ナンバーズへの執着

ナンバーズへの執着
 最近,宝くじの『ナンバーズ』が人気を集めているとの噂がある.専門の雑誌まで 刊行されている.普通の宝くじと何処が違うのかをみれば,ナンバーズ4の場合は, 指定した4桁数字が当たれば,時には百万円以上の賞金が手に入る.         例えば,通常の宝くじの下4桁の当選と言うのは,千円とかせいぜい一万円程度の 賞金に過ぎない.一見すると,かなり確率と賞金の率が良さそうな印象を受ける?  俺様もこれに惑わされて継続的に買っていたりする….^_^;             俺様の場合,毎回,同じ番号を継続しているのである.これならば,発表を見ても 現物がなくても当否が分かる.毎回,番号を変えようが,同じ番号にしようが当選の 確率に違いはない….                              このナンバーズ4の当選の確率は,番号一つに対して常に1/10,000で,これは毎回 同じである.一万回継続したからとて,必ず当たるとは限らない.一度当たったから 後はもう当たらないとも断言出来ない.                      今少し確率の高いナンバーズ3では,この確率が1/1000に上昇する.賞金もほゞ, 十分の一に下がってしまうが….何となく,3桁ならば,今すぐにでも当たる錯覚に 陥って,これも,ついつい継続してしまう俺様である.               1/1000の確率に『或いは…』と,期待するが,外れる確率の999/1000を考えると, ほゞ百%で,ここから漏れることは考えなくてもいい.当たる確率を見ずに,外れる 確率を見ると本当の姿が見えてくる?                       このナンバーズは一週間に二回の抽選がある.当選が考えられる一応の目安として ナンバーズ3に千回挑戦することを考えた場合,それに要する歳月は,十年である. 1/1000の確率は,十年に一回の確率とも言える?                  番号一つに対して,一口一回に要する費用が二百円である.千回では,二十万円の 計算になる.当たる賞金は,ほゞ十万円前後….これを考えると,労多くして実りの 少ない挑戦と言える.                              それも十年関挑戦して,必ず当たるとも限らない.毎回の当選の確率が1/1000で, 過去にどれだけ挑戦して来たかは全く関係がないとされる.ただ,千回も繰り返せば 確率的に当たる期待を見いだすのみである.                    滅多に当たらぬことに期待を持つのが宝くじであるが,反対に,ほとんど遭遇する 可能性のないところに不安を持つのが航空機事故である.海外旅行に際して,保険を 掛ける行為も何処か宝くじに似ている?                      航空機事故は,あり得ぬ幾つもの偶然が重なって大惨事となる.そこには慢性的な 油断が作用する要素もある.確実な安全確認に配慮して,緊張した中で操縦と管制を 行っておれは,先ず起こり得ない?                        然し,一度大惨事が起きれば,連鎖反応のように続く傾向もある.航空機の発着は 過密ラッシュである.理路整然と発着しているように見えながら,何処かで何かが, ほんの少し狂ったら….                             現場の様子を伝える映像が悲惨なだけに,それが,滅多に起こらない事故だとは, にわかには信じられない錯覚に陥る.宝くじ当選のエピソードは,これと同じ効果を 生み出す….自分にも当たるのではないかと….                  ここで俺様は,この錯覚をナンバーズに置き換えて考えるのである.ナンバーズに 特定の数字を決めて,怠りなく購入して,発表の日に当選番号の確認を怠りなく行い 緊張感を以て継続する間は絶対的に当選しない….                 何かの都合で,どうしても次のナンバーズの申込みが出来ない事態に遭遇するとか 今まで忘れたこともない購入を,その時に限って売り場の前を通りながら忘れるなど 自分と縁が離れた瞬間に,見事にその数字が当たる….               ほゞ,このナンバーズを一年近く継続している俺様だが…,未だに空白の一瞬には 遭遇していない….当たる可能性に一抹の期待を抱いて,毎回,欠かさず新聞発表を 見ている.                                   多分,こうして期待を以て,購入と当選発表に接している間は,まず当選はない? この緊張が解けて,うっかり買い忘れて『シマッタッ…!』と,恐る恐る発表を見る その瞬間…,そこに十年来継続した番号があったりする….^_^;           ギャンブルの深みに嵌まるのは,次に来るのではないかとの期待が膨らみすぎて, そこから離れられなくなる結果である.今まで投資した資金を無駄にしたくないと, 強い執着が起きる.                               過去の投資額は確率に影響しないが,人の心はそれを認めようとしない.宝くじも ギャンブルも,実際には一回毎に清算が済んでいる.それでも,強欲な人間の心は, なかなかこの感覚に馴染めない.                         一回毎の楽しみと引換えに,使った金が消えただけである.その意味では,旅行に 出掛けて帰って来たことと変わりはない.そこに使った金が,次の旅行の蓄積になる 道理は全くないのである.                            娯楽として,ギャンブルをあげる人間も少なくないのだが,それが本当に娯楽だと 割り切れる人間がどれだけいるのか? 娯楽とは,金銭的に,一回限りの付き合いが 原則であり,これ以外には何もない.                       然しながら宝くじやギャンブルに,しばしば『投資する』と言う言葉が使われる. それだけ一回毎に十分に楽しんでいない貧しさが漂う.俺様とて,もしナンバーズを 買い忘れたら…と,気に病む貧困な意識の中にいる.                投資と言う言葉を使う以上,資金の回収に十分な可能性があるところに,その金が 使われなければならない.1/1000の確率しかないところに使う言葉ではない.結局, 満足出来ないつまらぬことに浪費をしているだけである.              ナンバーズも,この俺様のように,特定の数字にこだわりを持つと,毎回,それに 強い執着が起きて,次に当たるのではないか? もし買い忘れて,それが当たったら 損をするかのような錯覚に陥る….                        番号の選択は,機械に任せて,一回限りの購入で1/1000の確率に,二百円の代価を 支払う方法に徹して,気が向いたときだけの購入に切り換えれば,要らぬ脅迫観念も 姿を消すのではないか?                             発表の日に,自分の番号を知っていて,くじの現物がなくても確認出来るようでは 楽しみ自体が半減している? 果して,自分の番号は幾つなのか? 一回毎に違うと 現物と照合の楽しみが増える.外れても悔いがない?                それよりも何よりも,経済的に貧しいくせに,金持ちのように金を玩具にして遊ぶ 悪癖が,一向に貧乏から抜け出せぬ生活を定着させていることに反省する勇気こそが 必要な気がする….無駄こそが俺様の人生でもあるが….^_^; ** 悪魔 ** 

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