「抒情文芸」と俺様の関わり

「抒情文芸」と俺様の関わり

 昭和40年代の始め頃,読者の投稿作品の掲載を主体に刊行されていた月刊文芸雑誌 『抒情文芸』があった.小説・詩・短歌などを投稿して,入選には賞金も用意された 記憶がある.                                  俺様は,その頃,この雑誌の『短詩』と呼ばれる一行詩に魅せられて,それだけに 投稿していた.それは,短歌や俳句のような文字数にこだわらない自由な一行詩で, 新しい文芸の形態として注目していた….                     本当は,小説を書きたかったのだが,清書までに無限の書き直し作業をしなければ 仕上がらない煩雑さに,清書して投稿したのは,たった一編だけ….それも選外…. 自分には長い文章は書けない….そんな諦めがあった.               もし将来,一度書いた文章が,無駄なく効率的に切り貼り出来るようになったら, その時,積極的に長い文章を書こう….俺様は,小説を書くことを諦めた.当時は, まだワープロ等,夢にもなかった.                        この雑誌は,様々な地域毎に読者の集まりが形成される特異な発展もみせていた. 雑誌の読者欄を通した交流も盛んであった.俺様は,その中で一度だけ一人の少女と 手紙のやりとりをした記憶がある.                        俺様の生活環境とは無縁な,何処か上流階級を思わせる雰囲気の漂う彼女の印象が 鮮烈であった.文面中の『十年後,もしあなたが未だ私を覚えていたら…,もう一度 お便りを下さらない?』そんな一言と共に….                   然し,文芸誌の刊行は採算が難しいのか,必然的な成り行きとして,やがて廃刊に 至ってしまった….多分,この雑誌を中心にした集まりも自然消滅して行ったものと 思われる.                                   俺様も折角親しんだ『一行詩』ではあったが,雑誌の廃刊と共に,それを忘れた。 毎回投稿しながら,結局,一度として入選はなかった.ただ,あの少女の手紙だけは ずっと保存していた….                             その少女との文通から二十年の歳月が経過したある朝,俺様は何気なく日経新聞を 開いた.一瞬,電撃的なショックが走った….そこに,あの少女の名前があった…. 『抒情文芸』の名前と共に….                          投稿した作品が掲載される喜びに魅せられていた彼女は,『抒情文芸』廃刊の後, その復刊を目指して努力をしていた….そして,季刊ながら,みごとに復刊を果して 丁度,十周年を迎えたと言う文芸欄の記事であった.                約束の十年後から遅れること更に十年….俺様は,彼女に手紙を書いた….それが 新たな「抒情文芸」に掲載されたことから,昔,書こうにも書けなかった小説部門の 投稿者・読者として住み続けて来た….                      既にその頃,俺様が漠然と描いていた夢が,想像を絶する形態で,実現していた. 『切り貼りが出来る』ワープロという,画期的なハイテク機器を使いこなしていた. それは,二十代の俺様が欲しかったものである?                  今年,一九九六年,「抒情文芸」は,創刊二十周年を迎えようとしている.採算の 取れない文芸誌としては,驚異的な長寿である.俺様は,投稿を始めてから,十年に なる….既に時代も変わった….                         個人の表現の場も,パソコン通信やインターネットで果たせる時代になっている. 限られたスペースを目指し,競争で腕を競わなくとも,自由に発表する機会がある. これからの十年…,『抒情文芸』の道は更に険しくなる?              それでも、純粋に投稿という世界に生き甲斐をみいだし、入選を目指して腕を磨く 生き方は否定できない。いつでも自由に発表できる世界は、もしかしたら試練の場を 体験しない安易な表現の場でもある?                       然し、入選しなければ掲載されない世界では、書きたいように書くより、入選する 書き方へと圧力が掛かることはないのか? 例えば、選者が好みそうな書き方をする とか…。その程度で入選が果たせるとも思わぬが…。                俺様が目指したのは、自分の書いた記録として残すことだった。一応、投稿して、 腕試しはするが、選者の言動に惑わされぬ注意を払った。自分自身が意図した通りに 書けていればそれでいい。                            筋書きは付け足しで『ともかくこの部分だけが書きたかった』という作品もある。 そんなものは、小説にもならないと言われる恐れがあろうと、自分の記録に必要な、 大いなる部品としての価値がある。                       『抒情文芸』の存在は、それでも締切りと言う時間制限内に、一つの作品を仕上げる 強制力を俺様に与えてくれた。これは、いい刺激になった。この制限時間の設定が、 ここまで書き上げさせる力になった。                            参考までに、抒情文芸の購読方法                   原則として、年間購読制、年4回送料込みで3,760円(2年分は7520円) 申し込みの際には、『何号より』と指定する。96年9月発行分は20周年記念号であり 80号となる。                                  定価が制作原価を割っている、文芸誌の宿命を担っての発行であり、心ある読者は これ以外に、一口2000円の維持費名目の寄付を受け付けているので、進んで協力する 姿勢が望まれる。                                <送金宛先>                                 167東京都杉並区桃井1−30−2                         「抒情文芸」刊行会                              <郵便振替口座> 00160−4−36297                      作品の投稿規程                        小説(童話を含む) 400字詰め原稿用紙20枚まで 一人一篇            詩         400字詰め原稿用紙2枚半まで 一人篇            短歌        はがき一枚に3首まで 一人はがき3枚以内         俳句        はがき一枚に3句まで 一人はがき3枚以内         評論(文芸・音楽・美術・映画・社会他)400字詰め原稿用紙3枚半まで     イラスト・カット  はがき大(黒インキ)                   文芸プラザ(含批評・感想文・随想)                       作品送付先                                    167東京都杉並区桃井1−30−2                        「抒情文芸」刊行会編集部                     小説の表紙に戻る