角川春樹事務所創立10周年記念
「二代目はクリスチャン」





STORY
   



やわらかな初春の光がステンドグラスを美しく輝かせている、
ここ六甲山の中腹、聖サフラン協会では、
天竜組組長・故天竜源一郎の告別式がしめやかに行われていた。

オルガンで賛美歌の伴奏をしているのはシスター今日子。

その瞳は神のみを見つめ、
端正な横顔はこの世のものとは思えないほど美しく、やさしい。




そのシスター今日子に惚れているのが、
女たらしのダメヤクザ・天竜晴彦。

本来ならば業界の大老舗天竜組組長二代目という
エリートコースをすぐさま継ぐべきところ、
恋は盲目、晴彦にとっては天竜組の代紋よりも
今日子の存在の方が大きいらしい。

彼女の気をひくために毎日教会のブタ小屋の掃除に余念がない。

そろどころかついに、子分の意見を無視して全員
クリスチャンの洗礼を受けさせてしまう困ったお人。

腹巻きの中にはドス、首には十字架というわけで、
子分達はたまったものではない。

ヤクザ仲間からは馬鹿にされ、右の頬を打たれれば
左の頬を差し出すという教えを守りながら
コテンパンにやられる始末である。




一方、そんな晴彦たちの姿をイライラして見ているのが、
神戸署の神代刑事。こちらもまた始末が悪い。

晴彦と幼なじみで、恋仇、
おまけに実家が天台宗のお寺ときている。

シスター今日子と結婚したかったのだが、
宗教の厚い壁に阻まれてしまう。

当のシスター今日子は、ある嵐の夜、
宿命的な出会いをした英二という男に秘かな恋心を抱き続けていた。




そんな時、晴彦が、天竜組と対立する
黒岩会の黒岩と沼川に袋叩きにされた上、
彼らの事務所に連れこまれてしまった。

子分の磯村とともに晴彦を助けにいった今日子は、
そこで英二と再会する。

かねてからの思いを告白しようとした今日子は、
英二によりそう女の姿を見て、その場に立ちつくすのだった。




今日子は、ついに自分に思いをよせてくれている
晴彦と結婚をすることに決めた。

式の後、全国の親分衆の前で、
晴彦の二代目襲名披露も行われることになった。

だが嫉妬に狂った晴彦の情婦・百合が今日子に襲いかかり、
それをかばった晴彦は代りに刺されてあっけなく命を落としてしまう。




はたして二代目襲名は!?親分衆の前で、
二代目として挨拶したのは残された今日子だった。

そして今日子は、自分の父親がその昔”狂犬病の鬼頭”と呼ばれた極道であり、
その父を殺したのが英二であることを知らされる。

神戸の利権を我が物にしようとたくらむ黒岩会は、
一気に天竜組を潰そうと無差別攻撃にでた。

次々と倒れてゆく愛すべき子分達、
そればかりかシスターと共に明るく生きようとする子供達までもが標的にされた。

爆破されメチャクチャになった教会の聖堂にボーゼンと
立ちつくすシスター今日子、いや、二代目天竜今日子。

その時、崩れ落ちたキリストの像の後ろから油紙で
包まれた亡き父の長ドスを手にする今日子。

「私、もう頭にきました!」




運命のいたずらか、雨が降りしきる橋のたもとで今
日子の行く手をさえぎるのは、あの英二であった。

英二は今日子に人の斬り方を教えると、
自分から彼女の手にかかって死んでいった。

最愛の人を自らの手で斬ってしまった今日子は、
神代と子分の次郎を従えて、にっくき黒岩会に猛然と殴り込んで行く。




「てめぇら!!十字を切って悔い改めやがれ。でねぇと一人残らず叩っ斬るぜ!!」