VS 終点到着

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みなさんご存じないかも知れないが、俺はネット上でもちょいと知られた「うつぶせオナニー派」である。中1の秋、布団の中でうつぶせになってモゾモゾしていたらなんだか気持ちよくなってきて、そのままイってしまって以来19年、ずっと布団の中でうつぶせで、腰をヘコヘコさせるうつぶせオナニーを続けてきた。

思春期の頃は悩んだこともある。「俺のオナニーはヘンじゃないだろうか? なんでみんながやってるような、右手でやるオナニーが出来ないんだ? 俺は病気かヘンタイなんじゃないだろうか?」。悩みのあまりフォーム改造に取り組んだこともあったが、いくら右手でゴシゴシこすっても、一度もイくことはなかった。そして31歳になった。

仕事帰りの東海道線上り。品川行きの最終電車。もうすぐ日付が変わる。ガラガラの先頭車両で、俺はボックス席をひとつ占領し、靴をぬいで足を伸ばして、漫画を読んでいた。どれも面白くない。ふと目をやると、左斜め前のボックス席に、女の脚が見える。ミニスカに黒いブーツ。おそらく若い女だろう。そそくさと漫画をしまうと、チャックを開けてチンコを取り出した。

座席に隠れて、顔は見えない。茶がかった頭と、ミニスカと脚しか見えない。別にどうということもないのだが、なんとなくお遊び気分でチンコをいじりいじりしてみた。別にエロな気持ちはない。ゼロではないが、あなたが想像するよりはぐっと少ない。どちらかというと、反抗心みたいなものだろうか。

やってはいけないところで、やってはいけないことをする。サラリーマンの俺が決行するささやかなテロリズム。クソったれの世の中に唾を吐きかける気持ち。そんな社会に対する挑戦が俺の場合、唾でも暴力でも破壊でもなく、「チンコを出す」という行為なのだ。昔からそうだった。

成績優秀だった中学生の俺は、先生に指名されて生徒総会の司会とやらを務めたことがある。その大役は例年、学年で成績トップとナンバーツーに任されるのだそうだ。ナンバーツーの俺は、後に京大を出て官僚になった石川くんにこういった。「俺、真面目にやる気ないからね」「どうすんの」「ずっとチンコ出しててやる」

石川くんは立派に司会を務めた。俺も表向きは立派に務めた。だが石川くんはほんとうに偉かったと思う。なにしろ隣には、机に隠れてチンコ丸出しにしている男が座っているのだ。チンコ丸出しは平気な顔をして、「他に意見はありませんか」とか「では次の議題に移ります」とか抜かすのである。そう言いながら、もうビンビンに勃起させてたりするのである。

そんな訳で、若いねーちゃんの脚をみながら電車の中でチンコ勃起させるのは、俺にとって意外なほどエロ的要素の少ないことなのである。むしろパンクなのである。取り出したチンコをいじりいじりする。エロな気持ちはほとんどないのに、純粋な物理的刺激だけで、可愛い息子は立ち上がってきた。なんていじらしいやつ。

30過ぎると100%の勃起をしなくなる。いちおう屹立してはいるのだが、握るとやはりどこか柔らかさが残る。ああ中学生の頃の、チンコ自体が突っ張って痛くなるくらいのウルトラ勃起はどこ行ったんだろう。そんなことを思いつつも、チンコをいじる。

見つかれば犯罪だろう。しかしいざとなったらコートの影にさっと隠すことができる。、そもそもこの車輌には、俺と彼女と、もう一人前の方のおっさんの3人しか客がいないのだ。そんな安全地帯でチンコを出すなという方が無理でしょう。

さて脚だ。脚は太すぎず細すぎず、ちょうどいい俺好みの感じである。頭はやや大きめのようなので目を向けず、ひたすら膝とふくらはぎと、ちょっとした太股だけに集中する。ぐっ。ぐっ。ぐっ。ぐっ。みんなこうやってオナニーしてるのかなあ。あんま気持ちよくないんだけど。裏筋の方に力を入れた方がいいのかな。なんかちょっと違うよなあ。

相変わらず脚だけを見てる。ちょっとスピードをあげてみよう。ぐっ、ぐっ、ぐっ、ぐっ。ぐっ、ぐっ、ぐっ、ぐっ。ただチンコを右手がコスっているだけで、別にただそれだけだ。それほど気持ちいいとも思わない。でも終点までずっとこうしていよう。

ぐっ、ぐっ、ぐっ、ぐっ。ぐっ、ぐっ、ぐっ、ぐっ。ぐぐぐぐぐぐぐぐ、ぐぐぐぐぐぐぐぐ。ツボを探すより、スピードに徹した方がいいのかな。ぐぐぐぐぐぐぐぐ、ぐぐぐぐぐぐぐぐ。ぐぐぐぐぐぐぐぐ、ぐぐぐぐぐぐぐぐ。

その時である。下腹部に俺のよく知ってる、例のあの感覚がやってきた。「これは!」。なんとなく尻全体がすぼまって、肛門がキュッと締まる。口が「あ」の字に半開きになる。これはいつも布団の中でうつぶせになってる時に感じる、あの感覚ではないのか。あの前兆ではないのか。

俺は興奮した。齢31にして、これまで何度もチャレンジしては失敗してきた、あの普通のみんながやってる「右手オナニー」に成功するかも知れないのだ。俺はすっかり舞い上がった。「普通じゃないこと」に対して感じてきた負い目やプレッシャー、何度も失敗してきた苦い想い出、浪人が決まった日のこと、前の会社を辞めたこと、いろんなものが去来する。去来しつつもこの機会を逃さぬために、視線は脚に集中する。右手を素早く動かしつづける。ぐぐぐぐぐぐぐぐ、ぐぐぐぐぐぐぐぐ。ぐぐぐぐぐぐぐぐ、ぐぐぐぐぐぐぐぐ。

もう脚に集中しすぎて、目は焦点が合わなくなっている。膝とふくらはぎと太股と、なんかもうその辺をぼんやりと見ているだけになっている。仏像の半眼のような視線だ。ぐぐぐぐぐぐぐぐ、ぐぐぐぐぐぐぐぐ。もしかしたら右手でイけるかもしれない。頑張れ俺。頑張れ俺。でもそんなことは考えるな。エロいこと考えろ。脚に集中しろ俺。

その時、俺の背筋に戦慄が走った。「え〜間もなく〜品川〜品川、終点でございます」。窓の外に目をやると、おなじみの景色が広がっている。やばい。そろそろ品川に着いてしまう。その時、俺はものすごく興奮しはじめた。この反社会的行為にではなく、はじめてエロ的な意味で。

このまま電車が駅に入れば、ホームに立ってる人がいるかもしれない。まあ終電だから考えられないが、もしかしたらいるかも知れない。ホームから見た景色はどんなだろう。駅に猛スピードですべり込んでくる電車。その先頭車両には、斜め前の女の脚を注視しながら、チンコをしごいてるサラリーマンがいるのだ。そんな光景がホームで待ってる人々の前を、次々と通り過ぎていくのだ。面白すぎる。そのまま俺は警察行きだろう。

でもそのスリルやピンチや危険性が、俺のエロ神経に火をつけたらしい。電車がゴールに近づいていることと、エロ的興奮がシンクロし始めたのだ。ぐぐぐぐぐぐぐぐ、ぐぐぐぐぐぐぐぐ。ぐぐぐぐぐぐぐぐ、ぐぐぐぐぐぐぐぐ。もう右手はコツをつかんでいる。迷うことなく、一直線にゴールへ向かって作業を進める。ああもうすごくいい。いつものあの感覚だ。こうだったのか。こうすればよかったのか。ぐぐぐぐぐぐぐぐ、ぐぐぐぐぐぐぐぐ。すでにチンコは独特のせつなさを帯び、亀頭のすぐそこまで来ているのがわかる。間に合うか。間に合うか俺? 暗闇の中、品川駅の光が近づいてくるのがわかる。急げ俺。頑張れ俺。ホームか? もうホームに入っちゃうか? 時間切れか? ぐぐぐぐぐぐぐぐ、ぐぐぐぐぐぐぐぐ。ああ脚だ。脚脚脚脚。女の脚。白い太股。ぐぐぐぐぐぐぐぐ、ぐぐぐぐぐぐぐぐ。ふくらはぎ。膝小僧。黒いブーツ。ぐぐぐぐぐぐぐぐ。まだ着かない? 早く決めなきゃ。ぐぐぐぐぐぐぐぐ。俺の初めての右手オナニーなんだよ。絶対イってやる。ぐぐぐぐぐぐぐぐ。……って、まだ着かねえのかよ。さっき見た景色からだいぶ経ってる。あそこから品川までって、意外と遠いんだなあ。あっ!

落ち着いて腰をすえ、チンコの先に意識を集中する。いつもの懐かしい感覚。中1の秋以来、何千回と繰り返してきたあの感じ。ぴゅっ。ぴゅう。精液は床にぺちゃっと広がり、電車は勢いよくホームに滑り込んだ。俺は、勝ったのだ。

「品川〜、品川終点でございます」。素早くチンコをしまうと立ち上がり、彼女の顔をさりげなく見る。まあ、そんなキレイじゃない普通。わりと好きな感じだが、思ったより老けてたのが意外だった。乗り換えのホームを目指して、てくてく歩く。後ろから彼女もついてきてるのだろうが、ほとんど気にならない。むしろ射精した後のチンコの、ゆったりした充足感を楽しんでいる。

右手でオナニーできた。右手でオナニーできちゃった! 30過ぎても新しいことってあるんだ。生きるって素晴らしい。前に進むって素晴らしい。ちょっとシチュエーションが常軌を逸していたけど、まあそれもご愛敬。右手でオナニーできちゃった! 就職もしたし結婚もした。このうえ右手でオナニーまで! もう有無を言わさず立派な大人だ。社会人だ! ざまあみろ。

 

補足:その後やみつきになりまして、2回ほど小さなテロリズム、決行しちゃいました。でもそれから後はなかなかチャンスに恵まれず、そうこうしてるうちになんかどうでもよくなってきちゃいました。一時はマジで警察のご厄介になることを心配しつつも止められなかったのですが、ホッとしています。


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