ミュージカル
「花・滝廉太郎」




STORY




所は新橋駅。乗降客、出迎えの人で賑わう。




時は明治二十七年、春。

木綿の絣に小倉の袴姿の青年滝廉太郎が降りてくる。

それを出迎える親友菱田春草、義兄の滝大吉、その妻タミ、
音楽学校で作曲を学ぶため、大分県竹田からの上京である。

そこで音楽学校の講師でもあるラファールケーベルを春草から紹介される。

一つ出逢いが生まれた。いや、出逢いは一つではなかった。

そこに京都に向かうためにやって来た琴の名手、川島検校と娘のイト。

盲目の父の手を引くイトと廉太郎、二人は一瞬にして恋に落ちる。

運命的な出逢い。




そしてその横でも西洋嫌いの検校とケーベルの出逢いがあった。




音楽学校の教室、ピアノを勝手に鳴らす学生達。

そこに不機嫌なケーベルがやってくる。

「ピアノヲ愛シタコトガアルカイ。ピアノハタダノ黒イ箱ジャナイ。」

ケーベルは技術より音楽に取り組む精神を教えている。

いや、音楽だけでなく人間がいかに学び、いかに生きるかを教えているのだ。




ここは川島家。

イトと廉太郎、二人にはお互いの理解を深めようという想いがあった。

そこに現れる検校。目は見えないが、
その分、検校には人の胸の内が見える。

廉太郎の胸の中に炎を見て悪魔と呼ぶ。

そして、「イトに近づくな。」と言いつける。

やって来た春草にそのことを話、
そしてイトに婚約者のいることを知らされる廉太郎。

だが、春草は諦めろとは言わない。

その変り悪魔となって奪うことを勧めるのであった。




廉太郎に喜んでもらおうとオルガンを贈った大吉とタミであったが、
喜びの声より先にイトとの結婚の意志を知らされる。

自分の人生を大切にするように諭すのだが、廉太郎の耳には入らない。

廉太郎にとって自分の人生を大切にすることは、
心の音を鳴らすこと。

そして、その音はいまやイトによって奏でられるものであった。




「日本中学校唱歌、作曲賞入選作品発表」滝廉太郎の名前が並ぶ。

認めたがらない学生達はケーブルに異議を唱える。

国費留学生に選ばれ、ドイツへ旅立つ廉太郎。エコヒイキだ。

と言っていた学生達の想いもいつしか溜息に変わった。

しかし、イトにとって廉太郎のドイツ留学は支えを失うこと、
裏切りのように感じられた。




響き渡るドラの音。いよいよ旅立ちだ。

見送る大吉、タミ、春草、そしてケーブルと学生達。

イトの姿を探す廉太郎に春草は、イトを諦め勉学に励むように言葉をかける。

そしてケーブルをはじめ皆の励ましを受けて、
廉太郎は自分の運命を悟り、タラップを上る。




希望を胸にドイツに渡った廉太郎。

念願のライプチヒ音楽院に学ぶことになる。

しかし、彼を待っていたものは、カルチャーショックであった。

向学心が増せば増すほど生命力が低下する。

そんな廉太郎を励ます人がいた。下宿屋の娘クララである。

部屋に閉じこもりがちな廉太郎に、感動を探しに行こうと街につれ出す。




クララの唱う歌にはげまされ、廉太郎の心の中に、
いつしか熱いものがよみがえる。

それは、少年の頃、心に響いたあの音だった。

感じるままに、溢れでるあの音。

廉太郎は自分の目指すべきものを見つけたのである。

そして場所は舞踏会へと変わる。

失笑の後の大拍手。

希望に少しづつ自信を肉づけする廉太郎であった。が・・・




突然、病魔が廉太郎に襲いかかった。

吐血する廉太郎。

走り寄るクララ、取り囲む男達。

これからという時の病いは、異国ということもあって、
廉太郎に郷愁の念を抱かせた。

そしてその想いは、川島イトに向けられた。

何度手紙を書いても返事が来ないことで尚更気弱になってゆく廉太郎にとって、
支えは、音楽に対する情熱だけであった。




その頃、日本ではイトが一つの覚悟を決めていた。

父検校の指図通り高弟、高村潔との結婚である。

廉太郎の想いをくんで春草が、川島家へと向かうが、
親子の意志を動かすことは出来なかった。

それどころか、逆にイトの別れの決意を、廉太郎に伝えることを頼まれる。

しかし、この別れは、イトが自分自身に言い聞かせているようであった。




入院して8ヵ月目の夏、廉太郎は肉体的にも精神的にも
元気を取り戻しつつあった。

その影には、クララの温かい看病があった。

二人の間には国境も性別なく、深い友情があった。

一日も早く、音楽院へ復帰することが二人の共通の願いであった。

そして、その日も遠くはないと思っていたある日、
日本領事館の使者として加藤一等書記官がやって来て
廉太郎に帰国命令を告げる。

異議をとなえる廉太郎であったが、
国費留学生である以上どうすることも出来なかった。

夢半ばでの帰国は、同時にクララとの別れでもあった。




不本意な帰国であったが、一年半ぶりに帰国した彼を、
春草、ケーベル、大吉、タミ、学生達が出迎えた。

しかしそこにイトの姿はなかった。

そして春草からイトは死んだと聞かされる。

全身から力が抜けて倒れる廉太郎。

が、彼は負けない。

心の中で音楽は鳴り続き、過去も未来も現在も、
その音楽に溶けて、廉太郎を終りのない旅へと誘う。