帝劇創立90周年記念
帝劇11月特別公演
「長崎ぶらぶら節」




STORY




大正十一年春。




長崎中ノ島の広場に、
二年に一度の東京大相撲の小屋がかかった。

長崎の丸山芸者愛八(佐久間良子)は、
妹分芸者梅次(高嶺ふぶき)と蔦次(紫城いずみ)を引き連れて
相撲見物に出掛けていた。

愛八は大の相撲好きに子供好き、特に子供と見たら放っておけず、
なけなしの金をはたいて御馳走する。

長崎には丸山芸者(略して山芸者)の他に町芸者がいた。




山と町とは伝統的に反りが合ず、
この両者が道で出会えばいつも喧嘩腰になる。

町芸者の米吉(松坂慶子)は町検番一の売れっ妓。

愛八との間に激しい火花が散った。

そこへ通りがかったのが、
万屋という大店の十二代目古賀十二郎(古屋一行)。

喧嘩の仲裁をすると、男は精悍な目付きを崩し
子供のような笑顔を見せ、風のように去って行った。

愛八の胸の中に、ほのかな恋の炎が燃え上がる・・・




丸山の花月といえば長崎を代表する料亭。

女将の富美江(丹阿弥谷津子)は婿養子が頼りなく
経営者として孤軍奮闘していた。

その花月の跡取り息子雅生(松山政路)は
三高受験に失敗して浪人中の身。

後を継ぐ気もなく趣味の写真に没頭している。

その雅生から十二郎のことを色々聞き出す愛八。

想いは募るばかりだ・・・




しばらくして、何処かの酔狂者が花月で総揚げをやるという。

それはなんとあの十二郎であった。

幇間の一八(尾藤イサオ)はこのお座敷を取り仕切ることとなった。

山芸者も町芸者も呼ばれ一つ座敷で妍を競う。

十二郎が奇妙な格好で踊り出て紙幣を四方に撒いた。

そんな十二郎の姿を見て、愛八はなんだかがっかりした。




長崎学の偉い学者と言われていたが、
一皮剥いでみればただの遊び人ではないか・・・

こんな男を一時でも好きになった自分の愚かしさに腹が立つ。

しかし、話をしてみれば意外な内面を見せる。

十二郎とは似た者同志であることを知る愛八。

突拍子もない話を持ちかける十二郎。

長崎の古い歌探しを一緒にして欲しいと言うのだ。




秋になって二人の歌探しの旅が始まった。

年を越し、梅の蕾もふくらみ始めた頃になって
ようやく収穫らしきものを採譜することが出来た。




二人が連れだって歌を探しに出掛ける姿は
長崎中の噂になり冷やかしを入れる者もいたが、
十二郎の妻艶子(中田喜子)は一つの口出しもしなかった。

夫の学問に深い理解を示す艶子は、
愛八に妻の座という揺るぎないものを感じさせる。




やがて歌探しの旅も三年目を迎えた。

集めた歌は百を越えていたが、
ぶらぶら節だけは発見出来ないでいた。

そのぶらぶら節にようやくめぐり合った二人。

しかし、これで歌探しの旅は終わりを告げたのである。




その夜、愛八は長年の思いを十二郎へぶつけた。

二人は同志であり戦友である・・・

二人を繋ぐ絆は探し出した沢山の歌・・・

その歌を後世に歌い継ぎ広めることが愛八の使命だと告げる十二郎。

それが別れの言葉だということには愛八にも判った。

十二郎は二度と自分に会うつもりはないのだ。

三年間は夢のように楽しき日々であった・・・




十二郎の言葉を守ってぶらぶら節を歌い広める愛八であったが、
可愛がっていたお雪が肺結核で寝込んでしまった。

お雪は母親に売られ行く末は女郎にされるところを
愛八が救い芸を仕込んでいるところであった。

この病は当時としては不治の病。

治すには莫大な費用がかかる。

花月の布団部屋で一人寂しく死を待つことになるお雪。

愛八は費用を出し、入院させることを決意する。




一方、弟の与三治は黙って愛八の旦那から
手切れ金を受け取っていた。

愛八の怒りに与三治は意外な言葉を返す。

それは愛八の出生の秘密・・・

帰るべき故郷を失った愛八・・・

その悲しみから一つの旋律(浜節)が生まれ出た。

それはどこかで聞いた覚えが・・・

乳飲み子の頃か・・・

それともそれ以前にか・・・




愛八はお雪の回復を願い天神様にお百度参りをする。

「身代わり天神様、うちの命と引き換えでええから、
どうかお雪チの命をお救い下さい」

祈る言葉はただそれだけだった。




しかし、無理がたたって瀕死の床に臥してしまう。

知らせを受けた十二郎が駆けつける。

最後の力を振り絞って自分の作った曲を聞かせる愛八。




それに歌詞をつけていく十二郎。

二人で作った歌が完成した。

この歌は愛八と十二郎の子供であった・・・

今はの際にお雪を自分の身代わりとして可愛がって欲しいと頼む愛八・・・

それだけを頼むと十二郎の腕に抱かれて静かに息を引き取った・・・




愛八の願いが通じたのか、お雪は奇跡的に全快した。




そして、お雪のお披露目の時がやって来た・・・

見事な舞を見せるお雪・・・

その美しさには誰もが目を見張った・・・。




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