製作=小川企画 配給=東宝
1993.10.09
115分 カラー ビスタビジョンサイズ





STORY









江戸時代ーところは京都、宗椿(そうちん)長屋。

そこには貧しいながらも皆で力を合わせ、
日々の暮らしを懸命に生きる親と子供たちがいた。




傘張り職人の忠七(長塚京三)さだ(浅利香津代)夫婦と
ひとり息子の宗吉(渡部篤郎)、
おとこやもめの提燈職人、九兵衛(村井国夫)には
下駄屋に奉公にでている富士太(高島政伸)のほか、
千代(和久井映見)きく(渋谷琴乃)の三人の子供がいる。

今は扇絵師だがかつては高名な画家の弟子であった
式部(山本 學)とその妻伊勢(星由里子)の間には
一人娘の貴和(水野真紀)。

うどん屋夫婦、勘助(川谷拓三)と粂(秋篠美帆)には
彌市(大森嘉之)とあき。

そして、何かと子供たちの世話を焼く独り者の髪結い職人、
彦十(乃生佳之)。




そんな親子や兄弟たちが肩を寄せ合い生活しているのが
宗椿(そうちん)長屋だった。

子供たちは、共に将来の夢を語り、
初恋とも呼べない程の淡い感情を持ちながら、
知らず知らずの間に大人に成長していった。




桜の花びらが散る頃、
宗椿長屋の子供たちも巣立ちの時を迎えていた。

長屋の井戸端では、
今日から染め物屋に奉公に出る彌市に先輩格の富士太が
「奉公はつらいで。・・・阿呆でも鈍でも番頭はんを
立てなあかんのや」と助言していた。

また、「わしはな、五重塔ぶっ建ててやるんや」
と宮大工を夢見る宗吉は自ら、京一番の宮大工、
長左衛門(北大路欣也)に弟子入りを頼み込んでいた。

旅立つ子供たちがいる一方、
男やもめの九兵衛のもとには飲み屋の女、
琴(佳那晃子)が後妻にやって来た。




やがて夏。

いよいよ宗吉も長左衛門のもとに奉公に出る日がやって来た。

新しい母がきても九兵衛の家では相変わらず千代が家事をし、
懐かぬ子供たちに腹を立てた琴の怒声が
宗椿長屋に響き渡っていた。

千代を想う宗吉は、
後ろ髪を引かれながら奉公先へと向かっていった。

貴和は漬物屋へ奉公に、
彌市の妹あきは貧しさから造り酒屋へ養女に出されていった。

こうして宗椿長屋から賑やかだった子供たちの
声が少しずつ消えていった。




7年の歳月が流れ、若者たちはそれぞれの奉公先で
自分の地歩を築きつつあった。

そんな頃、宗椿長屋で大事件が起きた。

後妻の琴と相談した九兵衛は三両の金で、
器量よしの千代を島原の遊廓へ売ろうと企てていたのだった。




急を聞いて駆けつけた兄の富士太は、
気付いた時には奉公先から持ち出したノミで父親を突いていた。

さらに悲鳴をあげる琴の胸にもノミを突き立てる・・・。




東町奉行所の庄兵衛(田中邦衛)は妹を思っての犯行に
慈悲の念を感じ、富士太の減刑のため奔走する。

長屋の住人たちからも助命嘆願書が出された。

しかし、結局お上にその願いは聞き入られなかった。

「親殺しを許したら世の中が乱れ、ご政道のさまたげになる」
ということだった。

処刑までに何年かの猶予があるという事が、
却って生殺しのようで皆には辛かった。




ふたりきりの姉妹になってしまった千代ときくは
庄兵衛の計らいで錦小路の魚屋・魚惣の女将糸栄(池内淳子)
のもとに引き取られていった。









それから三年。

奉公にも慣れ、糸栄とその息子信之助(佐野史郎)
との確執にはさまれながら、
千代ときくは元気に暮らしていた。




そんなある日、庄兵衛が辛い知らせ持ってやって来た。

「本日未明、富士太は立派に死んだ」。

処刑には庄兵衛と宗吉の二人が立ち会ったという。




その夜、宗椿長屋の宗吉の家には懐かしい顔ぶれが一同に会し、
刑死した富士太の弔いをしていた。

思い出話をする内、
千代は富士太が想いを寄せていた貴和が
今は島原の遊廓にいると彦十から聞かされた。

兄がこんな事にならなければ貴和に別の人生があったかもしれない。

同じ島原の遊廓に売られるところを兄の富士太に
助けられた千代にとっては、
それは激しい衝撃だった。

しかも、その兄の大事な想い人が今まさに
その遊廓にいるという皮肉。

千代は止めどなく涙を流すばかりだった。




大人になって歩き始めても、人生の思わぬ歯車の食い違いのため、
翻弄されていく若者たちの運命(さだめ)。

千代の人生もやがて思いもしなかった方向へと流れていく・・・・。