子であることを披露する。

学友達は間合いを計っていたかのように、あかねを問い詰める。

肩身を小さくするしかないあかね。

それを救ったのは、渉であった。




約束の一ヶ月が過ぎようとしていた。

渉は、あかねのことを思っても、
去っていく後ろ姿を見送るしかないのは分かっていた。

だが言葉に出来ない思いもあるのも事実だった。




眠れずに別れの朝をむかえた渉。

善蔵と清太郎が迎えに来ていた。

渉と子供達は、
あかね先生の幸せのためだと言い聞かせて見送りにでた。

あかねは、ひまわりのような笑顔で
別れましょうと子供達に言い聞かせる。

渉はあかねにひまわりの髪飾りを思い出に贈る。

去ろうとする先生に、さくらも、健次も我慢できずに飛び出す、
蘭子も肇も止めるのが精一杯だ。

渉の制止を振り切って飛び出したのは泰三だった。

しゃべらなかった泰三が今、
おおきな声でさけぶ




「嫌だ、あかね先生行かないで!」




先生の大好きなひまわりをいっぱい咲かせる約束をする泰三。

ひまわりのような笑顔で別れることが出来ないのは、
あかねも同じだった。




五十嵐家の居間では、松子が食事の用意をして、
子供の面倒をみようとかいがいしい。

だが、さくらのおねしょは元に戻り、
泰三は熱を出して寝込み、健次も情緒不安定になっている。

そこに健次が飛び込んできて、
飼っていたニワトリがいないと大騒ぎだ。

よりによって食卓の上に鶏肉料理が出たものだから、
そのニワトリが料理されたと思い込んでしまったのだが、
実は、ニワトリが真夜中に騒ぐので小屋を移し替える間、
預ってもらいに出しただけなのだった。




さらにさくらも健次もあかね先生が使っていたカップや椅子を、
何も知らない松子がさわると、大騒ぎをした。

全て、あかね先生が居なくなってしまってからだ。




松子にとってそれは腹立たしく、解決のしようのない問題だった。

ふさぎ込んでしまった松子を、さくらと健次は、
あかねから教わった方法で、慰めようとするのだった。

松子は妻になれても母親にはなれないことを悟る。

嘘をつかれてまで渉が自分と一緒に居ることはできないと、
渉の前から去る決心をするのだった。




福善商店の母屋に善蔵夫婦と寅平が集まっている。

結婚のため、大阪に戻るのであかねは荷造りをしていた。

だが、どうみても、あかねの様子がおかしい。

どうやら身分違いの五十嵐の旦那様に
恋をしてしまったらしいことは明白だった。

そのまま清太郎のところに嫁がせることが幸せなのか。

考えあぐねる善蔵夫婦だった。




一人月をみて思いにふけるあかねの元に渉が訪れる。

渉はあかねに自分の傍にいてほしいと告白する。

しかし、あかねも苦しい気持ちでいっぱいであっても、
渉の思いに応えられないと告げる。




その場から去る渉。

しかし清太郎がその様子を見つめていた。

ひたすら謝るあかね。

清太郎に心から詫びる気持ちは、善蔵にも重々分かっていた。

清太郎は、自ら家庭教員を勧めて始まったこの運命を
無理にでも受け入れようとするのだった。

放心するあかね、泣くばかりの浜子と寅平。

あかねへの許しを乞う善蔵の姿がそこにはあった。




凄まじい暴風が五十嵐物産の船を襲った。

その船には会社の命運がかかるほどの荷物が積まれていたのだ。

追い打ちを掛けるように倉庫街が落雷で火事になってしまう。

もう再建の手だては残されていなかった。

渉は全てを処分して、取引先と社員に大きな迷惑を
かけないようにするのが精一杯だった。

先代からの大番頭の笹山は、大旦那様が生きていれば同じ道を進み、
社長の進んできた道を認め自慢するだろうと渉に話す。




笹山が席を外すと、一気に気が抜け、立つことすら難しい渉。

そこには無一文になった男がいるだけだ。

いつの間にかあかねが来ていた。

泣きたいときには泣いて下さい、
私を傍において下さいと伝えに来たのだった。

何にもなくなった渉は、あかねを幸せにする自信がなかった。

けれど、あかねにとっての幸せは、渉と子供達の傍に居られることだった。

得心した渉は先生が自分のお嫁さんになることを子供達に知らせ、
あかねも子供達の返事を聞いた。




皆、満面の笑みを浮かべこれからの幸せを願った。

クリスマスツリーが祝福するように輝いていた。




心機一転、あかねの故郷である大阪で再出発、
けれどこれまでと打って変わっての土地柄、人柄で、
あかねには、ごく当たり前に映る景色に、
子供達は目を白黒、あっけにとられる。

けれど子供達は気がつく。

あかねの明るさと強さはこの町が育てたということ。

どんな事があってもあきらめずに進もうということを。




泰三の夢をあかねは聞いてみた。

泰三の夢は、見渡す限りのひまわりの花を咲かすことだ。

あかねの明るさと強さは、この冬空の下、
みんなにひまわりの花を想像させた。




降り注ぐ太陽、セミの声、黄色いひまわり・・・

見えてきた、どんどん広がるひまわり畑が見えてきた・・・

夏の青空と入道雲に包まれた、ひまわり畑の真ん中にいた。

夢と希望がいつか叶うことを信じて。




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