ミュージカル
「にんじん」
- Poil de Carotte-






STORY




ここは、南フランスの片田舎の小さな村。



真っ青な空、
さんさんと降り注ぐ夏の光、
吹き渡る優しい風、
どこまでも広がる畑。

村は濃い緑の森に囲まれ、
澄み切った小川が流れています。

のんびり穏やかな時間が流れるこの村で、
今日も村人たちが楽しそうに歌っています。



でも、その中にたった一人、
仲間はずれの男の子がいました。



それが、にんじん。



にんじんのような真っ赤な髪と、
そばかすだらけの顔。

だから、母親のルピック夫人が
“にんじん”と呼ぶことにしたのです。

父親のルピック氏も、
家族みんなも“にんじん”と読んでいます。

にんじんにだって、
フランソワというちゃんとした名前があるのに・・・。



にんじんは三人きょうだいの末っ子。
姉のエルネスティーヌは、
婚約者のマルソーとの結婚を控えています。

兄のフェリックスは、
母親に甘やかされてわがまま放題に育ちました。

夜遊びをするために、
弟のにんじんにお金をせびる始末です。



夕食の団らんのひととき。

家族そろって食卓を囲んでも会話らしい会話もせず、
それぞれが勝手きままなルピック家の様子に、
この家に新しく女中としてやってきたアネットもあきれ顏です。



誰にも愛してもらえないにんじん。

みんなにどうでもいいと思われているにんじん。

だから、どうしてもひねくれてしまうにんじん・・・。

そんなにんじんの数少ない友達が、
名付け親でした。

孤児のマチルドを引き取って育てているこのおじさんのもとに、
にんじんも小さいころ預けられていたことがあるのです。

ふさきがちなにんじんを、
名付け親は「空を見てごらん」と、
優しくはげまします。



ある晩のこと。

ルピック夫人の部屋から銀貨が一枚なくなるという事件が起きました。

夫人はにんじんを泥棒だと決めつけ、
はげしく責め立てます。

にんじんは必死で自分ではないと訴えますが、
信じてもらえません。

アネットの助け舟で、
フェリックスのしわざだったことがわかりますが、
フェリックスにおとがめなし。

疑いが晴れても誰からも声をかけられないにんじんを気づかうのは、
アネットだけです。



家族みんなが仲良く、
だれもが笑顔で、
楽しい話に花が咲き、
なごやかな団らんのひとときが繰り広げられて・・・。


そんな光景は夢のまた夢。

いっそ、僕がこの世から消えてしまえば楽になるのに・・・。

にんじんの心にそんな思いがよぎりました。



数日後。

久しぶりにルピック氏の猟のお供をさせてもらえたにんじんは、
はしゃぎすぎてルピック氏にきびしく叱られてしまいます。

もしかしたら自分はルピック家の本当の子供じゃないのかもしれないと、
思いつめるにんじん。



その日の夜、ルピック夫人に初めて反抗しにんじんは、
思わず家を飛び出してしまいます。

行き着いたのは、
名付け親の家。

そこへ迎えにやってきたのは、
ルピック氏でした。



結婚式を間近に控え、
心浮き立つエルネスティーヌは準備に余念がありません。

ところが今度は、
マルソーから贈られたルビーの指輪がなくなるという大騒動がもちあがります。

疑いの目は、
やっぱりにんじんに向けられますが・・・。






- 松竹 株式会社 提供 -