「使われる人々」

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聞いた話ですが、中高生が年間につかう携帯代が、平均で約15万円だそうです。

これ、あくまで平均ですから、使ってる子はもっと使ってるのでしょう。

15万。高校生が手の届く金額じゃないっすね。雲の上の金額です。

つい先日も、友人から恐ろしい話をききました。

 

その友人は、高校生相手の塾講師をしています。

いつものように授業をしていると、突然あの忌まわしいメロディが流れ出したそうです。

あの着メロとかいう汚らわしい悪魔の音。

人々の生活のどこにでもあつかましく土足であがりこみ、

静かで平穏な生活を雑音と喧噪で台無しにしてしまう、あの邪悪な音。

それが授業中にも関わらず、傍若無人に暴れはじめたのです。

いやしくも勉学を志すものとして、万死に値する蛮行とわたしは思うのですが、

彼は仮にも「先生」であり、未熟な子供たちを預かっている身です。

やみくもな怒りにまかせ、感情をまき散らしても、未来を担う子供たちを不愉快にこそすれ、

ひとりの大人として見本を示すことにはならないでしょう。

彼は厳しさと暖かさを交えつつ、はやく電源を切るよう言いました。ところが。

いつまでたっても着メロが鳴りやまないのです。なんという恐ろしいことでしょう。

生徒たちもお互いに顔を見合わせ、きょとんとするばかり。

さすがの彼も厳しい口調になり、全員、自分の悪魔の機械を調べるよう言いました。

その結果。ようやくひとりの生徒が自分のものであることに気づき、悪夢の時間は終わったそうです。

 

この話を聞いて、わたしは考えました。

件の生徒は、自分が所有している悪魔の機械が発生させる音に気づかなかったのです。

聞くところによると、あの機械には、「着メロ」という小賢しい機能がついているそうです。

あの悪魔教の信者たちは、おのおの自分の「着メロ」とやらを好みで選び、

他人と差をつけたり話のネタにしたりするそうです。恥知らずにもほどがあります。

しかし件の生徒は、そうして選んだはずの自分の着メロすら把握できていなかったのです。

 

私は思います。高校生ですから、おそらくその通話料金は、親が払っているのでしょう。

そうして持たせてもらっているケータイすら、自分で管理することができないのです。手におえてないのです。

あまつさえ神聖な授業中に猥雑な音を響かせ、自分自身はそのことに、ひとから言われるまで気づかない。

その子がケータイを持つ意味はあるのでしょうか?

自分で金を払うこともできず、管理することもできず、周囲に迷惑を及ぼす。

ケータイを持つどころか、その子が生きている意味すら疑わしくなってきます。

しかし、これもみな、あの悪魔の機械のせいなのです。

その子は幼くして邪教に心を蝕まれ、人間としてもっとも下等な存在となってしまったのです。

 

今日のお話はここまでです。祈りましょう。

「便利な道具は、人をダメにします。

便利すぎる道具は、人を振り回し、やがて逆転がおこります。

道具を使う人間でありますように。道具に使われる人間でありませんように。エィメン」


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