サラワクは今



■ 油やしプランテーション開発の横暴と闘う−ウル・ニア事件・最新情報−

 1999年9月1日、サラワク州ミリ省のウル・ニア地区で、地元の村人である先住民族イバン人と油やしプランテーション労働者との衝突が起きました。その事件の続報です。
【背景】
 既に伝えてきたとおり、この衝突事件では労働者4名が死亡、3名が負傷しました。そして、同地区の男性村民19名(うち1名は未成年)が、労働者4名の殺人罪と仮の罪状で起訴され、勾留されています。村人たちは、この事件が起こるまでの3年間ほど、プランテーション労働者たちによる村への侵入と作物や果樹などの破壊におびやかされ続けてきました。この問題については、住民たちは警察に7回も通報してきましたが、警察は村人を守るための対策をほとんど何も取ってきませんでした。その結果、死傷事件が起きてしまったのです。
【最近のニュース】
 この事件に関する本格的な公判は、弁護団が最終的に決定するまで正式には開始されないため、未だに裁判自体に進展は見られません。これまで住民たちは数人の弁護士の有志活動により、殺人罪などで被告となった19名の村の男たちの法廷での弁護に備えてきましたが、5月19日に高等裁判所より、被告1人に1人ずつ国選弁護人をつけるという告知がありました。
 国選弁護人の場合、弁護士費用は政府が負担するため、住民側の負担は非常に軽減され、その点は歓迎すべきことでしょう。19人の人選についても、住民側が支持する弁護士の名前も散見されており、住民側の要望が汲まれている面も見られます。
 しかし、(1)これまで、住民の弁護活動に有志で走り回ってきた弁護士や、住民から最も信頼を受けている弁護士の一部が、19名の国選弁護人リストには入っていないこと(2)国選弁護人の中には十分な経験を積んでいない弁護士が一部存在していること、などが、懸案として残っていると言えます。
 目下、現地では、国選弁護人ではない別の弁護士を頼む場合に、弁護士費用の負担はどのようになるのか(個人負担となってしまうのか、ならないのか)を確認しています。ちなみに、弁護士費用を全面負担した場合、想定すべき負担は弁護士一人当たりおおよそ日本円で70万円とのこと。現地では、これらの諸条件を考えながら、今後歩むべき方向を検討している最中です。
 次回公判は、11月初頭から12月初頭にかけてになる予定ですが、裁判官の異動が重なっているため、未だ不確定なままです。

 SCCで皆さんにご協力をお願いしてきたウルニア支援基金では、これまでに48万9千円のご協力をいただき、先日、現地へ確かに送金いたしました。使用用途については、今後、またお知らせします。裁判日程が遅々として進まぬ現状があるため、基金使用のご報告もそれにともなって多少時間がかかる可能性も高いのですが、ご了承ください。

■ 蚊帳の外に置かれるプナン人

【解説】自らが暮らす土地について、政府が描こうとする将来像に脅かされる先住民族プナン人たちの現状を伝える記事が、また2つ届きました。1つ目は、サラワク州北部のムル国立公園地域に暮らすプナン人、そして2つ目は、同じくサラワク州北部のミリ省バラム地区に暮らすプナン人たちについてです。
 ちなみに1つ目の記事は、マレーシアの首都クアラルンプールに編集部を置く電子新聞「マレーシアキニ(マレーシアの今)」に掲載された、サラワク州でNGO活動に携わるウォンさんの記事です。
 マレーシアではマスコミ報道の統制が厳しく、社会の実情はなかなか新聞報道されない現状があります。その中にあって「マレーシアキニ」は、同国初の「インターネットでしか読めない新聞」で、活字メディアに比べて電子メディアに対する報道規制がゆるい現状のもと、政治党派に偏らない、告発型の報道を 続けています。ちなみに「マレーシアキニ」のホームページは、次のとおり。のぞいてみては?
「マレーシアキニ」のURL http://www.malaysiakini.com/
 2つ目の記事は、マレーシアのNGOが5月に発表したものです。

● 2000年7月8−9日 混迷するムル世界遺産登録

 マレーシアの先住民族が、自らの土地より辺境へと追いやられ、あげくの果てに自分たちと自分たちの土地にかかわる開発計画への参加を認められず、正規の扱いさえ受けないというのは、昔からよく聞く話である。
 ムル・世界遺産会議2000も例外ではなかった。先住民族が所有権を持つ土地につくられたロイヤル・ムル・リゾートで6月20日から22日まで開催された会議には、世界中の人々が集まり、議事は英語で進行した。
 ところが、地元の先住民族に対する通訳は提供されなかった。近隣の村から招待された30人のブラワン人とプナン人たちは、ムル国立公園を世界遺産にすることについて何が話されているのかをまったく知らされないまま佇んでいた。
 ムル洞窟:現地の人は保護計画の蚊帳の外
 世界遺産条約(1972)は、世界的に意義のある自然および文化を保護する国際法上の主要な法律文書である。1999年の終わりまでに、480 件の文化保護地域、128件の自然保護地域、および双方に属する22件、計630件の保護地域が指定されている。この条約の事務局である 世界遺産センターは、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の下に設立された。マレーシアは1988年に同条約に調印したが、昨年10月のユネスコ会議で、ムル、 サバのキナバル公園、 パハンのタマン・ネガラを候補として挙げるなどの実質的な活動を開始したのはつい最近のことである。
 世界遺産の地として名を連ねることは、財政的、技術的(もしくは専門的)な支援を受け、観光拠点として認められ、国際的に有名となることにつながる。
 会議では、ユネスコ・バンコクのベアトリス・カルドゥム女史は、世界遺産に登録された地域の保護と管理に地域コミュニティーが参加して経済的社会的なメリットを得られるようにするLEAP (Local Effort And Preservation)プロジェクトを含む、世界遺産条約に関連する各種の方策に関する報告を発表した。カルドゥムは、地域の住民が地域の状況をもっとも的確に把握しているため、その参加は必須だと述べた。
 しかし、BRIMAS(Borneo Resources Institute, ミリを拠点とする現地NGO)が同時並行して開催したプナン人のミーティングでは、地域住民はムルが世界遺産条約の候補地となることに関して相談されたどころか、候補地になったことさえ知らなかったと述べた。
 プナン人に代表される地域住民は、当初は森林の移動生活者として、また、特に公園として指定された1974年以降の政府の努力により、近年では定住者として約200年間この地域に居住している。
 州に住む他の先住民族に共通の最も深刻な問題は、公園の外部での開発により、故郷である森林が伐採されて、農園や木材プランテーションとなり、彼らの生存そのものを脅かす結果となっていることである。
 BRIMAS が招集したミーティングでは、世界遺産条約の環境保全の精神に則って、先住民族の福祉一般や森林保護への取り組みや州全体の森林と国立公園の管理に先住民族が参加することなどを提言している。
 サラワク州国立公園法では、国立公園内での人的活動を一切禁止している。ムルのプナン人に関しては、彼らの先祖伝来の領域においてそのルールの執行は緩和されており、保護対象以外の動物を狩ったり、木材以外の林産物を個人の使用のため集めたりすることが許されている。
 しかし、1998年に制定された法律に基づいて国立公園の管理が一般企業に任されることにより、国立公園から完全に追い出され、彼らが今住んでいるバッファーゾーンに自分たちの活動が限定されることを恐れている(これは世界遺産にリストアップされる条件の一つにもなっている)。
 オーストラリアのコンサルティング会社がこの8月を期限とする公園の一般企業による管理の原案を作成している。しかし、先進諸国で機能する計画が開発途上国で同様に機能するという保証はない。
 さらに、トップダウン型のマレーシア政府が、このような民営化計画やそれに関する勧告を、地域の先住民族に適した形で実施できるかどうかも定かではない。本当の住民参加は、一番はじめから維持管理の段階まで包括すべきである。サラワクでは、実際に実施段階に入ってはじめて地域住民の参加が求められるプロジェクトが後を絶たない。
 例えば先住慣習地での油ヤシプランテーション開発を推進する「土地銀行構想」であるコンセプ・バル (新構想)、Fomiss(バラム川奥地でのドイツとマレーシアの合弁事業)の名目上「持続型」森林管理のパイロットプロジェクトなどである。
 ムル会議に当たって、 IDEAL(Institute for Development and Alternative Living)とBRIMASのふたつのNGOは、例えばこのような会議での発言の機会など、地域住民の参加を認めるよう提案した。しかし、主催者側は、この会議はふさわしい場ではないと回答した。  しかしながら、会議閉幕後、州首席大臣の政治担当書記官であるロバート・リアンは、地域住民との対話の場を設け、ユネスコ代表が通訳つきで地域住民に語りかける場を設定した。一見前進があったように見えるが、その後、政治担当書記官は地域住民に対して、NGO はトラブルメーカーだから近づかないようにと、いつものように警告した。
 世界遺産条約は、環境の保全と管理におけるNGOの役割を明確にうたっている。新しい千年紀に向かい、国の開放と発展に邁進しようとする国が、代替案(を提供する組織)に対して否定的な姿勢をとり続けているのは、後ろ向きな姿勢としか言えない。
 地域住民を観光事業に参加させる努力がないのはなぜかという問いに対しては、その場に出席していた大臣は、言語教育を含む訓練その他の措置の必要性には触れず、プナン人が必要条件を満たしていないと非難するだけであった。
 地域住民が意義ある参加をし、経済的にうるおうためには、このようなプロジェクトは彼らの文化やライフスタイルを維持できるバランスが必要でる。先住民族の文化は、ダンスや工芸などの単なるエンターテイメントに限定されて扱われてしまう傾向がある。  世代が交代するにつれ、狩猟、農耕、自給自足の技術も失われて行くだろう。観光産業を停止させたり停滞させるような社会的もしくは自然の変化が起こるとしたら、地域住民は仕事をなくしたうえ、古来の生存方法も失ったまま、貧困と絶望にさらされることになる。
 ユネスコ代表のカルドゥム女史は、帰途につく際、ムル空港でジュネーブ本部に提出されていたムルの申請書に目を通した。彼女は管理計画に、地域住民が要求した管理チームへの参加の条項を見つけることができなかった。カルドゥム女史はこれほど情報が不備な申請書では、審査にさえ回されないだろうと言った。
 もしかすると、この不備が、政府が着手する後続のプロジェクトにおいてはもっと地域住民の参加が促される結果をまねき、ムルを世界遺産リストへ入れようとするトップダウン式のアプローチも改められるかもしれない(M.C. Wong)。

● プナン人、先祖伝来の土地の調査中止を訴え

 サラワクでは、ミリ省バラム地区のアポ、トゥトー、ラユン、パタ地域の数多くのプナン人コミュニティーが、彼らの先祖伝来の土地に対する森林局の調査を中止するよう州政府に訴えている。
 この調査はアポ/トゥトー保存林とマリンゴン保護林を設けるために実施されている。
 1998年当初からプナンの人々は彼らの慣習地を保存林に転換するプロジェクトに反対しており、外部の人々が勝手に侵入すると彼らの安全と貴重な資源が危険にさらされる恐れがあるとして訴えを起こしている。
 彼らは森林局とサラワク州政府に対して、当該地区でのすべての調査を直ちに中止するよう求めている。
 環境NGO、地球の友マレーシア(SAM)はこれらプナン人たちの挙げる懸念・不安を理解し、州政府に、プナンの要求を考慮して当該地区でのすべての調査を中止するように求めている。
 SAMの見解では、先住民族の権利を無視して彼らの慣習地を含む広大な土地、森林を保存林や保護林とする動きは、法律に反しているのみならず、先住民族の土地、さらには彼ら自身の将来の対する自立を失う結果に繋がる。
 サラワクではほとんどの場合、「保存林」「保護林」は伐採業者に与えられたり、他の「開発」目的に利用されるに他ならなず、「保護林」でも何でもない。
 もし、森林が真に保護されるならば、先住民族から先祖伝来の土地を奪う結果になってはいけないはずである。
 SAMは、森林を永久林(保存林、保護林)と定める前に、先住慣習権を消滅させるような法律や政策を見直す必要性を強調する。
 それが行われるまで、先住民族と政府や伐採業者、プランテーションとの対立は増すばかりであろう。

 この記事は2000年5月23日付 地球の友マレーシア(SAM)プレスリリース、「プナンがサラワク州政府に先住民族の権利を尊重するよう訴える」からの情報に基づいています。

■ 東マレーシアにとって環境保全強化は必要

 「サラワク州とサバ州は、天然資源によって健全な経済成長を遂げながら、効果的な環境保全の対策を立てる必要に迫られている。」とジョージ・チャン副州主席大臣は木曜日に発言した。
 「ひとつの州で誤った資源の使い方をすると、隣接する州に環境破壊という面で様々な影響を与える。」とも述べた。
 「グローバル化の到来によって、特に環境資源を利用した活動はもはや他のことと切り離して捉えることはできない。」ここから35km離れたダマイで開かれた第1回目のサラワク・サバ環境会議を始めるにあたって、チャンはこのように述べた。
 “新たなミレニアムにおける持続的な発展に向けて”と題された2日間の会議が行われ、両州から約180人が参加した。この会議はサラワク州主席大臣の事務所とサラワク州自然資源・環境委員会、サバ州公共サービス局によって共同で組織されているものである。
 1998年初め両州で軽いもやを起こした両州をまたがる泥炭火災が起こったが、チャンは会議でその繰り返しを防止する提案が出ると確信していると述べた。
 一部の公務員が法律や規制を熱心に守ろうとする余り、(反感をかっている問題について)「その前に環境問題についての教育や国民の意識を向上させるような活動がもっと行われるべきである。」
 「国民に次のことを理解してもらうことが不可欠である。法律の執行は、弱者に対して、しばしば高い代償を払わせている環境破壊を防ぐためにあるということである。」
現在サラワク州の統一された環境保全政策は、1993年のNREB法令を基本としている。
 チャンはさらに付け加えた。「サラワク州では森林の管理方法の実践を評価するため、1989年終わりと1990年初めに国際熱帯木材機関(ITTO)の独立調査団を迎えるという、前例のない措置をとった。」
 「この措置は、サラワク州が持続可能ではない森林管理方法とプナン人に対する人権侵害に関わっているという見解を正すために取られたが、その結果、ITTO調査団はそのような事実はないと結論を出した。」
 「しかし、誤った情報を正すのにかかる費用は莫大である。その調査団が要求した対策のひとつは、サラワク州において永久林からの木材生産を1994年までに1200万m3から920万m3に減らすことであった。」(注)
 「一方で州政府がその対策に従うと、約1万人の森林労働者が解雇され、5600万米ドルにも及ぶ収入の減少につながった。」
 「州政府はあわせて永久に約5000万米ドルの歳入減になり、外貨収入の減少はサラワク州で約5億米ドルになるだろう。また、グローバル化という考えはいいことではあるが、特に環境保全などの微妙な問題が絡む場合、そのプロセスや実践方法によっては有害な影響を与える可能性がある」とチャンは述べた。

(注)記事では92年までとあるがSCCで訂正
出典:ベルナマ通信(クチン)、6月29日

■ バクンダムプロジェクトは増大するエネルギー需要のために必要、とマハティール首相

【解説】アジア経済危機にともない計画が棚上げとなってきた、サラワク州における巨大ダム=バクン水力発電ダム計画の最新ニュースです。この記事にもあるように、計画そのものは棚上げとなってきたのに、該当地域の住民移住だけは既に終わっています。そうした背景については、SCCが昨年11月に刊行したブックレット「バクンダム移住−沈みゆく熱帯林と先住民族の生活−」も、是非ご覧ください。

 クアラルンプール:マハティール首相は工業分野での電力需要回復に応えるためにバクン水力発電プロジェクトを続けていくと述べた。
 「我々は工業部門の急成長に直面しているが、エネルギーの供給がそれに追いついていない。だからこそバクンプロジェクトを続けなければならないのだ。」
 首相はまた、500メガワットの電力を供給する提案があるとも述べた。
 今日セダンでのTenaga Nasional大学事業の開始に臨んだ後で「今始めれば、5年でプロジェクトを完了できる」と首相は記者達に語った。
 プロジェクトの総費用は130億リンギ(RM)だが、もし500メガワットの発電能力を持つ発電所を建設するとなれば、費用はそれ程かからないだろう。
 マハティール首相はバクンプロジェクトが必要な理由として、景気回復で電力使用量が98年から99年の間に1000メガワット増え、電力需要が9000メガワットにまで急増したことを挙げた。
 首相はまた次のように述べた。「政府はバクンプロジェクトについて真剣に検討している。」
 「しかし、現時点では、電力を利用する企業を誘致しなければならない。以前、工場建設を予定していた製錬会社はオーストラリアに移ってしまった。」
 「我々は新しい投資家を見つけなければならない。見つかり次第、プロジェクトを進める。」
 プロジェクトが民営化されるか、政府によって行われるかとの質問に対しては「まずよく検討しなければならない。」とコメントした。  「これから最適な選択は何かを考えていく。しかし、民営化なしでは、この国の発展は10年遅れるだろう。我々はいつになっても進歩できない。」
 「政府はすでに何百万リンギも支出し、プロジェクトは半分まで進んでいるのだから、我々はプロジェクトを続ける必要がある。中止したら、大変な損失になる。」
 首相はまた、政府はまだあきらめておらず、プロジェクト継続の道を探していると述べた。
 昨年6月Tenaga NasionalのTan Sri Dr Ahmad Tajudin Ali社長は500メガワットの発電所でバクンプロジェクトを規模を縮小してよみがえらせるという提案に35億RMから50億RM程度の費用を見積もっていると発言したと言われている。
 Tenaga Nasionalはサバ、サラワクへの電力供給を目的とするこの縮小されたプロジェクトのリーダーだと言われている。
 アジア地域の経済危機により当プロジェクトが無期延期された後、1997年11月に政府はバクン水力発電会社からプロジェクトの管理を引き継いだ。

出典: スター紙、2000年6月30日


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