連鎖反応する飛び出しは死神のノルマ稼ぎ?

連鎖反応する飛び出しは死神のノルマ稼ぎ?



 俺様が子供の自転車の飛び出しに遭遇してから急に運転が怖くなった….絶対的に
スピードはダウンして走行するようになった.それからと言うもの,かなりの頻度で
俺様の車の前に飛び出す人間が増えた….                   

 俺様のスピードが遅いから,それに付け込んで車道に踏み出すと言うのではなく,
見通しの悪い道からノンストップで走り抜ける信号無視自転車である.もし俺様が,
以前のスピードで走行していたら….                     

 安全に配慮する職業である筈の警備員の制服を着た人間が,姿勢を正して,堂々と
自転車で信号無視で横切った.軽いブレーキで事なきを得た.彼は,車の存在にすら
気がつかずに走り抜ける.信号待ちの歩行者が唖然と見送る….         

 およそ抱く気にもならぬブス女が,何を浮かれてか,首を左右に振りながら歌でも
歌っているのか,ほとんど夢見心地で信号無視で自転車で走り抜けた.こんな女でも
轢いたら罪になるのだろうか? ゴミ掃除と感謝されない?           

 俺様の車の前方左側を自転車が走っていた.側方通過を考えながらも,ためらいが
あって出来なかった.次の瞬間,自転車の男が後ろを振り返った.これを後方確認と
受け取った.とても横断出来る距離ではないと俺様は思った.          

 そして自転車は,再び前を見て,そのまま安定して走り続けた.車が通過するまで
横断は諦めた筈である.俺様が加速しようとした正にその瞬間,自転車は,倒れ込む
ように一気に俺様の車の前を横切った….                   

 さながら,車が加速した瞬間を狙って,轢かれる覚悟だったとしか思えない見事な
タイミングであった.普通だったら間違いなくまともに轢いていた….その自転車を
最初に見た瞬間に,通過をためらわせる異常な雰囲気があった.         

 セカセカと自転車を漕ぐその姿は,何処か落ち着きがなく,言ってみれば,コヤツ
何を考えているかサッパリ解らぬそんな雰囲気である.一体,後ろを振り返ったのは
何のためだったのか? 誰かに呼ばれた気がしただけとか?           

 緩やかに走る自転車が俺様の車の前を走っているのを見た.対向車線は信号待ちの
列が続いていた.かなり自転車に近づいた時,自転車が左端で止まった.側方通過が
出来る幅はある….                             

 何を考えてか,その瞬間,俺様はその自転車の手前で車を止めた.何故か自転車の
右側に降りた中年女が,突然,自転車に押されて? ズルズル車道側に倒れ込んで,
車道に飛び出して道路の真ん中,俺様の車の前で転んだ….           

 実際,どうしてそんな自転車の手前で,敢えて車を止めたのか? 実は,その前に
最近は,自分で歩けないほど足腰が弱っている人間が,平気で自転車に乗って病院に
通って来ると言う話を聞いていた.                      

 その自転車を見た時に,そんな話が思い出されて,こんな自転車が危ねぇのかな?
などと思った.それにしても,どうして自転車の右側に降りるのか? その不自然な
姿勢にも疑問を持った?                           

 俺様は,自転車は左側から乗るものとの強い思い込みがある.子供の頃からずっと
そうだった.改めて自転車を観察すると,運転がおぼつかぬような年寄りババァに,
何故か右側から乗る者が多い.左利きばかりではない?             

 きちんとした歩道もなく,車道と未分化の道路を歩行者や自転車が平行する道では
何が起きるか解らぬ.言ってみれば,突然,刺客に襲われる,武士の心境で運転する
感覚が必要になる.いち早く殺気を関知して対処するしかない.         

 こうなると,一種の予知能力が必要になって来る.時に,何気なく運転していると
突然,妙に体が硬直するようなことがあって,ヤバい…と感じてスピードを緩めると
飛び出しに遭遇したり….偶然の幸運である.                 

『交通法規では,こうなっているのだから…』などと,杓子定規に考えて,優先権を
行使しても『幼稚能力者』の歩行者や自転車には通用しない.彼らの行動パターンは
文字通りの『予知能力者』として察知しなければならぬ.            

 例えば,安定して歩いていても,例えば,通過する家から,飛び掛からんばかりに
突然,犬に吠えられたら…思わず車道に飛びのいてしまう.実際,そういう現場に,
遭遇したことがある.                            

 車にしても,対向車が飛び出しにあって,急にこちらに飛び込んで来ることだって
考えられる.およそ信じられぬことだが,車の通りもまばらな田舎道で,意味もなく
突然,対向車に行く手を遮られて急ブレーキを踏んだ….            

 何事かと思えば,何の変哲もない平らな紙切れが道路にあっただけ….この車は,
何故かそれを急に避けようと,対向車に配慮もせずに,思わず飛び出してしまった.
一体,そんなものが,何に見えたのか?                    

 何をどのように見るのか? それは人により千差万別である.現代流に言うなら,
人の感覚はセンサー万別である.大体,世の中は,自分の常識とは,程遠いところで
動いている.自分の感覚が通ることが少ない.                 

 背中に薪の代わりに,バッグを背負った現代の二宮金次郎先生が,堂々とマンガを
読みながら,信号を無視してスタスタ歩く姿に感動して? 思わず頭を下げた瞬間が
印象的である.他のドライバーも唖然として声もなし….            

 然しながら,多くの車の走行する様子を見ていると,とても突発的な現象に対処が
可能なスピードでは走っていない.あくまでも飛び出しなどない前提で走っている.
必ずそういうことはあると思ったら仕事にならない?              

 俺様自身,客観的にみれば,そんな走り方をしているのかも知れぬ.皆,自分ほど
安全運転をしている者はいないと考えて走っているのである? 事故に遭遇すれば,
『まさか,そんなことが…』と呆然とする….                 

 大きな事故も,きっかけは極く些細な現象から始まる.単純に,ブレーキを踏んだ
結果,横滑りして横転,対向車線に飛び込むとか,雪が重なって,後続車が,次々に
突っ込んでしまうとか….                          

 決して,最初にブレーキを踏んだ人間の計画したことではない.最初に,大惨事を
計画した者が居て,その存在が一人のドライバーのブレーキを踏ませた.正に死神が
幻を見させたのかも知れぬ.                         

 何処に死神の罠が仕掛けられているか解ったものではない.一つの事故を体験して
以後,連続的な飛び出しに遭遇するなどは,ノルマを果たし損ねた死神が,必死に,
罠を仕掛けまくったのかも知れぬ….                     

 漫然と運転をしていると,死神に付け込まれる.彼らの仕掛ける罠を見抜く目で,
状況を観察しながら注意深い運転をすることだ.例え死神が仕掛けた事故であろうと
責任は,人間が取らされるのだ.** 悪魔 **               

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