「まじうそ」

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私がひとり、ラーメン屋で食事をしていた時のことです。

店は中途半端な時間帯で、客は私ひとりでした。

ラーメンが届き、私はズルズルと食べはじめます。

そこへ茶髪でロン毛でいかにも現代風な若者がひとり、店に入ってきました。

彼は席について注文を済ますや否や、さっそくポケットからあの呪わしい機械を取り出すと

かったるそうにピコピコともてあそび始めました。とても忌まわしいことです。

私は神に祈りながら食事を続けました。

そのときです。恐れていたことがおこりました。

彼のケータイがピリピリと鳴ったのです。

ささやかな心の安らぎ、ちょっと遅めのランチタイム。

私のラーメン大盛り+ギョーザ+ライスは、ひとりの悪魔によって台無しにされました。

「もしもし? ああ、俺オレ。うん。今ドコ? ウソ、マジで?」

私は必死で食事を続けます。

「ああ。ああ。マジ!? マジ!? ウソ!? マジ!? マジで!? ウソ!? マジ!? ウソ!?」

私は自分の耳を疑いました。

「マジ? ウソ? ウソ! マジ? ウソ! マジ!? ウソ! マジ? マジ!?」

私はそれ以上、食事を続けることはできませんでした。

なんという呪わしい話でしょう。彼は2種類の単語しか知らないのでしょうか?

そんなバカな。いや、ケータイなどという悪魔の機械にライフスタイルごとおもねるような

堕落した人間にはありうることです。

「ウソ!? マジ? ウソ? ウソ! マジ!? ウソ! マジ? マジ!? ウソ?」

彼の会話は続いています。にもかかわらず、この時点でもまだ新しい単語は出てきません。

「ハト、ハナ、マメ、か……」

なんとなく、私はそう思いました。そして店を出ました。

 

今日のお話はここまでです。それでは祈りましょう。

「彼の国語能力に祝福を。彼の豊かな会話に救済を。

そして願わくば、彼の電話相手が3つ以上の単語を知っていますように。エィメン」


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