金持ちの銀行使い倒しの果て…

金持ちの銀行使い倒しの果て…

 俺様のような銀行嫌いの貧乏人がいる一方で,銀行員が年中出入りしているような 金持ちは,彼らを奴隷のようにこき使っている….然し,バブル華やかなりし頃に, 俺様が観察した話なので,その後どうなったか….                 銀行員と親しいと,ここまで無駄な金を使わずに済むのか….と感心したものだ. 町に出たときに,のどが乾いて何処かで冷たいものでも….こんな時に,その人物は 出入りの銀行員を名指して銀行を訪れて雑談する.                 これだけで飲み物は出てくる.それ以外に,他の行員が洋菓子屋に走ってケーキの 詰め合わせなどを手配して,帰りに土産に持たせてくれる.雨が降って出掛ける時は 銀行に電話して,行員を呼びつけて運転手にする.                 どうも体調が思わしくない….などと話を聞くと,病院を変えた方がいいのでは? などと,別の病院を銀行が手配して,わざわざ診察に連れて行ってくれる….誠に, 銀行は,金持ちの周辺で,こまめに忠誠を尽くす.                 車で市街に出る時も,駐車場は,いつも銀行の中….有料の駐車場など使わない. 「ちょっと置かしといて…」と言えば「どうぞどうぞ」と平身低頭でお預かりする. 俺様だったら,怪しい奴…と睨まれるに違いない.                 普段,若い営業の行員は,その金持ちの家で昼飯をごちそうになったり,雑談で, 奥方に,上司の悪口などもこぼしたりしていたという.悪徳金貸し業に属する行員も 金持ちの家では,そんな甘え方もしていたようだ.                 俺様の常識では信じ難いことだが,銀行が五千万円の現金を持参して『是非借りて 欲しい』と,頭を下げて来たことも珍しいことではなかったという.奥方は,そんな 金を借りたら後が大変だと心配したと言うのだが.                 金はあるところに流れて行く通説は本当のようだ.然し,バブルの崩壊に伴って, さすがの金持ちも,資産の大半を処分せざるを得なくなった.その途端に預金一切が 押さえられ子供名義の預金まで下ろせなくなった.                 日頃,散々,成績を上げる必要があるので…と頼まれる度に子供名義で定期にした 預金まで,そんな始末だった.本当に銀行は血も涙もないところだと憤慨していた. 天下の金持ちでも一度事情が変わればこの始末だ.                 銀行の黒塗りの車も,最近はさっぱり来なくなった…と嘆いていたが,銀行が目を 付けているのは,その人間の金であって決して本人ではない.貧乏人には常識だが, 金持ちは,その時まで自分の人徳だと思っていた.                 順風満帆で来た金持ちも,バブル崩壊という事態で,初めて自分という人間自身に 人が寄っていたものではないことを思い知らされた.少々,苦しくなっても,周囲が 自分を放ってはおかないと心から信じていたとか.                 こんな現実を見聞していただけに,銀行の奴らがにじり寄ってくる姿には,特別な 悪感情が沸いてくる.例え,どんなに金持ちになっても,銀行と親密なつきあいなど 絶対にしてはならぬ.最後には金貸しの牙を剥く.** 悪魔 **           ・目次に戻る