「蒲田行進曲」





製作=松竹=角川春樹事務所
1982.10.09
109分 カラー ワイド






STORY
   



ここは、時代劇のメッカ京都撮影所。

いまは折しも「新撰組」の撮影たけなわである。

さっそうと土方歳三に扮して登場したのは、
撮影所中でその名も高い”銀ちゃん”こと倉岡銀四郎である。

役者としての”華”もあり、人情もある銀ちゃんだが、
感情の落差の激しいのが玉にキズ、この日も初めての主演作とあって、
神経が異常にたかぶっている。

カメラの前を横切ったということで、
とりまきの大部屋役者を、イビる、なぐるで、手がつけられない。




こんな銀ちゃんに長いことあこがれ、師事している男がいる。ヤスである。

いまや銀ちゃんのいいも悪いもすべて知った上で、
どうしても別れられない”微妙”な関係である。

ヤスの目から見れば、決して銀ちゃんは悪人なのではない。

人一倍仕事に、人生に、自分なりの強烈な美学を持っているだけだ。

たとえば、大部屋の連中をよく食事に連れていってくれるし、
それぞれの生活にも気を使ってくれる、気まえがいい。

だがそうした行為に応ずる方法がムズかしい。めっぽう正直で孤独なだけに。

だから、ヤスは銀ちゃんのためなら、火の中水の中、
身を削ってもつくすことに決めている。




ある真夏の昼下り、パンツ姿でゴロゴロしている
ヤスのアパートに突然銀ちゃんがやってきた。

以前から憧れの女優・小夏が一緒だったのでヤスはビックリした。

銀ちゃんはいつもながらムチャクチャな調子でヤスにこう言った。

「オレを助けると思って、こいつと一緒になってくれ」、
小夏は銀ちゃんの子供を身ごもっていて、これからの俳優生活に影響する、
だからヤスの子として育ててくれと言うのである。

「銀ちゃん、いい仕事して下さい。小夏さんのことたいせつにしますから・・・」
銀四郎の迫力にこう応えるヤスである。




小夏が妊娠中毒で入院することになった。ヤスは毎日看病に通った。

 その間、ヤスは撮影所でお金になる危険な役をすすんでひきうけた。

小夏との新しい暮しを考えていたのだ。

退院した日、小夏はヤスのアパートにもどって驚いた。

新品の家具と電化製品がズラリと揃っていた。

それとひきかえにヤスのケガが目立ってきた。

それまで銀ちゃん、銀ちゃんと、自主性のないヤスに
腹だたしい思いをしていた小夏の心が、しだいに動き始めた。

 ある日、小夏はとうとうヤスと本気で一緒になる決意をした。

ヤスの郷里への挨拶もすませ、親戚縁者の援助もあって、
いよいよ結婚式・・・新居にマンションも買った。




何日かして、銀ちゃんが2人の前に現われた。相当に落ち込んでいる。

小夏と別れたのも、朋子といういま風の若い女に夢中になったためだったが、
結局その娘とも別れてしまったのだ。おまけに仕事も行きづまっていた。

 そんな銀ちゃんを励ましながらヤスはこう言った。

「あの”階段落ち”をオレやりますから元気出して下さい!」

階段落ちとは、「新撰組」のクライマックスであり、
斬られた役者が数十メートルの階段をころげ落ちるという
危険きわまりない撮影だ。これをヤスがやろうという。
大部屋役者の心意気を見せて、なんとか銀ちゃんを励まそうと必死だったのだ。




いよいよ”階段落ち”撮影決行の日が近づいてきた。
ヤスの心にだんだん不安がふくらんできた。

それとともに、その表情には鬼気さえ感じるようになってきた。

心の内を察して小夏は、精一杯つくすのだが、今のヤスには通じない。

 一方、銀ちゃんもヤスの迫力に押され気味。

 三人の運命の糸は、”階段落ち”に向ってもつれ、からんでいく・・・・・。