アッ! シャープッ! お前もかっ!

アッ! シャープッ! お前もかっ!

 例えば,俺様が快適だとする親指シフトキーボードは,少なくとも,それが打てる 環境が必要とされる.つまりキーボードを置いて,両手でそれが打てる状況にあって 初めて使える.環境が整わぬ場合はどうするのか?                 俺様は,sharpの電子手帳が初めて発売された頃から,今までの手帳を捨てて これを積極的に使って来た.俺様が最初に使ったのは,五十音配列のPA-6500 という 機種だった.移動先での入力機器として満足した.                 取り出して,スイッチを入れた次の瞬間には,キーを押して入力が可能で,俺様は ページを開く必要もなく,迅速に閃いた内容が書けるメリットに仰天した.もはや, 紙の手帳など,時代遅れの前世紀の遺物に思えた.                 ペラペラの蓋に配置された五十音のキーボードを親指と人指し指で挟むようにして 一文字ずつ入力したのだが,慣れると快適だった.その後,PA-7000という電子手帳を 購入したが『ローマ字かな』配列に抵抗があった.                 ローマ字入力に必要なアルファベットだけを配置した,この独特の配列の快適さに 俺様は,感覚的,感情的にずっと馴染めないままだった.敵性文字を使って日本語を 入力する屈辱的な感覚にも耐え難いものがあった.                 然し,どんどん進化して行く電子手帳の機能を無視して,いつまでも五十音配列に こだわっている訳にも行かなくなった.ある瞬間から,積極的にこれを使って,十分 慣れた頃には,五十音配列より快適に思えて来た.                 今では,液晶画面の狭い範囲に配置されたこのキーボードで,タッチペンを使って 入力することが,電子手帳では最も便利で快適な配列だと感じている.然し,最新の SHARP電子手帳から,これが消えてしまった.                 Windows 95の時代になって,富士通が親指シフトユーザーを切り捨てた同じ手法で 俺様が購入したMI-110M では,見事にこの配列をなくしたのだ.『ローマ字かな』の 配列に馴染んだSHARPユーザーは消される….                 この配列にこだわるユーザーは,従来のPIシリーズにしがみつくかも知れない. これで古参ユーザーに古い機種を買わせる戦略が取れる.富士通が割高なワープロに 親指シフトユーザーを釘付けにする手法でもある.                 ただSHARPの電子手帳は,入力方法が多彩で,五十音配列,タイプライター, 手書き認識などが選択出来る.最近,小型のJIS配列のキーボードまで登場した. 俺様は,これを使って『かな入力』を試している.                 パワーザウルスよりも,小型で胸のポケットに入ると宣伝している携帯端末から, 独特の便利な入力法を削るとは,古参ユーザーに対する許し難い裏切り行為である. 立ったまま入力出来る便利さにもメリットがない.                 購入前に,この致命的欠陥に気づいていたのだが,他の便利さに惹かれて,敢えて 購入に踏み切った.インターネットメールが受信出来ること,単4二本で動くこと. ユーザーエリア7MBと大きい点が決め手だった.                 特に,MB単位のユーザーエリア,コンパクトフラッシュメモリーが使える点で, 完璧に,それまでの電子手帳の常識を超えたと感じた.古い手帳で僅か512KBの メモリーカードが2万円したのはつい最近である.                 それが同じ値段で15MBのコンパクトフラッシュメモリーが買えてしまう変化を 見せているのだ.入力装置に抵抗して,これらの新しい世界を拒絶する理由はない. ポケットに入る機器に大量のデータが持てるのだ.                 白黒画面ながら,ホームページにもアクセスが可能である.様々な制約はあるが, インタートップでは果たせなかった,俺様のホームページのアクセスカウンター位は 確認出来る便利さがポケットの中に収まっている.                 今まで使っていた電子手帳PI−8000では,パソコン通信へのアクセスとか, そのIDを通したインターネットメールのやりとりは出来たが,ホームページ絡みの メールは不安定なインタートップに依存していた.                 機能的なポケット端末を持つと,入力が非常に不便でも,その携帯性に惹かれて, 敢えて不自由を忍んでこれを使って入力してしまう.紙に書くしかなかった時代から 比べれば,これでも昔は絶対に信じられなかった.                 手書き文字をテキストに変換出来る『手書き認識』,50音入力,JIS配列など 好みの入力方法を選択し,液晶画面に表示してタッチペンで入力する.更に,最近は 別売のキーボードが,パワーザウルスから使える.                 これはJIS配列のキーボードだが,ローマ字入力が多く使われると想定してか, かな入力の際の濁音,半濁音のキーが異常に小さく作られている.小型化を目指して 逆に使いづらくしている印象を受ける俺様である.                 親指シフトに慣れた感覚から,ローマ字入力やJIS配列仮名入力に移行すると, まるで手に障害を持ってしまったかのような入力の煩雑さに辟易とする.然しながら 世間では,こんなローマ字入力が快適だとされる.                 バタバタ指を動かす割に,全然入力が進まないもどかしさは,この上もない苦痛で 長く使う気にはならない.然し,昔は,一文字ずつ手書きで紙に書いていた.然も, 清書するには,最初から書き直しする必要がある.                 それを思えば,電子手帳で多少の不自由があっても,昔から比べれば,信じられぬ 進化なのである.手帳に書いたことが,携帯電話やPHSを通して,手帳自体から, パソコン通信,電子メール,FAXへ送信出来る.                 手帳に書いたことも,これを書き直すことなく,そのままパソコンのデータとして 使用出来たり,書いた内容の検索が一発で出来る便利さは,紙の手帳では不可能な, 絶対的な優位点で,出始めた当初から使っていた.                 紙の手帳など,ずっと昔に忘れてしまった.然し,世間では,圧倒的に紙の手帳が 主力である.暮れが近くなれば,翌年の手帳が書店にズラリと並ぶ.手帳には,まだ それだけの需要がある.然し,電子手帳にはない.                 大きさを比較すれば,ザウルスポケットは『天文手帳』より一回り小さい.こんな 機器で現実に世界に繋がるのだ.コンパクトフラッシュメモリーを使えば,容量とて MS−DOSパソコン並みに拡大させられるのだ.                 電子手帳を使う際には,親指シフトの便利さを忘れて,昔の不便との比較の中で, 使う感覚が必要なのである.かなり面倒だった電車内で立ったままの入力も,特別な 揺れ対策をせずとも,楽に書ける携帯機器である.                『手書き認識』に頼って入力することを考えるなら,キーボードの文字の配列などに 気を使う必要もなく,紙に書くように枠の中に文字を書いて行けば,電子の文字へと 換えてくれる.但し,その認識には間違いも多い.                 自分の筆跡をそのまま残して,あたかも,紙に書いたように記録することも可能で こうした方法が馴染みやすいかも知れない.機能に依っては,そうした手書き文字を 後からテキストファイルに変換することも出来る.                 俺様は,電子手帳の上でも,百文字を基調とした『デジタル・ブロック書法』にて 一行を全角38文字に設定したスタイルで書いている.但し,かな漢字変換能力が, 語彙の低さからインタートップ代わりにはならぬ.                 もし俺様が出先でホームページデータ更新を考えないなら,MI-110Mとキーボードを 持参して,ワープロ代わりにするつもりだ.将来,これに親指シフトキーボードでも 使えるようになったら画期的な進化になるだろう.                 キーボードを使うケースは,相応に広い場所を必要とする.敢えて小型化するより 実用的な大きさが欲しい.インタートップの大きさでも持参が出来る.ザウルス用を ほんの2〜3センチ拡大するだけで果たせるのだ.                 ザウルスには,未だMS−DOS機能がない.これが付いてパソコンに進化したら 更に便利になろう.それに自社のワープロ専用機の能力を盛り込んだら,文字通りの ポケット・ワープロが現実のものとなるのだが….                 このようなハイテク機器は,いきなり理想的なものを作るのではなく,焼き直しで じわじわとユーザーに買い換えを促すために,進化を遅らせながら,少しずつ目先を 変え,ユーザーをブロイラーに仕立て上げている.                 俺様は,富士通ワープロを何台も買い換えた.然し,一向に直らぬ欠陥もあって, ある時から,買い換えを控えた.電子手帳でも,カラーザウルス,パワーザウルスの 購入を見送り,ポケットザウルスで罠に嵌まった.                 それにしても富士通とシャープが期せずして,古参ユーザーを切り捨てる行動へと 走った.『ローマ字かな』というシャープ電子手帳独特の入力法に魅せられた者は, 富士通親指シフト愛好者と同じ宿命を辿っている.                『今更,他の入力方法には切り替えられぬ』と立往生すると,その先に広がる世界に 適応する道が閉ざされる.常に最善のものが何処でも用意されるとは限らない.逆に 取り付きやすいと不便でも根強く世間に浸透する.                 快適に打てる親指シフトキーボードの真価は,残念ながら,一般に浸透する道すら 閉ざされた.体験する前に,必要性が自覚できるものではない.ローマ字入力でも, それが打てる人の自分に対する自信は強固である.                 今更それを捨てて,新たに一から出直すことなど出来よう筈もない.俺様が敢えて 二つの配列の打ち分けのノウハウに道を開いたのは,一つの入力方法だけに依存する 危うさを感じたからである.その不安は適中した.                 いつでも一つ前の時代に戻って作業する道を残しておくこと,敢えて不便な方法に 積極的になる意識を残しておくことが,急場を凌ぎ,混乱の時代を乗り切る秘訣とも 感じている.五体満足が生涯続く保障もないのだ.                 いかに便利で快適であろうと半身不随になったら,もはや親指シフトは使えない. 最善の方法は,微妙なバランスの上に成立する極めて危うい方法でもある.新たに, シャープが犯した大罪に負ける訳にも行かない….                                       ** 悪魔 **       ・目次に戻る