「少年H」




STORY




舞台は昭和14年、市場や工場、民家が混在する神戸の下町。

胸に大きく「H」と編み込まれたセーターを着ていたので、
まわりから「H」と呼ばれている少年・妹尾肇は小学校3年生。

学校の友達と海や山をかけまわったり、親に内緒で近所のお兄ちゃんのところへ
遊びに行って、レコードを聴いたり、映画を観たり・・・。

好奇心旺盛で、遊ぶことに大忙しの毎日を送っている。

時は日中戦争の真っ只中。

日本軍は中国で戦っていたが、その頃はまだHにとって
「戦争」は、遠い世界の出来事だった。

大好きなお兄ちゃんたちが戦争で連れ去られ、
Hの前から姿を消すまでは・・・。




Hが国民学校5年生の暮れに、大平洋戦争が勃発。

 その頃からHのまわりでも、戦争にまつわるさまざまな出来事が起こるようになる。

洋服の仕立て屋だった父は注文がなくなり、消防手として働くようになった。

近所の人に「赤紙」(召集令状)が舞い込み、
千人針を集める人の姿が町のあちこちに目立つようになった。

そんなある朝、Hの目の前で突然、家に乗り込んできた刑事に、
父がスパイ容疑で連行されてしまう。

母や妹に心配をかけたくない一心から、朝の出来事を自分の胸の内に秘めるH。

だが、日が暮れても父は帰ってこない。

Hは気が気でなかった・・・。




その当時、Hのまわりの大人や子どもたちの多くは、
日本は必ずこの戦争に勝つと信じていたが、Hは中学生になり、
ますますおかしいと思う世の中や学校の出来事に、
ムキになって反発するようになっていた。

先生から目の敵にされて殴られるHを見て、友だちはみんな心配したが、
Hはただ1人、間違っていると思うことを口にしてしまうのだった。

学校では連日の軍事教練や農作業、勤務動員。

戦争は長引き、人の暮らしはますます厳しく、食べることすらやっとになってくる。

小学生の妹・好子が学童疎開をする前夜、Hの家では家族が集まって、
なんとなく寂しい晩餐が行われた。

Hは翌朝、好子の乗った汽車が見えなくなるまで、いつまでもいつまでも見送った。




そんな矢先、神戸の町に焼夷弾が落ちて、Hの家は全焼してしまう。

そして8月、戦争終結。戦災者住宅で暮らすHたちのもとに
好子が帰ってきて、久しぶりに一家揃っての生活が始まった。

父も洋服店を再開し、平和な暮らしがやっと戻ってきたかのようにみえる妹尾家だったが、
手のひらを返したように民主主義を唱える世の中の人々の無責任さに、
Hの心は落ち着くことがなかった。

数々の出来事が起き、ある日、ちょっとした事件をきっかけに、
Hのイライラが爆発・・・。

悲しい表情でただ見つめるだけの父に、Hは思わず釜の蓋を投げつけて、
家を飛び出していく・・・・。