「質屋の女房」
ー麻布陽だまり愛の町ー




STORY




時は大正五年(一九一六)。

神田鍛冶町にある角の乾物店は今日はちょいと騒がしい。

遠い親戚で質屋を営業している中村寅吉が来ている。

門野の家には常子、龍子、峰子の三姉妹がいて、
両家の約束で誰か一人、質屋に嫁がなくてはならない。

寅吉にしてみると誰でも来てくれるだけでありがたいのだが、
三人共嫌なのだ。

挙句の果てがジャンケンで、などという乱暴な事になったりして・・・。




で、ここからが物語の始まり、始まりーーーー。




時は移って昭和十年(一九三五)。

一九年の歳月が流れた。

芝白金は古川橋近くにある通称、
ひだまり長屋には幾野留蔵と郁のチンドン屋夫妻、
彫金師の伊助、彫金師の伊助の娘・マサ子の親子、
小説家・橘耕太郎(この作家、全然売れてないのに何故か
舶来のウィスキーを持っていたりして景気がいい)などなど大勢が賑やかに、
しかしその日その日を一生懸命に暮らしている。

皆が寄ると話にあがるのが日頃お世話になっている質屋のお内儀さんの事ばかり。




白金の坂下にある中村質店の旦那はケチで小心で
質屋の親父を絵に描いたような男とみられているが、
毎週火曜となると落語熱のおかげで店をあける。

代わって店番をするお内儀さんは気立てもいいし、
いろいろ相談にも乗ってくれるのでやたらに評判がいいのだ。

小説家・橘耕太郎は次作の題名がひらめいた。

口にしたのが「質屋の女房」・・・。




その中村質店で、田端眞二の質草をめぐる
色恋のもつれからあわや刃傷沙汰という時、
止めに入ったのが今や評判の女房に納まった龍子だった。

銀座コロラドのトランペット吹きである眞二を三流楽士とののしる龍子であったが、
眞二の音楽を聞いた夜、胸に熱いものを感じるのだった。




一方寅吉はというと、秋祭りのお神酒所と化した店先で
皆に得意の落語を披露しようという矢先、
田島蔦代が現れてから噺がメロメロになってしまう。

堅いと思われていた寅吉のなんだか様子が変だ。

変も変な筈、蔦代はなんと寅吉の子供を身篭っていた。

そんな時、質屋には不似合いな一人の客が入って来た。

聞けば彼は陸軍の少尉で名は森田洋介といい、
父親の病気治療の為に質草を持って来たのだが、
龍子はそのやりとりの間に何かふと胸騒ぎを感じるのだった。




昭和も一二年になり、
長屋では今や男の子を産んだ蔦代も住人だし、
マサ子と眞二もくっついちゃいそうだし、
耕太郎の家では品のいい老女が来て何やら難しい間柄のようだ。

寅吉と蔦代、それを受けとめる龍子の心も揺れに揺れて大変だ。




二月二五日の雪の降る夜、
何か思いつめた洋介が龍子に会いにやって来た。

彼は龍子に父の形見の万年筆を差し出した・・・。




・・・そして橋のたもとで僕は拾われた。

僕はイヌ。

名前はまだない・・・。




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