最近起きた冤罪事件から類推する

最近起きた冤罪事件から類推する


 平成8年8月21日の朝日新聞朝刊には,福島市内のマンションで器物損壊事件で, 防犯ビデオに写っていた鮮明なカラー映像を見た住民の証言から,同じマンションに 住む男性に間違いないとされた.                         警察は,それを鵜呑みにして,逮捕状を請求して,会社員の男性41歳を逮捕した. その妻も,ビデオを見せられたが,主人に似てはいるが,持っているバッグが違うと 証言もした.                                  翌日になって,当日は,その時間,夫が出勤していることが分かって警察に連絡, タイムカード等の記録もあって釈放となる.更に,この犯人が中学生であることも, 判明して自供も得られたと言う.                         新聞報道では,事前にアリバイ調べなどを怠った怠慢が指摘されていたが,署長の 談話としては,『住民の複数の証言もあり,逮捕はやむを得なかった』として反省の 弁はない.                                   もし,アリバイが立証出来なければ,どうなっていたのか? 持ち物が違おうが, 多少の辻褄の合わぬ点も,許容範囲の誤差? として処理されてしまう怖さがある. 濃厚な容疑者のアリバイ不明は,あくまでも犯人として扱われる.          誤認逮捕から冤罪事件に発展するケースはかなりの件数の上るが,実質的に,その 名誉を回復させることは不可能に近く,多くが泣き寝入りのケースだと言う.末端の 人間に事実上,対抗手段はない…?                        逮捕された人間の言葉と警察の発表ではどちらが信用されるか? 然も,容疑者に マスコミへ向けての弁明のチャンスは全くない.唯一,警察発表だけが事実となる. マスコミは官公庁の宣伝カーである.                       この事件で,目撃者の証言の宛にならぬものであることが明らかになる.宮ア勤の 車が絶対にラングレーではなかったとする元自動車販売業者の証言も,勘違いだとも 言えてしまう訳である.                             然も,宮ア勤の車がラングレーだったと聞かされて,これをキッパリと否定したと 言われる.然し,警察から提示される証拠を前に,遂に証言を撤回することになる. 結局,目撃者の証言は,警察の都合のいいように解釈される.            それでも,決め手となった理由は,被害者の写っている写真の背景にあるシートが ラングレーと同種類であるとしたと言う点にある.ここで何故,警察はラングレーに こだわるのか? 又,車種にこだわるのか?                    これは単純に,宮ア勤の車がラングレーであったからに他ならない? この車には 脱輪した痕跡も残されていたとも言う.目撃者の言うトヨタカローラIIであっては, 何故不都合なのか? たまたまこれに乗っていた可能性はないのか?         ただ,間近かに犯人である宮ア勤を見ている目撃者から,その部分に関わる証言が 引き出せなかったのか? 車がどうあろうとも,そこに現れた人物は,確かに宮ア勤 本人だったとの証言にはなっていないのだ.                    何故,この目撃者から,モンタージュ写真が作れなかったのか? 或いは作っても 公開出来ない理由があったのか? 少なくとも目撃者二人が,犯人の人相着衣に全く 触れていない点は,極めて不自然と言わざるを得ない.               この二人の目撃者は,法廷で証言はしていない.『宮ア勤裁判』の中で,検察側は 二人を説得したに違いないと推測で判断しているが,同意が得られなかった理由にも 触れていない.                                 或いは,自分の意に反した証言は出来ないと言う理由であったかも知れない.無論 俺様の推測である.少なくとも,事件に関して,脱輪した車を救助したと名乗り出た 二人ではなかったか? 人物の情報が欠落している理由は?             余りにも違う人相着衣に,その証言は取り上げられないとか? もしも,宮ア勤の 父親が,自分の息子の優しさを信じて,積極的に弁護士を付けていたなら,或いは, 違った視点からの証言が引き出せたのではないのか?                宮ア勤は,2ヵ月,孤立無援の中で犯人とされて,国選の弁護士が付いたが,既に 犯人としての事実に疑問を差し挟まない形での弁護になってしまった.真剣になって 基本から事件を見ようとしてはいない.                      最近,立ち読みした『冤罪はこうして作られる』小田中聰樹著 講談社現代新書に 興味深き記述があった.ベテラン刑事が冤罪事件の容疑者に語ったところに依れば, 警察慣れした人間でも三日で無実の罪を自白させられると言う.           何の罪もない普通の人間を容疑者に仕立てて,密室の中で取り調べれば,三日目の 晩には,やってもいない犯行を涙ながらに自白させられると言う.複数の容疑者に, 全く同じ自白をさせる事すら出来るという.                    俺様は,その言葉が信じられる.人間は,他から聞いた言葉の受け売りでも自分の 言葉だと錯覚を起こす.繰り返し同じ言葉とイメージを与え続けられると,自分でも 夢と現実の区別は付かなくなる.                         例えば,自分自身の記憶の中には,それが夢だったのか現実たったのか? 区別の 付かぬ思い出の一つや二つは誰にもある筈だ.夢も現実も,結局,同じ一つの意識が 体験するのである.                               恐らく,過去に一度も警察の厄介になったこともない,ごく普通の青年だった筈の 宮ア勤である.そんな彼が,孤立無援の中,三日どころか二ヵ月も警察の取り調べを 受けていたのである.                              やってもいない罪で,自ら進んで上申書を書く誘導がなされても,全然不思議では ない.夢の中で起きたような出来事に,自分が犯した犯行だとして,本当に上申書が 書けるのか?                                  これは,間違いなく警察側が書いて,それを読み上げて,そういう事もあったかも 知れないと納得させることは可能であろう.最初に上申書が出来上がっていて,後で それを追認したと言う形態を伺わせるものがある.                 宮ア勤の父親の自殺動機は何であったのか? それすら警察もマスコミも積極的に 発表しようとはしなかった.あれだけ極悪非道だとして叩いた宮ア勤である.父親が 自殺したとすれば,彼を叩く更なる材料にもなった筈だ.              もし,宮ア勤の罪が冤罪であったら….マスコミと警察は,既に一人の人間を死に 追いやっているのだ.一体,どのツラ下げて,それを発表出来ようか? 犯人逮捕の 瞬間から俺様の疑念は,深まるばかりで薄らぐことはない.             マスコミは,宮ア勤関連の報道をする時,異常性格的な部分を,強調して報道する 姿勢で固まっている.然し,逆に,彼が警察で置かれた環境こそが異常であったとの 視点から捉えることはない.疑惑は益々膨らむばかりだ. ** 悪魔 **    冒頭に戻る