生きて警察を出られるか少年A

生きて警察を出られるか少年A

 何やら慌ただしく,容疑者を通り魔事件で再逮捕したと思ったら,本当の意図は, 更なる十日間の拘留延長にあった.『何が何でも,警察からは一歩も外に出さない』 執念であろう.外で余計なことを喋られたら困る?                 容疑者は,間違いなく真犯人であるのか? 警察発表は,本当に信じてよいのか? 誰も,この検証をやろうとしない.本来,公正な報道をその使命とするマスコミが, 容疑者逮捕に合わせ警察発表を検証すべきである.                 逮捕と報道すれば,事実上,誰もが彼を真犯人だと思う.もし,警察発表が嘘で, マスコミ報道が,それに輪をかけた身辺の悪しき関連情報を流し続けた場合,例え, それが嘘と判明しても身辺情報は定着してしまう.                 今回の事件は,そっくりそのまま宮崎勤逮捕報道と同じ経過を辿っている.誰も, 警察発表を疑わず,それを動かし難い事実として報道した.異常に長かった七年後の 第一審判決は,世間を欺く猫騙し効果を狙った….                 だが,この七年後の一審判決は,俺様にとっては好都合だった.想像もしなかった インターネットと言う世界が開かれたからだ.大手のパソコン通信ネットには,一切 加入しない俺様は,その昔,無料ネットで訴えた.                 判決が迅速に出され,さっさと最高裁判決まで進んで死刑にしてしまえば,こんな 騒ぎにはならなかったものを….ほとぼりを冷ましたつもりが,下手をすれば,火に 油を注ぐ結果にもなりかねない状況になって来た?                 俺様とて残虐な犯罪は許せぬ思いだが,それを犯した犯人は,間違いなく,確実な 証拠を以て,十分納得の出来る形で逮捕される必要があり,取り調べの経過も厳しく 観察される必要がある.冤罪であってはならない.                 オウム真理教の上祐某のように,連日,テレビカメラの前で,好き勝手なお喋りが 許される状況であれば,判断の材料ともなるが,一方的な警察発表だけで,ここまで 容疑者を裁ける度胸には,正直なところ敬服する.                 野坂昭如は,少年Aに好きなだけテレビカメラ前で喋らせればいいと書いている. 『その背後には当然,茶髪にピアスの青少年のニタニタ笑い,遠くには日傘のPTA ママの群れ,これなら事実を述べるだろう』と….                 俺様は,限りなく警察発表に,うさんくさいものを感じている.拘留期限の到来は そのまま少年Aの命日になったりしなければいいと危惧するのである.シーツで首を 吊って自殺,なんてことにならねばよいのだが….                 今,留置場では,自殺が図れないようになっているとは言いながら,報道の中に, これがニュースになることもある.数年前,東京の杉並区で起きた,人質籠城事件が あった.犯人は人質を射殺し,自殺未遂になった.                 この時,マスコミは銃声を生で伝えた.『パ・パン,パン,パン』俺様の印象で, これは警察側の一斉射撃だった.最初の銃声は,二発が一発に聞こえる程,接近して いたが,警察発表で,全て犯人の銃声だとされた.                 オイオイ…,犯人の使用した拳銃は,リボルバーだぜ? 例えオートマチックでも あんな連射は不可能だ.一丁の銃声だとしたら,まるでマシンガンのような,最初の 二連射であった.この疑問も解明はされなかった.                 犯人は,現場で自らを撃って自殺を図ったが未遂に終わり公判も開かれた.然し, 翌年,拘置所内で首吊り自殺して死んだとされた.俺様は,この事件をモデルにして 二十枚の小説を投稿して,抒情文芸に掲載された.                 奇しくも,この小説が掲載された抒情文芸が発売された頃,この容疑者が拘置所で 自殺した偶然もあったので,強い印象に残っている.要するに,マスコミは,警察の 発表には,一切疑問を挟まない伝統を築いている.                 最近,テロ絡みの報道で,この事件も関連情報の一つとして,再現されたのだが, 映像からは,何故かシッカリ銃声は消されていた.一体マスコミは,いかなる理由で 警察発表には寛大で,容疑者報道には厳しいのか?                 言論の自由,取材の自由を嵩に,傍若無人な取材攻勢を強行するマスコミである. 叩けば幾らでも埃は出るには違いない.警察がその気になれば,幾らでもマスコミを 人権侵害の疑いでゾロゾロ逮捕者を出せるだろう.                『お代官サマ…,どうかそれだけはご勘弁を…,付きましては,あの件に関しては, このように報道しますので…』『ムフフフ.マスコミちゃん,お主もワルよのぉ…』 『いえいえ,お代官サマ程では…』やってるかも.                 それだけに,今回の事件の容疑者の生命の安全が気掛かりともなる.無論,杞憂に 過ぎぬかも知れぬ.だが,マスコミが一切,検証しようともしない,警察の一方的な 主導のまま,拘留延長が許される果てが怖いのだ.                                        ** 悪魔 **       ・目次に戻る