STORY
昭和二十年十二月。東京有楽町の日本劇場・・・通称「日劇」。
戦争で中断されていたレビュー公演は、この年早くも再会されていた。
演出家の佐伯新太郎(風間杜夫)も、司会者の楠田輝彦(井上順)も
明日から始まるショウのリハーサルに余念がない。
だが、NDT(日劇ダンシング・チーム)の踊り子たちは、
いま噂の「日劇の幽霊」に脅え、リハーサルどころではない。
新太郎と輝彦は、踊り子たちのために
衣裳部屋に泊まりこんで寝ずの番をすることに。
その夜、衣裳部屋に一人の少女・・・柳川かすみ(森光子)が現れる。
空襲のショックで記憶を失い、
行くあてもなくさまよって日劇に迷い込んだものらしい。
前途を悲観するかすみを励ます二人。
そこへ支配人の村岡誠(山本學)がやって来る。
村岡の話では、軍の工場となっていた日劇で
一人の女工が空襲のために亡くなっているという。
女工の名は「柳川かすみ」。
・・・かすみこそ、噂の「日劇の幽霊」だったのだ。
初めて自分が幽霊であることを知って、衝撃を受けるかすみ。
だが、かすみはやがて「日劇の守り神」として
皆から愛されるようになっていく。
高熱に倒れた歌姫・露立登美子(白木美貴子)を
不思議な力で治したり、
解雇を告げられた踊り子・日向佐知子(土居裕子)を
救うために超能力を発揮するも、
かえって騒ぎを大きくしてしまったり・・・。
かすみの姿は、村岡や裏方の菊次(石井愃一)、
事務所のふみ子(田根楽子)らには見えなかった。
また、かすみは決して日劇から外に出ることが出来ない。
この日劇に、よほど思い残したことがあったらしいのだ。
明るく振る舞いながらも、自分がこの世に戻ってきた理由が
分からないことを悩むかすみ。
時は移り昭和二十八年、ジャズブームの真っ只中。
かすみは、ジャズマンのキース芦田(山路和弘)との
ロマンスにも心踊らせている。
だが内心では、自分が実は新太郎に心魅かれていることにも気づいていた。
星空の見える日劇の屋上。
かすみは新太郎に、今まで抑えていた恋心を打ち明ける。
新太郎は、自分もまたかすみに魅かれていることを告白し、
生前のかすみとの思い出を語り始めた。
かすみを初めて日劇に連れて来たのは若き日の新太郎だというのだ。
レビューに感動したかすみは、「 NDTの試験を受けさせてあげる」
という新太郎の言葉を喜んだが、新太郎はその約束を忘れてしまい、
かすみはずっと日劇の前で新太郎を待っていたという・・・。
約束を忘れなければかすみが日劇で死ぬことは
なかったかもしれないと、自分を責める新太郎。
自分への恨みを晴らすために、
かすみはこの世に戻ったのかもしれない、と・・・。
昭和四十三年、「日劇ウェスタン・カーニバル」の舞台裏。
最近のかすみは、
人気グループサウンズのボーカル・ジローになぜか入れ込んでいた。
かつてキースのバンドの学生マネージャーだった
野島美奈代(熊谷真美)は今や、
やり手の芸能プロ社長としてジローたちの面倒を見ている。
一方新太郎は鬱屈の中にあった。
テレビ時代に流されてゆくレビューを憂いているだけではない。
ジローがかすみの記憶の糸口であることを見抜いていたのだ。
もし記憶が戻れば二人の関係は終わりになるかも知れない。
その想いはかすみも一緒だった。
自分がこの世に来た理由を知りたいという気持ちと、
思い出さないままでいたいという気持ちの間で悩むかすみ。
時代は、確実に移り変わってゆく・・・。
そして昭和五十五年。
すでに翌年解体されることが決まっている日劇。
その稽古場に、日劇を愛した仲間たちが集まった。
かすみがこのまま日劇と一緒に消えてしまうことが
耐えられなかったのだ。
輝彦の司会によって、
かすみの記憶を取り戻すためのショウが始まる。
それは、かすみが生まれて初めて観た、
あの日のレビューの再現だった。
かすみの記憶は、初めて新太郎と会った昭和十四年へと戻り始める。
そして日劇の前で新太郎を待ちながら聴いた
「ビギン・ザ・ビギン」の旋律が優しくも切なく、
かすみを包み込んでゆく・・・。