新橋演舞場2月公演
「夫婦善哉」
めおとぜんざい




STORY




大正時代のこと。
大阪梅田の化粧品問屋維康商店の跡取り息子柳吉は、
女癖の悪いことで評判のボンボン。
妻と久子という娘がありながら、
曾根崎の「春乃家」の芸妓蝶子と深い仲になる。
遊ぶためには金がいるが、
柳吉の金遣いの荒さを知っている父親は、
中風で寝込んだ時に銀行の通帳と実印を布団の下に隠してしまう。
父から勘当を言い渡された柳吉だが、
蝶子と駆け落ちして東京へ向かう。

 

まずは先立つものは金と、
東京で店の売上の集金をして柳吉は湯河原で
芸者をあげてのどんちゃん騒ぎ。
幼なじみの新聞記者ラッキョこと桐原があらわれ、
柳吉の妹筆子に養子がくるという噂をするが、
柳吉は全く本気にしない。
その時、突然大きな地震が起きる。
大正十二年九月一日・・・関東大震災だった。

 

大阪に戻った柳吉と蝶子が転がりこんだのは、
天ぷらを売って細々と暮らしている蝶子の父種吉の家。
以前北の新地で芸者だったおきんがヤトナ芸者の
周旋屋をしていることから、
蝶子はおきんに頼んでヤトナを始める。
ヤトナとは、臨時雇で宴会や婚礼に出張する
有芸仲居のことで、
まあまあの収入があるのだ。
二人は黒門市場の折箱屋の二階で暮らし始め、
蝶子は必死に働くものの、
柳吉はぶらぶらしているだけ。
蝶子が商いを始めようと思って貯めたお金を、
たった一晩で使いきってしまう。
蝶子は激しく柳吉を折檻するが、
実は妹の筆子に婿養子がくることが決まり、
気の弱い柳吉は相当落ち込んでいるのだった。

 

半月ほど後。
柳吉は蝶子に一芝居うつことを提案。
金を実家からせしめるため、
二人で別れると明言して金を出させようというのだ。
それでも番頭を前にすると、
蝶子は別れると口にすることはできない。
芝居が失敗したと柳吉はカンカンに怒るが、
蝶子には「別れる」という言葉は絶対にいえないこと。
蝶子の心根に柳吉は感動し、
二人で関東煮の店を始めることにする。
はたして商売はうまくいくのだろうか・・・。

 

大正十三年。
柳吉と蝶子は、飛田の大門前通りで関東煮の店を開いている。
店の名前は二人の名からとって「蝶柳」。
繁華街とあって店は大勢の客で賑わっている。
柳吉も料理着の姿で、店で働いている。
とはいうものの、疲れると酒を飲み、
飲むと出かけて金を使ってきてしまう。
飲んでばかりの柳吉だが、食欲がなくなり、
下腹に痛みを感じるようになる。
そんな柳吉の心にかかるのは実家に残した娘久子のこと。
蝶子にだまって二人で泊まりがけの温泉旅行に出かけるが、
その後柳吉の体調は悪化し、市民病院に入院する。

 

柳吉の病気は肝臓結核で、とにかくかかるのは病院の費用。
関東煮の店は売り払い、蝶子は再びヤトナで働くが
そのかせぎではとても追いつかない。
蝶子は恥をしのんで維康商店へと赴くが、
出てきたのは帝大出の養子太市。
尊大な太市は、蝶子の必死の訴えに全く耳を傾けない。
あまりにも無慈悲な応対に呆然として店を後にした蝶子だが、
持ち前の勝ち気さを必死で取り戻して歩き始める。
一方、病院での柳吉は、悪い虫の方はまったくおさまらず、
見舞いに来た女性にあれこれとちょっかいを出す始末。
おまけに付添婦にはあたりちらし、付添婦は怒って帰ってしまう。

 

体調が悪いのは柳吉だけではない。
蝶子の母お辰は癌になり、明日をも知れぬ命。
蝶子は一目母親を見舞いたいのだが、
弱虫の柳吉は蝶子がいなくなるのを許そうとしない。
翌日に手術を控え、我侭放題の柳吉の病室を見舞ったのは、
妹筆子と娘の久子。
筆子は不肖の兄のことを心底心配しているのだった。

 

蝶子はとうとうお辰の死に目に会うことができなかった。
お辰の病状を知らなかった柳吉は隠していた蝶子に怒り、
母の死を悲しむ蝶子も子供みたいな柳吉に怒りがこみあげてくる。
二人は口論になり、
母親の死に水を取るため病室を出た蝶子だったが柳吉が気になり、
ふてくされた柳吉も、やはり蝶子のことが気になるのだった。

  

大正十四年の春。
蝶子と柳吉は二ツ井戸で「カフェ蝶柳」を始めている。
カフェとはいうものの、内装はかなりの日本風の店。
蝶子はマダムとして店を切り回し、
柳吉が例によって着物に前掛けで料理を担当している。
女給を何人も使い店は賑わっているが、
これだけの店を始めるお金が二人の手元にあった訳ではない。
お店を始める資金は、蝶子の「春乃屋」時代の芸妓仲間だった
金八が出してくれたのだ。
金八は鮫島という鉱山師の妾になったが、
本妻が亡くなったことから後妻になり、
何不自由ない暮らしをしている。

 

金八が店に顔を出した後、あらわれたのは柳吉の娘久子。
蝶子は何かと話しかけるが、久子はもじもじするばかり。
柳吉が久子に気づき、用件を尋ねると柳吉の父親の
容体が悪いというではないか。
柳吉はすぐ実家へ向かおうとし、蝶子も行こうとするが、
それを止めたのは柳吉。
今、蝶子が顔を出してはよくないという柳吉に、
父親の生きているうちに正式な夫婦になれるようにと蝶子は懇願する。

 

維康商店は、柳吉の父親の容体がかんばしくないため、
店を休んでいる。
家に戻った柳吉は蝶子とのことを何とかしたいのだが、
父親の意識がなく眠ったままとあってはうろうろするしかない。
維康商店に柳吉が駆けつけて二日経ち、
心配のあまり蝶子もやってきてしまう。
その蝶子に、他人は家に入ってくるなと冷たい言葉を浴びせる太市。
太市が横にいると、筆子も何もいうことが出来ない。

 

蝶子との結婚の承諾を得られないまま、
柳吉の父親は息を引き取った。
柳吉は蝶子に向かって、
通夜と葬式には出ないほうがいいと言って帰らせる。
朦朧として家に帰った蝶子だが、ガス管をくわえて自殺を図る。
その知らせを通夜の席で聞き、すぐに外へ飛び出す柳吉。
あんなに柳吉のことを思い、つくしてくれた女は他にいなかった。
その蝶子が、死んでしまうのだろうか・・・。

 

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