「魔の刻」





STORY
   



水尾涼子は息子・深に会うために、夜通し車を飛ばして漁港に着いた。

が、もう二度と姿を見せてくれるなと、深の言葉は冷たい。

涼子は一流企業に勤める夫・敬一郎に離婚を申し出、東京の家を出てきたのだ。




深の方は一年も前から各地を転々とした末、この港町に安らぎを覚えて住みつき、
直吉丸という魚屋で働くようになっていた。




涼子は港町にアパートを借りた。

はす向かいの花井薬局の主人・花井は、
隣近所から奇妙な眼で見られている中年のヤモメ男。




ある日、花井は涼子を魚釣りに誘った。

花井は二年ほど前に妻を心臓マヒ、その母親を脳出血で亡くし、
この相次ぐ死を不審がった警察は、
墓を掘りかえして骨壷の骨を鑑識にまわしたことを告げた。




上等のトロの刺身を買い込んで、毎夜、深を待つ涼子は想いを過去に走らせた。

涼子と深が母と子の関係を超えて間もない夜、
社長の急死で出張が中止となった敬一郎が突然、帰宅した。

妻と息子が抱き合っている姿を見た彼は絶句する。




その時以来、涼子は深を拒み、彼は気が狂ったように家出した。

あれから一年、一度は許されぬ愛を断とうと心に決めた涼子だが、
いま再び深を求めている。




深は直吉丸の娘・葉子と一度、寝たことがあり、
その事が直吉丸の従業員仲間に知れて、包丁で腹を刺された。

涼子は深を花井薬局にかつぎこみ、表沙汰を嫌う深の頼みで、
花井は知人の医者・西方に治療を依頼し、ことなきを得る。




だが、直吉丸従業員の自首で、この傷害事件をかぎつけた片貝が、
花井薬局の周辺をうろつく。

涼子は花井から、彼の妻が実は医者の西方と
ホテルに居て心臓発作を起したことを聞いた。

やがて花井は、暫く旅に出ると涼子に置手紙を残して姿を消した。




涼子にとって、深の看病は楽しいかぎりだったが、
深は訪ねてきた葉子と共に花井の家を出て行った。

涼子は深を求めてさまよい、逃げる彼に激情を叩きつけ、
二人は愛し合った。

それを物陰で片貝が見ており、港町中に知れわたった。

深はアパートを払って姿を消し、花井が町に帰ってきた。




花井は妻の母親を薬殺したこと、母親と関係があったことを涼子に告げた。

涼子は深との母子相姦までのすべてを彼に打ち明けた。

敬一郎に東大コースを強要されて、深は二浪したあげく入試に失敗。




そして、家庭内暴力、酒、ビニ本と転げ落ちていった。

涼子は彼と死のうとしたが、その時、母と子の一線を越えてしまったのだ。

涼子と花井は、ディスコでタンゴを踊り、ホテルで愛し合った。




翌日、花井の水死体が上がる。

港町を去るために、車を走らせる涼子の前に深が現われたが、
彼女は彼をつきはなした。