「母」
STORY
昭和30年、秋。
東北のある村で農業を営んでいた磯村久一郎は、
祭りに参加した際騎馬戦で落馬し、半身不随になってしまった。
磯村には妻と5人の子供がいたが、この事後をきっかけに生活は激変した。
母が夫の看病に専念するために、母親であることを放棄したのである。
子供たちは勉強以外の家事、炊事、洗濯、掃除なども
自分たちでしなければならなくなった。
幼い子供たちは母を憎み、父を恨んだ。
そして、「父を殺せば、母はまた自分たちの母に戻ってくれる。」
とも考えたが、過酷な運命に絶えて頑張り続けた。
やがて15年が経ち、子供たちはそれぞれ就職や結婚をし、
独立して生計を立てていた。
末っ子の久子もようやく隣村の青年と結婚することになり、
式の当日、家に立ち寄った。
そこで久子は母が全身麻酔となった父に、口移しで食事をさせている姿を目撃し、
感動とショックを覚えるのだった。
それからさらに13年後、父は息を引き取った。
そして、生まれてから一度も村を出たことのなかった母は、
ニューヨーク旅行へ出かけ、自由の女神像や摩天楼を見物した。