『市営住宅』の4文字は低所得者の暗号か?

『市営住宅』の4文字は低所得者の暗号か?

 市営住宅の入居に際しては,保証人を一名要求された.その条件には『市営住宅の 居住者ではないこと』との項目があった.要は低所得者は保証人にはなれない.では どこで市営住宅の住人だと確認出来るか?                     ここで住所変更届けを役所に出したときの違和感が,にわかに思い出されて来た. 『○○第○団地○−○○○』との申請書類が『市営住宅○○第○団地○−○○○』と 住民登録された.何故,そうなるのか….                     保証人には,住民票と印鑑証明書を添付が必要だったが,もし全国的に市営住宅に 住む者の住民登録に,必ず市営住宅の文字を付加する暗黙の規定があるなら,そこで 保証人として資格ありなしが確認出来る.                     保証人になれない市民としての身分が,住民票にしっかり表示される結果となる. 俺様は市営住宅に入居して,初めてこの現実に気付いた.郵便物や荷物の配達には, 番地−棟−号と続けるだけで十分なのだ.                     つまり,団地の名称すら必要ではない.実際,ここの番地には,この団地しかなく 棟番号と号数を続ければ,住所の必要条件は満たされる.然しながら,住民登録には 市営住宅という低所得者の証明が載る….                     実は,国民健康保険証にも,この市営住宅の文字列がしっかりと記された.果して これがどんな意味を持つのか? 高額医療などを受ける際に,その人間の所得を計る 目安にされ差別を受ける可能性もある…?                     転居前,近所でさる人物がどこに住んでいる人かを話題にしていた.『市営住宅に 住んでいる』と分かると『ああ…市営の…』『そう…市営の人なの…』と,明らかに 侮蔑を含んだ語調となったことがあった.                     通りすがりに聞いたその会話が,妙に記憶に残っていたのだが,今にして思うと, 市営住宅とは,身分の低い人間の居住空間として認識されるのか? 住民票を要する 場面では,低所得者と分類されてしまう?                     別段,低所得であることが恥だとも思わないが,敢えて知らされずに,差別を生む 意味を込めたデータが暗号のように記されている現実は,あまりいい気分ではない. これは,人権侵害にも繋がる問題だろう.                     結局,市営住宅とは,安い家賃で入れるメリットばかりではなく,市民のお情けで 住まいを提供される,半ば生活保護世帯として認識される.永住する場所ではなく, 仮設住宅の感覚で臨むべき住宅と思える.                    『健康で文化的な最低限度の生活を営む権利』は,あくまで自分の力で果してこそ, 一般に認められる権利なのかも知れぬ.生活保護世帯は,市当局から生活上,様々な 干渉があるとはよく聞かされる話である.                     俺様の感覚からすれば,官僚を始め,国から給与を貰う人間どもは,民間企業にも 優る生活保護費を供与される全く質の悪い生活保護世帯だと感じている.それほどの 働きもしないくせに人並み以上の給与だ.                     入居に際して,低所得であることから『もし家賃を3ヵ月滞納したら,裁判で,即 退去して貰うことになる.保証人に迷惑が掛かる』などと,何度も執拗に聞かされて 既に滞納者になったような気分になった.                     市営住宅に入るのに,ここまで言われるのか? その執拗な言動から,最低限度の 文化的な生活を営む権利など,現実にはあり得ないと知れる.市営住宅から出されて 路上生活をする羽目にもなりうる現状だ.                     市営住宅に住む低所得者には,言論表現の自由もないようで,外から見える場所に ビラやポスターなどを貼ってはいけないとされる.一般の賃貸住宅では考えられない 制約だが,しおりにはそう記されている.                     別段,今までもそのようなことはしたことがないが,改めて『してはいけない』と 明記されてしまうと,かなり抵抗を感じる.然し,住民の皆様は,そういうことには 何のこだわりもないかのように生活する.                     それもこれも所詮は世俗の雑事である.俺様も敢えて問題を提起して,事を構える つもりもないが,このような現実があると知ったことは一種の衝撃だった.つまり, 俺様の生活は,そこまで落ち込んでいる.                     俺様の置かれた社会的な地位などは,元々最低ランクにあると思っていた.だが, 例え老朽化していようとも,民間の借家にいた方が,それでも少しは増しだったかと 改めて実感する.下には下があるものだ.                     この次には,路上生活が待っている.ふと鏡を見れば…,この顔は路上生活が実に よく似合う顔ではある….下手に長生きして一人暮しとなって,収入も蓄えも尽きた その先だが,本当の生活保護より増しか?                     そう考えると,中途半端に市営住宅に住む身分となった今こそ,路上生活者よりも 低い地位にあると思えて来る.ここを抜け出して路上生活者になれば地位は上がる. 少なくとも人間的地位ではそうなるのだ.                     申し込んで一度で当選してしまったことで,周囲から『運がいい…』と言われる. 然し,心の何処かには,半生活保護世帯の重荷を感じ始めている.まともに抜け出す 方向を見据える原動力にしたいところだ.     ** 悪魔 **       ・目次に戻る