『証拠もなしに犯罪者にしないルール』の崩壊

　警察発表は，絶対の真理として，一切，疑惑が持たれることがない，明治憲法下の天皇の地位にも匹敵する権威を持っている．正に『神聖にして侵すべからず』とする立ち入ることが許されぬ絶対の聖域のようである．　　　　　　　　　　　　　　　　中学生の犯行とは信じられぬと報道しながら，取り調べの経緯には，一切の疑問を差し挟むこともない．逆に，この中学生に不利な材料はないかと，必死に嗅ぎ回る．警察を問い詰めるなど，絶対にあり得ないだろう．　　　　　　　　　　　　　　　　俺様は，犯人が死体を置いた施設の鍵を取り替えたとされているが，簡単なようでこれは意外に難しいことに思える．施設を管理する人間が，合鍵を使って取り外して付け替えたのでない限り，壊すしかないだろう…．　　　　　　　　　　　　　　　　昨日の捜索で，早速『犯行に使用したと思われる』ノコギリが発見されたという．鑑識の結果も出ない内から，凶器なのだと思わせる印象付けを忘れない周到な報道で誠に恐れ入ってしまう．透明な凶悪犯が増幅する．　　　　　　　　　　　　　　　　この事件は，絶対的な決め手を欠いたまま，中学生が容疑者として逮捕され，その人権を完璧に無視して，少年の悪しき側面だけが競って取材され，何ら規制もなしに報道され続けて，一般に何の疑念もなく浸透する．　　　　　　　　　　　　　　　　写真週刊誌に容疑者の写真が掲載された事実には，他のマスコミは抜け駆けされた悔しさからこれを叩いているが，やっていることはもっと酷い．当然ながら新潮社は警察発表の神聖さに酔い痴れて軽薄に報道した…．　　　　　　　　　　　　　　　　新潮社は，弁護士を脅迫して弁護をやめさせようとした人間と少しも変わらない．警察発表，即，最終判決と断定して，徹底した裁きとして，写真掲載に踏み切った．マスコミの，警察崇拝には，鬼気迫るものがある．　　　　　　　　　　　　　　　　ただ，少なくとも俺様のように，警察発表に疑惑を持つ人間にしてみれば，写真をみることで，少なくとも，客観的な情報の一端に触れられる．彼は，普段から素行が悪かった点で犯人にされた中学生として見られる．　　　　　　　　　　　　　　　　マスコミの情報を，冷静に判断出来る人間には，そんな報道に惑わされて，彼らが意図的に伝えようとする凶悪犯のイメージに乗せられることもない．写真掲載とて，一人の中学生として，冷静にみることが出来よう．　　　　　　　　　　　　　　　　７年前に逮捕された宮崎勤の場合でも，警察発表は，絶対的な信頼の下に置かれて誰もこれに疑問を持たなかった．結局，それは７年後の一審判決にまで持続された．幾ら，警察に不祥事があろうとも信頼は崩れない．　　　　　　　　　　　　　　　　冤罪の防止を考えるなら，捜査段階の取り調べに，徹底した検証を試みるところにある筈である．警察発表を鵜呑みにして，何処で冤罪を防止するのか．その意味で，マスコミは，冤罪を助長させても抑制効果はない．　　　　　　　　　　　　　　　　警察発表は，ドラマの原稿なのである．疑問を持つどころか，発表されたドラマの原稿の続きを必死に催促して，たった一言でも，有り難く押し戴いて，脚色を加えてドラマをどんどん盛り上げることを使命とする…．　　　　　　　　　　　　　　　　この日本には，一つとして，まともに真実を追究せんとする報道機関はないのか？警察発表，マスコミ報道に乗せられて，簡単に，パンドラの蓋を開けてしまわずに，徹底して疑惑と確証を追う姿勢が必要なのだが…．　　　　　　　　　　　　　　　　今回のいい加減な警察発表を真に受けて，一夜にして一人の中学生を，凶悪犯人に仕立て上げてしまったマスコミである．記者会見の席上から，逃げるようにして姿を消した警察の発表に，それほど信頼が置けるのか？　　　　　　　　　　　　　　　　証拠も揃わぬ内から，犯人として確定しておきながら，中学生の少年を，ここまで追い詰めたものは一体何か？　こんな論理の展開となる．警察もマスコミも，子供を信頼せず，簡単に見捨てて犯罪者に仕立て上げた．　　　　　　　　　　　　　　　　少なくとも，証拠が歴然とするまで，あくまでも中学生を信じてやったらどうだ．証拠集めもままならぬ警察の，いい加減な発表を，徹底追及する強い姿勢が必要だ．『信じられぬ』と言うだけでごまかすんじゃない．　　　　　　　　　　　　　　　　いかに素行の悪い子供でも，証拠もなしには，犯罪者呼ばわりはしない大人社会の信頼を確立しておかなくてはならなかった．ほんの少し素行が悪くて警察に捕まるともはや，彼は絶対に善人には戻れない社会にした．　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＊＊　悪魔　＊＊　　　　　　・目次に戻る