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百夜への道は遠い。




2007/11/26[第六十五夜] 「落下」 必死になって月の取っ手にしがみついてたのだが くしゃみをした拍子にうっかり手を離してしまった。 あっという間に地球の重力の手に捕まり 一昨日から地球に落ちている真っ最中です。
2007/8/30[第六十四夜] 「右巻きらしい」 突然、月明かりが消えたので 月のゼンマイが切れたのかと思ったら ゼンマイが切れたのは太陽の方だった。 で、誰が太陽までゼンマイ巻きに行くんだ?
2007/8/13[第六十三夜] 「うわさばなし - 周期」 月の満ち欠けは ダイエットとリバウンドの繰り返しらしい。
2007/8/13[第六十二夜] 「うわさばなし - 魅力」 地球と月のあいだの引力と 人と人との惹き合う力は 実は同じだったらしい。
2005/5/25[第六十一夜] 「スコール」 今日も当然の雨が降る。 温暖化で亜熱帯と化した至る所で。 季節を問わずに日々降り注ぐ営み。 唐突に太陽は掻き消され 飽和寸前の大気が人々を停滞させる。 雨に閉ざされた僕は 部屋に明かりを灯す。 バンブーシェードの小さなランプ。 光速でスリットから溢れ出すコントラスト。 光と影のスコール。 陰陽と水蒸気で満ちた小さな部屋は まるで世界の縮図のようだった。
2004/12/08[第六十夜] 「リ・フレッシュ」 真夜中に洗濯機を回す。 ガランガランとリズムを刻む。 夜の中で無限に回る。 一日の終わりを感じられない、ここ数年。 夜はすぐ朝に繋がってしまう。 回る回る日々の中、 回る回る洗濯機。 暫しの休息で さっぱりとリフレッシュ。 洗いたての私で朝を迎えよう。
2004/12/07[第五十九夜] 「容量」 湯船に浸かる。 私の体の分だけ 気圧を押しのけ上昇する湯面。 だけど 心の分も含めたらどーかしら。 25mプール分くらいはきっと余裕。 底のほうのドロドロや 上のほうの澄んだのをぐるぐるっと混ぜて 一気に解き放つ。 私の心で波波と満ちたプールに プカプカと浮いてみたい気もする。 気持ちから開放された身体で ただ日を浴びて浮いてみたい。
2004/12/06[第五十八夜] 「涅槃」 眠気が瞼を閉じて 束の間の安らぎ。 夢は見るな。 恐怖と幸福と混乱で乱れる。 ただただ深遠へ向かうのだ。 深い深い闇の底へ。 世界の根源は闇であり夜である。 そう、光が後からやってきた。 君の瞳は光よりも先に 闇を見ていたのだ。 さぁ、母なる闇の中で しばしの休息を。
2004/12/06[第五十七夜] 「状況証拠」 君にしっぽを踏まれてしまって 僕のしっぽは千切れてしまった。 あれからずっと、 君の足元でじたばたしてるらしい。
2004/12/06[第五十六夜] 「行動原理」 真冬に咲いた光が 言葉を越えてしまった。 文字や音声で伝えられなくて こうして抱えて持ってきてしまいました。 あなたに見せたかった光景が、ここにあります。
2004/12/03[第五十五夜] 「背伸び」 朝、目が覚めると 建物が成長していた。 ベランダから雲が見下ろせる日がこようとは。 あー。 階段で降りるのは辛そうだ。
2004/11/01[第五十四夜] 「砂漠の丘」 砂の丘に眠る彼を 早く起こしに行かないと。 もうすぐ夕日が落ちてくる。 砂の丘に眠る彼を 早く起こしに行かないと。 嵐で砂に埋もれてしまう。 砂の丘に眠る彼を 早く起こしに行かないと。 闇から伸びるあの白い手が 黄泉へと彼を連れ去ってしまう。 砂の丘に眠る彼を 早く起こしに行かないと。 私がどんどん乾いてしまう。 水が砂を潤すように 私は彼に満たされる。
2004/10/20[第五十三夜] 「おかえりなさい」 雲さえもかき散らすほど 光に満ちる日暮れ前。 光は光として時間を支配する。 光速の永遠。 空を埋め尽くした光の中で、 太陽は止まる。 落ちる事も昇る事も忘れて。 その世界の均衡を崩したのは まだ白い月。 ほっそりとしたその手で そっと太陽の背を押した。 太陽は我に返り、 稜線に設けられた舞台袖に引き上げていく。 そして月は唐突に開花した。 天幕を引き、一身に世の希望を受ける。 さぁ、 あなたの夜道を照らしましょう。 あなたの帰路と足元を。 明日へと続くその道を。 また明日、太陽と出会うまで。
2004/7/14[第五十二夜] 「不安」 真夏の真夜中に 漆黒の川に 一つの音。 ドボン。 私は凍りつく。 何の音だ。 何かが落ちたのか。 それとも跳ねたのか。 周囲に人気は無い。 空気の温度が下がる。 動けない。 得体が知れないという ただそれだけで心は縛られる。 そこに、目の届かない底に 何かがいるのではないか。 闇は遍く安らぎの静寂であり しかし、全てを覆い尽くす邪な感情でもある。 闇に潜む見えない悪意への恐怖は 抗し得ない本能の呟きだ。 ただ一つの音が 今、私の妄想を操り この足を止め続けている。 何の音だ。 鼓動は止まったままだ 何の音だ。 汗がつたっていく。 何の音だ。 何の音だ。 何の音だ。 グェーコグェーコ それは再び時間を取り戻す鳴き声だった。 一匹の牛蛙が世界を止めていた。 私の恐怖の扉はその鍵で開かれた。 虫虫の声が静かに染み出す。 日常が動き出す。 ようやく動き出した心臓の鼓動を確かめながら 私は安堵の足取りで寝床に向かう。 ゆっくりとぬるい水を掻き分け 水藻の感触を足の裏で辿りつつ 私は水の底へ身体を躍らせる。 水掻きを抗いながら流れていく水。 その漆黒の水面に沈み行く。
2004/7/6[第五十一夜] 「例え話」 木星に近づいた時 太陽風が木星の磁場に衝突する音を聞いた。 それは遠い雷鳴の様だった。 火星に降りた時 青い夕焼けを見た。 それは沈む朝日の様だった。 地球に生まれた時 眩しい光を感じた。 それは毎日やってくる明日の様だった。
2004/7/6[第五十夜] 「取って付けて狙い定めて」 七夕の夜はロマンチック。 織姫も彦星も年に一度のベッドイン。 光の速度さえ乗り越えて 会いに行く気持ちがとても大事。 もちろん僕だって それくらいの想いだよ。 だから君と同じ時代に生まれてきたんだよ。
2004/7/6[第四十九夜] 「待ちわびる」 一転俄かに掻き曇った空。 高く高く入道の雲。 家の一番大きな窓の前で待つ。 傍にビールと籠の鈴虫を置いて。 重い空気が遠くの雨脚を伝える。 ゴロゴロとした天鳴りがやってくる。 一筋、一筋、窓がひび割れてゆく。
2004/7/6[第四十八夜] 「韜晦」 汗が滲む。 昼間の残りがまだ燻っている。 寝所においてもなお 鬱蒼とした夏が染み込んでいる。 蝉が昼夜を忘れ狂っている。 嗚呼厭だ。 熱気に浮かれた奴らが 私の傍を通って這い出て行く。 その穴から差し込むのは日光か月光か。 私の静寂を護る石が 今はただ鬱陶しい。 光も闇も蝉も夏も 私の安らぎを狂わせる。 もっと深く深く行かねば。 なにもかも聴こえなくなるまで。 なにもかも感じなくなるところまで。
2004/7/1[第四十七夜] 「熱帯夜」 ほら、 薄曇の空の束の間から月光がこぼれてる。 生い茂る夏草の ほんの少しの隙間から地球に吸い込まれるわ。 あの青々とした小さな森には小さな住人がいてね、 彼ら鳴き声は、時に影響を及ぼすの。 聴き入る者の夜を、夜として留めるの。 そうね 夕暮れ時の蝉時雨みたいな感じ。 永遠に夕日が落下しないあの1秒。 ねえ、耳を傾けて。 夜を止めましょう。 明日なんて来なくていいわ。
2004/6/30[第四十六夜] 「響き」 音。 風鈴の音が耳を撫でる。 夏。 夏を奏でる金属の響き。 軌跡。 湿度を含む夜風が通り過ぎた軌跡。 記憶。 日本に育ち、繰り返した夏の数だけ蘇る ノスタルジアの遠い花火。
2004/5/15[第四十五夜] 「苦しいヒビ」 少しずつ じわじわと 割れていく。 あちらこちらと 亀裂は走る。 そうして殻は割れ、脱皮が始まる。
2004/3/15[第四十四夜] 「強風につき」 桜吹雪に因る遭難にご注意ください。
2004/1/29[第四十三夜] 「夜明けの花」 ドウドウと日は落ち オウオウと月は幕を牽く。 山吹と群青の境界。 沈みゆく昼に縁取られる逆光の稜線。 彼方と此処とが同時に逆天する。 僕は朝の蕾を持って夜に踏み込む。 月光を浴びて開花する 明日の蕾。
2004/1/15[第四十二夜] 「半月」 満ちて欠けてその半分で。 光と影とその境界。 弓を引く天狼の遠吠え。 冬の先っぽのその向こうに 落ちている残りの半分。
2004/1/14[第四十一夜] 「凍夜」 こんなに空気が澄んだ夜に。 こんなに光が遠い夜に。 月は凍り、「今」は止まる。 僕は重い服を着込み、 地球に立って天を仰ぐ。 深く呼吸。 肺に身体に冬が行き渡る。
2003/12/6[第四十夜] 「独占欲と共有欲」 共有したいのは好きなもの。 独占したいのは好きなひと。
2003/11/30[第三十九夜] 「幻のごとく」 オリオンが目立ち始めたら それは冬のつま先。 枝から葉が離れる合図。 地面の下の霜柱の種が目覚め始める。 ガラスは冷気を思い出し 大気は光が収束しだす。 緊張の季節。 夏の見る夢。
2003/11/30[第三十八夜] 「引力」 からだとからだ。 体温と体温。 それを繋ぐのはこころ。 こころとこころを繋ぐのは 愛という名の引力。
2003/11/30[第三十七夜] 「赤」 人の血が赤いのは 情熱が隠しきれない証。 脈々と受け継がれる 生命の根源の赤。
2003/11/5[第三十六夜] 「知ってるはずだよ」 自転の速さで朝がやってくる。 街に足音が増え始める。 その無数のリズムが 無限の変拍子へと変わる。 音と音楽の差は 君の耳の奥にある小さな感受性が知っている。
2003/11/4[第三十五夜] 「ポイント」 チグリスの岸から岸へ 歩く君の足跡。 重く連なる雲の境界から 僅かに漏れる太陽。 西に向かう鳥群の背中を銀色に照らし。 その影が君の上を駆け抜ける。 君の上に世界は高く青く。 君の足元に世界は広く遠く。 人が立つ場所に世界は広がり、 世界は人と共に広がっていく。 君が歩くその後に 世界と歴史はついていく。
2003/10/28[第三十四夜] 「届けたい」 音を締め出した部屋に 光と葉書とペン。 たった一人の為の時間。 あの人に伝えたい事を封じ込める時間。 ほんの数行でも。ささいな事でも。
2003/10/23[第三十三夜] 「NOW」 携帯電話のおかげで いつでも伝えたいときに 感動をあなたに届けられる。 夜空の下で月が綺麗な事や 電車の窓から遠く見える海の煌き。 どんなに遠くても遠くても 声だけでも時を共有していたい。
2003/10/22[第三十二夜] 「コントロール」 私があの人に電話番号を教えないのは あの人からの電話を 心待ちにしてしまうのがイヤだから。 いつ、かかってくるかなんて 気が気でなくなるなんて冗談じゃない。 私は自分の恋心に支配されたくない。 自分を縛る為に恋に落ちた訳じゃない。
2003/10/15[第三十一夜] 「墓標」 あの人を月に埋めた。 毎夜、天に昇り私に会いに来る。 誰も手の届かないその場所は、 私だけが知っている。
2003/09/30[第三十夜] 「夜と夜 月と月」 今宵の空は雲の流れが早く早く、 その向こう側に月や星が瞬いていた。 数年前に無くなったプラネタリウムで見た光景とそっくりで 感慨深く眺めていた。 こんな夜はそうはない。 天頂に在る月と銀のドームにあった月。 二つの月が心に輝いていた。
2003/09/29[第二十九夜] 「失楽園」 ホログラフの月が地下室に浮かぶ。 本当の君は遥か38万4千4百kmの彼方。 もう長い事、空を見ていない。 狭い闇に浮かぶ嘘の月だけが 我々に残された唯一の夜だ。 地上が終わりを告げてから久しい。 今や、青い空を知らない世代も多くなった。 今日も地表を有害な気流が洗い流す。 防御服なしには5分と生きられない光の世界。
2003/09/28[第二十八夜] 「あなたがつけた名前で私を呼んで」 ニ胡の響く夜。 月の共鳴は月であり、 決してMOONでは無い。 呼び名が違えば存在のニュアンスも変わる典型。 イギリスの月と 中国の月と 日本の月は 完全一致ではないということ。 わたしの月が あなたの月と同義でないということ。
2003/09/27[第二十七夜] 「同じ高さ」 雨の夜 軒先で雨宿りしている月を見かけた。
2003/09/26[第二十六夜] 「アイデンティティー」 真昼の細い月が 雲の無い秋空に薄く薄く。 ホロホロと揺れる。 フラツイテイルノハジブン。 世界はどこに立っている? 自分はどこに立っている? 月はどこに沈む? 月はいつ昇る?
2003/09/25[第二十五夜] 「病は気」 コホコホと咳が止まらない。 月は青く天にある。 風は秋をたくさん含み静かに雲を送る。 庭も無いワンルームのベランダ。 一人、病のステータスで世間とはぐれ中。 地球に一つの衛星、月と同じ。 傍にある地球に気付かずに 一人と思い込んでいる。
2003/09/24[第二十四夜] 「from Moon」 音が響かない。 ただ光だけが溢れている。 耳には自分の呼吸と鼓動だけ。 宇宙服越しに触れる月の大地と宇宙。 ここだ。 ここが夢にまで見た世界だ。 今、地平から地球が昇る。 ハローハロー。 月面から地球のあなたへ手を振ってみる。 青く遠い遠い地球。 あなたはそこにいる。 そして僕はそこに還る。
2003/09/23[第二十三夜] 「届かない場所」 心当たりは重く苦しい心の鎖。 月に懺悔する日々。 月は何も言わずただ沈むだけ。
2003/09/22[第二十二夜] 「ゴクリ」 夜空に向かって大あくびをしたら 月を飲み込んでしまった。 口からは月光が漏れ出して眩しい。 お腹まで光っている。 どうしよう! うーん。 月って消化できるのかなぁ?
2003/09/21[第二十一夜] 「KISS」 月は地平に沈むとき 地球に口づけをしていく。 地球の核の熱量は こうしてチャージされているのである。
2003/09/20[第二十夜] 「半月と半月」 上弦の月が昇った。 しばらくして下弦の月が追いかけてきた。 西の果てに沈む前には 二人は一つになっていた。
2003/09/19[第十九夜] 「エロティックルナティック」 私の首を撫でる貴女の月が 今宵も煌々と闇を照らす。 私の鎖骨を噛む貴女の月が 闇をも暴くので、さらに月影を探し隠れる。 私の内腿にくちを這わす貴女の月が 二人をどこまでも照らしてしまう。 私の心を咥え込む貴女の月が 明日の朝を奪い去る。 どこまでもどこまでも 二人の夜が続く。
2003/09/18[第十八夜] 「蓄光」 しまい忘れていた風鈴に 月の光がうっすら積もっていた。 夏の夜が残した跡。
2003/09/17[第十七夜] 「夜空をどれくらい見てますか?」 今夜、月は西から昇って東に沈んだんだよ。 君は気付いた?
2003/09/16[第十六夜] 「さて、落としたのは誰?」 リモコンを拾った。 月の満ち欠けのリモコンだった。 光がうるさい夜は新月モード。
2003/09/15[第十五夜] 「煙に巻かれる」 沈み行く月を追いかけて海まで行ったが 季節柄、海月だらけで どれが本物の月か分からなかった。
2003/09/14[第十四夜] 「インプラント」 治療した虫歯に 月の石を詰めてもらった。 その日以来、 何を食べてもコスモな味わい。
2003/09/13[第十三夜] 「楽園」 水面に浮かぶ月は夜を照らす役割を捨て 本来の姿だけをゆらゆらと映している。 その月を飲み込むのはクロコダイルの群れ。 その水面近い視界には月影など映らない。 こうしてバナナワニ園の夜は耽る。
2003/09/12[第十二夜] 「石月」 中国で月の化石が次々と見つかった。 満月、三日月、上弦の月とあらゆるタイプが発掘されたが 未だに新月だけが発見できていない。
2003/09/11[第十一夜] 「ローテーション」 様々な書物に綴られた月が 順番に天に昇ってるらしい。 今夜はあなたのお気に入りの一冊から 月がこっそり抜け出すかもしれない。
2003/09/10[第十夜] 「大切なもの」 月の重力が無くなって3日目。 月から無数のガレキが降り注いでいる。 殆どが大気圏で光となって塵になる。 夜空は火球で眩しいくらいだ。 僅かに生き残った欠片は 少なからず地上に被害を及ぼしている。 そして月は少しずつ地球から手を離しつつある。 一晩ごとに小さくなる月。 地球の夜空は寂しくなろうとしている。 世界のバランスが崩れかけている。 夜が変わり始めている。
2003/09/09[第九夜] 「その為だけの」 海に浮かぶ月の舟。 その帆は太陽風を得て海原を駆ける。 7つの海を越え、磁流を振り払い 西から東へと駆け抜けて 東の果てにたどり着いた時、 その帆は空へと昇り始める。 そして舟だけが海の果てからこぼれ落ちる。
2003/09/08[第八夜] 「秋の呼吸」 月のような黄色いコスモスが 暮れ行く空を揺らし、 沈み行く太陽をうかがいながら 東から白い月が昇りだす。
2003/09/07[第七夜] 「こころ」 跳ねるのはウサギばかりじゃありません。 腹鼓を打ちたくなるのはタヌキばかりじゃありません。 変身したくなるのは狼男ばかりじゃありません。 満ちて引くものは海ばかりじゃありません。
2003/09/06[第六夜] 「結晶」 月のノイズがうるさくて眠れない。 バチバチと放電を繰り返す月。 近づいてるメルギン彗星の影響かしら。 こんな夜は渡り鳥も空を行かない。 うっすらと結晶化した月光が降り積もる。
2003/09/05[第五夜] 「残り香」 部屋に帰ると月の香りが充満していた。 床には点々と黄色の油絵具が。 開け放たれた窓から 天に逃げていく月が見えた。 その後1週間、甘い月の香りがなかなか消えなかった。
2003/09/04[第四夜] 「減衰」 夜明け直前の薄い夜空に浮かぶ 薄い三日月。 一番鳥の雄叫びに 音もなく薄れていく。 朝の予感に飛び立つ群鳥。 その羽ばたきに 影さえ残さず消えてく。
2003/09/03[第三夜] 「月軌」 洋服を脱いだ月のなまめかしさ。 足を広げて登る夜空は赤。 星雲のガスに火をかける。 星よ。星よ。そこをおどき。 その弧を妨げてはいけない。 天頂で踊る無数の闇と 透けるような月の白さが 天に明日を導き、 地に歴史を落とす。
2003/09/02[第二夜] 「新調」 付け替えた月のスイッチを入れた。 煌々と光る200w。 傘も新調。薄い水蒸気のベール。 気を抜くと地球の陰に食べられてしまうので要注意。
2003/09/01[第一夜] 「砂海」 クレーターに舟を浮かべて 金の月面をゆく。 天上には夜側の地球。 眼前には砂紋。 ここは静寂の海。 光の粒子でさえ音を立てずに積もっていく。 舟はゆっくりと海を渡る。 クレーターをひとつひとつ越えてゆく。