アクトザクはフィールドモーターで動く

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俺の大好きなMS、アクトザクについて考えてみる。

MS-11アクトザクはご存知の通り、「MS-X」シリーズで発表されたMSである。「Zガンダム」ではアニメ登場も果たした。まずは手持ちの資料本から、両アクトザクに関する記述を古い順に拾ってみよう。


バンダイ/「BE-CLUB SPECIAL MS大全集」(1988.2.10.)、17P
MS-11アクト・ザク/ジオン公国軍/汎用量産型モビルスーツ/特にいない(引用者注:パイロットについて)/終戦後地球連邦軍に接収された

同51P
運動性向上を目的として設計された機体。関節部にマグネットコーティング処理を施している

バンダイ/EBシリーズ「MS大図鑑 一年戦争編」(1989.2.20.)、131P
MS-06シリーズをブラッシュアップし、総合的な運動性能向上を目的として設計された機体。実験的だが、関節部にマグネットコーティング処理を施しており、その優秀な性能のため、大戦終結直後に、施設を押収した連邦軍の手で量産されることとなる

メディアワークス/データコレクション3「一年戦争外伝」(1997.4.15.)、53P
公国軍が次期主力MS開発のために進めていた計画案による機体。ゲルググ以降の第二期生産型MSとなる筈だった

メディアワークス/データコレクション4「機動戦士Zガンダム 上巻」(1997.6.15.)、48P
一年戦争当時、MSの運動性の向上を目的に開発されていた機体。戦後、連邦軍に接収され、マグネットコーティング処理された

メディアワークス/「MS大全集98」(1998.5.15.)、25P
MS-11アクト・ザク/MS-11 SPEC/頭頂高・18.2m/本体重量・59.1t/ 武装・サブロックガン、他

同、117P
運動制向上を目的として設計された機体。関節部にマグネットコーティング処理を施している

ホビージャパン/「ガンダムメカニクスII」(1998/12/1)
機種:汎用MS/製造会社/ジオニック社/全高/頭頂高:18.2m/18.2m/本体重量:59.1t
ジェネレーター出力:1,440kw/スラスター総出力:64,800kg/センサー有効半径:3600m

一年戦争後半、ジオン軍は次期主力MSとして様々な機体を開発していた。「MS-11アクトザク」は、MS-06系の設計を洗い直し、総合的な運動性能を向上させた機体である。この機体の開発計画は、これまで運用されていたMSのうち、もっとも汎用性に富み、信頼性も高いMS-06系を正常進化させるというコンセプトから生まれた。

実験的ではあるが、関節部を電磁気で包むことで、理論的にメカニック的な緩衝を打ち消すことができるマグネットコーティング処理を施されており、テストでも優秀な性能を示した。終戦のためジオン軍はこの機体を量産することはできなかったが、戦後その性能の優秀さが認められ、生産施設を押収した連邦軍の手で量産されることとなった。


キーワードとして重要なのは「マグネットコーティング」「運動性の向上」「戦後連邦軍の手により接収され、生産・使用された」と言ったところであろう。「ブラッシュアップ」ってどういう意味なんだろう。長年ガンダム系書籍を読んできたが、この単語が登場するのはアクトザクに関してのみである。まあどうでもいいけどさ。

閑話休題。本題へ移ろう。前述したようにアクトザクのキーワードとして欠かせないのが、「マグネットコーティング(以下MC)」である。しかしこの技術、果たしていかなるものなのか。再び手持ちの資料をあさってみたい。


バンダイ:1/144 RX-78「ガンダム」HG プラモ解説書(1990)、P8
(引用者注:マグネットコーティングに関する解説)RX-78の関節駆動系は、フィールド・モーターと呼ばれるミノフスキー物理学の応用されたアクチュエータが使用されたが、後に機体レスポンスを高める為にマグネット・コーティングを施した。これはフィールド・ロスを減らし、時定数を高めようとするもので、姿勢転換に要する時間は、27%短縮された。

メディアワークス:データコレクション4「機動戦士Zガンダム 上巻」(1997.6.15.)、P54
連邦軍が、MSの主要なアクチュエーターとして採用していたフィールドモーターは、軽量かつ高トルク、そして高レスポンスという、優秀な駆動デバイスであった。しかし、実戦投入されて後、幾人かのパイロットから、更なる高性能化を求める声があった。マグネットコーティングとは、単純に言えば、フィールドモーターのエネルギーロスを軽減し、レスポンスをさらに向上させることを可能とする処理だと言われている。加えて、駆動装置そのものの摩擦を軽減する効果もあったと言われている。


ここで重要なのは、少なくともRX-78-2は「フィールドモーター」なる駆動システムで動いていたこと、そしてMCは、その性能を向上させる技術である、というこの2点である。

さてアクトザクはともかくとして、ジオン製MSであるMS-06ザクシリーズは、果たしてどのような駆動システムで動いていたのだろうか? 再び資料をあさる。


バンダイ:EBシリーズ「MS大図鑑 一年戦争編」(1989.2.20.)、P82
MSの駆動系は、流体パルスシステムを採用している。これは核融合炉から発生したエネルギーをパルス・コンバーターで変換し、液体チューブによって各部のアクチュエータに伝達される。MS-06は流体チューブを数千本束ねた動力パイプを部分的に露出させている。


つまりMS-06ザクシリーズは「流体パルスシステム」なる駆動システムで動いていたことがわかる。ぶっちゃけた話、ガンダムとザクでは駆動システムが全く違う、ということだ。前者はフィールドモーター、後者は流体パルスシステムで動いていることになる。

この違いは大きい。見落とされがちだが、すんげー巨大な問題である。例えていうならガソリン自動車と電気自動車、ジェット戦闘機とレシプロ戦闘機の違いほどもあろう。なにしろ「動いている仕組み」が全然違うのである。同じモビルスーツだからといって、一緒くたにすることは許されない。


さてアクトザク。ザクと同じジオン製MSであり、名前にも「ザク系」の匂いを漂わせているところから、アクトザクが流体パルスシステムで駆動していた可能性は高い。

しかし、しかしである。アクトザクに施されたはずのMC技術は、「フィールドモーターの性能を向上させる」技術ではなかったのか。もしアクトザクが流体パルスシステムで駆動していたとすれば、その機体にMC技術を施して何になるだろう? そもそも「施すこと」すらできないのではないだろうか。それはつまり「電気自動車にターボを装備する」くらい、バカバカしいことになりかねない。

アクトザクがMC処理を施されたとすれば、フィールドモーターで駆動していたとしか考えられないのである。それはつまり、アクトザクがザクシリーズとは一線を画すMSであることを意味している。


ここからは俺の推論。

フィールドモーターは、どうやら流体パルスシステムよりも高性能な駆動システムのようである。しかしミノフスキー物理学を応用したハイテクであり、ミノフスキー博士に亡命されちゃったジオンよりも、連邦が先に開発したものと思われる。

しかし遅かれ早かれ、ジオンでもフィールドモーターの研究はしていただろう。そしてその開発ベースには、おそらくザクが使用されたことだろう。水中用MS、サイコミュ試験MSなど、新しい技術をテストする時にはザクをベースに使用するのがジオンの伝統である。おそらく「フィールドモーター駆動試験型ザク」のようなものが開発されていたのではなかろうか。

この「フィールドモーター駆動試験型ザク」が、そのままアクトザクの正体かどうかはわからない。正直言うと、俺は違うと思う。なぜならアクトザクは「マグネットコーティング処理」が特徴の機体であり、フィールドモーター駆動ザクからさらに一歩進んだ存在だからだ。

まずフィールドモーター駆動ありきであり、その性能向上としてはじめてMCが出てこなければならない。サイコミュのテストで、いきなり無線誘導が出来るようなものだ。やっぱり最初はブラウブロみたいに、有線→無線と段階を踏むはずである。

またメディアワークスの「データコレクション3 一年戦争外伝」には「公国軍が次期主力MS開発のために進めていた計画案による機体」とある。「次期」とはつまり、「リックドムの次」である。従ってアクトザクは、ゲルググやギャンと同時期に開発されていた、次期主力MS候補のひとつだったのではなかろうか。


ここから推論はさらに暴走する。

アクトザクの開発主体はどこだろう? ホビージャパンの「ガンダムメカニクスII」では「ジオニック社」としているが、他のMS本にその記述はない。そもそもアクトザクに関しては、開発主体に言及された資料が皆無なのだ。その点に初めて踏み込んだ「ガンダムメカニクスII」ではあるが、どうやら本を出版するにあたって「初めて決めた」ようである。

これはおそらく「ザクって名前がついてるんだからジオニックだろう」という程度の、比較的安易な発想だと思われる。しかしドムの開発ベースとなったMS-07C-5 グフ試作実験機がツィマッドであるように、ザク系だからジオニックと早急に決めつけるのは危険である。

アクトザクの開発主体をツィマッド社と「仮定」してみると、実はいろいろな点で都合がいいのだ。アクトザクに関してだけでなく、他のさまざまなMSへ波及させても説明がつけやすいのである。従ってここでは、アクトザクはツィマッド社製、として話を進めてみる。

さらにアクトザクがゲルググの対抗機として、ツィマッドが開発した次期主力MS候補と考える。しかし次期主力MSは、前線でガンダムが活躍したことから「ビーム兵器の使用」が絶対条件となる。ザクをベースにしたアクトザクでは、おそらくその出力を持っていなかったろう。

そこで改めて、完全な新設計のMSを開発した。それがギャンだったのではないだろうか。つまりギャンはジオン初の「フィールドモーター駆動」「マグネットコーティング処理」を前提に設計されたMSであったと言える。ギャンがゲルググに敗れたのは周知の事実だが、その理由としては「火力の不足」などと並んで「コスト高」が挙げられている。このコスト高とは何を意味するのか。それは「それまでのジオンにはない、全く新機軸の駆動システムを採用していたこと」ではないだろうか。

フィールドモーターは流体パルスシステムに比べ、高性能な次世代駆動システムである。しかし今まで散々流体パルス駆動のMSを作ってきたジオンが、戦争の途中でいきなりフィールドモーターに切り替えるというのは大変なことだ。部品のひとつひとつから生産ラインに至るまで、全く新規に始めなければならないからである。また前線で運用する場合にも、パーツの共用性から何から、莫大なコストがかかることは間違いない。ギャンがゲルググに敗れた理由は、そこにあったと思われる。

ゲルググはジオニック謹製で、ザクの正統な後継機である。つまり流体パルスシステムで駆動していたと考えられる。ゲルググがガンダムとほぼ同等の性能を持っていたとされるのに、あれほどまでに巨大なボリュームを持っているのは、サイズに比して効率の劣る流体パルスシステムで動いていたからではなかろうか。一方、ギャンはゲルググと同程度の性能と思われるのに、いくぶんスマートな機体である。

余談だがツィマッド製MSは、ジオニック製に比べて「扱いやすい」MSを開発するメーカーだったと思われる。つまり素人でもそこそこ扱える、難しく言うと「高い操縦性」ということだ。MS-06R-2がリックドムに敗れた理由もそこにあるし、例えばギャンは素人のマ・クベが操縦してもニュータイプアムロの側頭部を破壊しているほどだ。

結局コスト高と火力不足の問題で、ギャンはゲルググに敗れた。その後ツィマッドはビームライフルの使用可能した「ガルバルディ」を開発する。ガルバルディは「格闘専用に開発されたMS-15の後継機であるが、MS-14との中途妥協的な設計と言えよう(バンダイ/「EB.1 MS大図鑑 一年戦争編」P131)」とある。ギャンの後継機でありながら、ゲルググとの中途妥協的な設計とはつまり、中身はギャン(=フィールドモーター駆動、マグネットコーティング処理)で、ゲルググのようにビームライフルとビームサーベルが使用できるMSということではあるまいか。言ってみれば火力重視型ギャンである。


さて一年戦争当時、連邦軍のMSはいかなる駆動方式で動いていたのであろうか。ガンダムがフィールドモーターで駆動していた以上、そのマスプロダクツモデルであるGMも当然、フィールドモーター駆動であったことは容易に推察できる。むしろここで重要なのは、ガンダムタイプのような少数のスペシャルカスタム機ではなく、GMのような大量生産された機種なのである。

一年戦争後、連邦の手で再生産・使用されたジオン製MSと言えばなんであろうか。一つはご存知のアクトザク、そしてもう一つがガルバルディである。先ほどから展開している説によれば、二つともジオンでは珍しい、フィールドモーター駆動のMSだ。部品から生産施設に至るまで、フィールドモーター駆動MSの体制が整っていた連邦軍が、アクトザクとガルバルディを採用したのはごくごく自然なことである。

Zガンダムのジャブローのシーンでは、ザクキャノンや飛びグフなどの旧ジオン製MSも登場しており、これらが連邦軍によって運用されていたことは間違いない。しかしあれは、廃棄直前のジャブローに残されたジャンクである。一方アクトザクとガルバルディだけは、正規の部隊できちんと運用されている。これがひとつの状況証拠である。

もっとも両者は、連邦軍の手で若干の改装を受けていると思われる。Zガンダムにおいてアクトザクがビームライフルを使用していた点から考えて、ジェネレーターの積み替えくらいはやっていたかも知れない。


MSの駆動方式については、もう少し面白い考え方ができる。Zで活躍したハイザック。これの解説等を読むと、たいがいこんな風に書いてある。「MS-06ザクを継承していたが、中身はジムの発展版というつぎはぎ的な機体であった。(バンダイ/「EB.2 MS大図鑑 グリプス戦争編」P36〜37)」

外側はザクで中身はジム。この「中身はジム」が意味するところはなんであろう? なんだと思う? ここまで読んでくれた人はわかるよね。そう、「中身はジム」とは「フィールドモーターで駆動する」ということに他ならない。ね、ぴったりハマってるでしょ?


反証もある。ザクを代表する部品のひとつ、「動力パイプ」。アレは流体チューブを束ねたモノであり、つまり流体パルスシステムで駆動している証でもある。

アクトザクにも、口から見事な動力パイプが生えている。そりゃあもうたいそうご立派な動力パイプが。で、コレをどう説明つけるかというと……難しいね。ただアレだね、ジオン軍のフィールドモーター技術は、ミノフスキー博士がいない分、けっこう遅れてたんではないだろうか。従ってアクトザクの段階では、一部(信頼性を必要とする部分とか、わりとどうでもいいところ)を流体パルスで駆動させていたのかも知れない。多くのMS本にも「関節部にMC処理を……」とあるしね。

ギャンには一切の動力パイプが見られず、もしかしたらこれは全ての駆動をフィールドモーターで行っていたのかも知れない(ま、格闘専用MSだから、と考えてもいいのだが)。しかしガルバルディでは(特にベータ)動力パイプが一部復活したところを見ると、何もかもフィールドモーターで駆動させることには、かえって不都合が生じることがあったのかもしれない。

俺は持っていないのだが、「ガンダムセンチュリー」によると、流体パルスシステムとフィールドモーターは「一長一短」らしい。それぞれのどこが「長」でどこが「短」なのかはわからないが、だとすれば全ての駆動をフィールドモーターで行う必要もなかったのかもしれない。

フィールドモーターは「軽量かつ高トルク、そして高レスポンス(メディアワークス/データコレクション4「機動戦士Zガンダム 上巻」P54)」だそうだ。「一長一短」だとすると、流体パルスのいいところは、例えば省電力性や生産・運用コスト、整備の簡便性などが考えられるか。

リックディアスやマラサイにも動力パイプは見られるし、結局第2次ネオジオン紛争のギラ・ドーガやサザビーに至るまで受け継がれる。特に顔あたり。「ジオンっぽさを出すためのデザイン上の工夫」と言えばそれまでだが、好意的に解釈すれば「フィールドモーターがあらゆる点で優れていた訳ではない」とでもなろうか。

また必ずしも動力パイプ=流体パルスシステムとは限らない、ということも指摘しておきたい。あのパイプはようするに、単なる外装のパイプであって、その中身は流体パルスシステムを支える流体チューブなのか、あるいは冷却用のパイプなのか、あるいは単なる電気コードの集まりなのか、ハッキリしてないからだ。そのどれかかも知れないし、あるいはそういったモノを一緒くたにまとめた「パイプ」なのかもしれない。いずれにせよパイプ=流体パルスという固定観念からは自由であるべきだろう。


以上から考えられる推論だが、一年戦争中のMSの駆動方式をまとめてみた。

連邦軍 ジオン軍
流体パルスシステム駆動 なし(?) ザク系、グフ、ドム系、ゲルググ、

水陸両用系、

フィールドモーター駆動 ガンダム、ガンキャノン、ジム アクトザク、ギャン、ガルバルディ

ガンタンク、ボール、ザニーに関しては疑問が残る。特にザニーはザクを元にしているらしいので、流体パルスシステムで駆動していた可能性は高いからだ。もしそうなら、ザニーが早々に姿を消した理由も説明できるだろう。

一年戦争後のMSだが、連邦系は相変わらずフィールドモーター駆動が主流であったと思われる。また変形機能を持つ第3世代MSは、リニアドライブとの絡みからフィールドモーター駆動が欠かせない。従ってアクシズ、ネオジオン等でもフィールドモーター駆動が取り入れられていったのではなかろうか。


と、いうような説を考え、「MS天国」でのアクトザク論を展開した。もう2年程前のことである(web上での発表は約1年半前)。その後メディアワークスやホビージャパンから新しい情報がアクトザクに追加され、中には俺の考えと合致するものもあれば矛盾するものもある。ま、どうせコイツら、ロクに考えちゃいねえだろうからな。

ジオン製のアクトザクがなにゆえマグネットコーティングを施されるのか、その辺がきっちり説明されない限り、俺説は一定の説得力を維持し続けることであろう。

このお話に「穴」を見つけた方は、こちらでどうぞ。言い出しにくいでしょうが、ご遠慮なさらずに。

(1999/2/19)


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