【解説】1999年9月1日、サラワク州ミリ省のウル・ニア地区で、地元の村人である先住民族イバン人と油やしプランテーション労働者との衝突が起きた事件の続報です。同地区ブサン村のアヤン・サナイさん(44歳)という女性が、逮捕された夫リアウ・ランボルさん(46)さんへの思いを語りました。
既に伝えてきたとおり、この衝突事件では労働者4名が死亡、3名が負傷し、同地区のブサン村とバリ村の男性村民19名(うち1名は未成年)が、労働者4名の殺人罪と仮の罪状で起訴され、勾留されています。しかし、実はこの事件が起こるまでの3年間ほど、両村の住民は、プランテーション労働者たちが村にたびたび侵入しては作物や果樹などを破壊することに、おびやかされ続けてきました。この問題については、住民たちは警察に既に7回も通報してきましたが、警察は村人を守るための対策をほとんど何も取ってきませんでした。その結果、9月1日の衝突が発生してしまったのです。
村民側は弁護団を雇い、裁判は既に開始されています。しかし、仲間の弁護のための膨大な費用を捻出するのは、両村の村人には大変な負担です。イバン人43家族が暮らす、人口にして300名余りの両村では、主な働き手でもある男性を一度に19名も逮捕され、精神的にも経済的にも大変な打撃を受けています。一家の大黒柱を奪われた家族の家計も逼迫しています。
ここに紹介するのは、サラワク州にある地元NGOのホームページに掲載された記事の一部分です。今年2月、ブサン村・バリ村から3名の女性がサラワク州都クチンへ出かけて、市民に向けて裁判への支援を訴えました。その3人を取材した記事から、アヤン・サナイさん(44歳)という女性が、逮捕された夫リアウ・ランボルさん(46)さんへの思いを語った部分を、以下、抜粋しました。
(クチン発)……アヤン(44)は、夫リアウ(46)のことを、出稼ぎに出たこともない、家族思いの優しい父親であり配偶者であると語った。「過去6ヶ月の別離は、私たち全員にとってもっとも苦しい試練です」と、涙を流しながら彼女は言葉をついだ。
リアウは、3エーカーある家族の所有地に陸稲を植え、1エーカーほどの庭には野菜を育てて、一手に家族を養っていた。「野菜はいつも売っていましたし、米は豊作の時に売っていました。お金持ちではありませんでしたが、作物さえ売れば質素な暮らしをしていくには十分でした」、「私たちにとって一番大切なことは、家族全員が一緒に暮らせることだったんです」とアヤン。
アヤンは、自分たちの土地に入りこんできたプランテーション会社に対する苦悩を語り、また、質素で平和なロングハウスの生活全般、特に自分たちの生活を乱した会社を責めた。
「ブサン村や バリ村の他の人たちと同様に、私たちも過去何十年と、静かでお互い調和のとれた生活をしてきました。お金はなくても、幸せだったんですよ」
「これまでは、他人に雇われるわけでもなく、農業を営み生計をたててきました。土地さえあれば、必要なものはすべて手に入ります。企業が、私たちの暮らしに混乱をもたらしたのです。私たちは常に、ロングハウスの ビリク(部屋)と農地を失うことを恐れて生きています。他に行ける場所はないのですから」
「私たちは、ここの土地を与えてほしいと政府に申請しましたが、保存林だからと拒否されました。しかし、会社は政府よりライセンスを得たと言っています。会社には既に大資本があり、この土地は必要としないはずです。会社が私たちから土地を奪い、その会社に政府が味方をしていることは、理解できません」
アヤンによると、夫リアウは、オイルパームプランテーション会社に雇われたならず者と、農地で出会っていたという。また、同じならず者がロングハウスの建物に入ってきて村民に狼藉を働い
たところにも、夫はいたと、アヤンは思い起こして語った。
リアウが仕返しを試みたのは、そのような脅迫が行われたからかという質問に、アヤンは強い口調で答えた。「私や子供たちだけではありません、リアウを知っている人なら誰でも、彼が人殺しをするなどとは思いません。誰とでも友達になれて、誰とも口論することさえない人なんです。彼は無実です。彼が早く家に帰ってくることを祈っています」
夫リアウが拘束されてから、アヤンは 家族への自分の義務に加え、夫がしていた仕事のすべてをしなければならない。
21歳になる長男のロバートは、ジョホールの工場に勤めている。長女リン(13) と次女ドーラ (3) は、 ブサン村に暮らしている。リンは、バトゥ・ニア中学校に通学している。
「私が稲畑と野菜畑で働くために、リンは、家にいるときには妹の面倒をみています」と言う。こうした制約のためにアヤンは、稲畑の1エーカーと自分たちが食べるだけの野菜畑の世話しかできない。
そのうえ、65歳になるアヤンの実父が、家族と同居している。「父は年よりで、体も不自由です。兄弟姉妹のいない私は、ですから父の面倒もみなければなりません」
「私たちの家計困難は深刻です。農地では、食べるのにやっとの作物しかできませんが、リンの学費も、夫に面会するためにミリのランビール刑務所まで出かける交通費、そしてその他の生活費も、工面しなければなりません。」
「こうした問題にもかかわらず、夫は、娘のリンが学校で学び続けることを強く希望しています。私が彼を2週間に2回ぐらいの頻度で訪問するたびに、娘がちゃんと学校にいってるかどうかを、夫は尋ねるのです」
長男ロバートもできるかぎり仕送りをしているが、彼の給料は最低賃金だ。
「幸いにも 友人や親戚から支援を受けていますが、ランビール刑務所を訪問し続けるためにも、販売できる野菜をもっと多く植えるように努力しています」と、アヤンは語った。
出典:Rengah Sarawak
■パルプ用材プランテーションは、バラ色のシナリオか−サラワク州の政治家と、NGOの意見を比べ読み−
【解説】熱帯林の原生林伐採跡地への、パルプ・製紙用の早成樹種(アカシアなど)のプランテーション開発がアジア各地で行われていますが、サラワク州も例外ではありません。ここでは、アジア有数のパルプ・製紙会社であるボルネオ・パルプ&ペーパー社による大規模なアカシア・プランテーション開発をめぐって、サラワク地元紙と、地元NGOとがそれぞれ今年3月に発信した記事を抜粋し、パルプ用材プランテーション開発への賛否両論を並べてみました。あなたはこれを、どう読みとりますか。
● サラワク州の林業、植林で近代化へ(地元紙Sarawak Tribuneより)
(クチン発)サラワク州主席大臣タイブ・マハムッドによると、サワラク州は、持続型の森林管理の標準的な手法を確立しただけでなく、林業の近代化に成功して、世界で重要な位置を占めるに至ったという。「これは、経済的な利益を資源の有効利用と融合することによって実現できた」と、州主席大臣は付け加える。
大手銀行7行とボルネオ・パルプ&ペーパー社 (BPP) による合計2億5000万RM(マレーシア・ドル)の合同資金提供の署名式においてサラワク州における林業近代化を象徴するような上記の内容を公表した。
この合同署名式の目的は、同州のムカー、ビントゥル、タタウなどの地区にある205,958ヘクタールの原生林をアカシアの広葉樹林プランテーションとして開発し、土地開発、植林、維持および森林利用に要するインフラストラクチャーなどへ資金供給することにある。
パルプ原料の生産を行うBPPのテグ・ガンダ・ビジャヤ会長は、将来的には中国への輸出も考えていると発表した。
BPP は、州有地での植林と木材プランテーション造成を目的とする60年有効の植林ライセンスを、1995年に州政府より取得している。
ビジャヤ会長は、育苗所の施設拡充が4期で予定されており、最終的には年間5000万本の若木を生産する予定であること、また第一期は既に完了し520万本の若木が生産されたことを発表した。約3500ヘクタールに、既にアカシアが植林されている。
木材プランテーションとパルプ・製紙業界のベテランで組織された管理チームは、政治的に安定して有利なビジネス環境が存在するサワラクを投資対象として選択したのだと、彼は述べた。
従来、州政府は大手の林業業者の参加を促してきたため、現在ではBPP を含む7社が参入している。
結果として、州政府は林業業界全体に働きかけ、森林資源を持続的に最大限に利用するための合理化のステップを踏むことができる。
タイブ州主席大臣は、「研究の成果で、生長の早い樹種を植林することにより、州の森林資源を復旧させ、持続的な生産を行うことが可能になった」と述べた。
政府が大手7社の林業業者の参加を促す理由は、各社の土地の20%を植林地として開発する生産性向上プロセスを支援するためだという。
民間セクターの積極的な支持により、このプロジェクトが経済的に成立することが分かり、銀行セクターよりの投資をうながす結果となったことを、タイブ州主席大臣は歓迎した。
また彼は、経済的成立に対する保証と、業者からの提案があるからには、これからはさらに多くの銀行が参入し、資金を提供するに違いないと発言をしている。
「林業業者は、効率の良い生産性を提供するとともに、植林地のロスを防ぐ防火対策など、高度な森林管理を行うことを約束している」
さらに、林業の近代化には、オイルパームプランテーション並みの60年間の土地リースを提供するなど、林業をより魅力ある産業にすることも含まれる。
タイブ州主席大臣は、「従来の手法に頼る時代は終わった。今日の林業が対面するチャレンジに対処するため、気を引き締めなければならない」と述べる。
その過程として、長期的な戦略と林業の保全を確保できる業界リーダーや業者を、選定していかなければならない。
これは、森林資源が一時的なパルプや紙などの主要産物の生産に利用されるだけでなく、持続的な利用が行われることを保証するために必要なプロセスである。
これに先だって、BPPのビジャヤ会長は、BPP が、サワラクをパルプと紙生産の世界的な中心地とする努力をしてきたと発表している。
BPPはアジアにある世界で有数の垂直統合型のパルプ・製紙会社であり、ニューヨーク証券取引所にも上場している Asia Pulp and Paper Company Ltd (APP) とSarawak Timber Industry Corporation (STIDC)とSarawak State Financial Secretary Inc.の3社のジョイントベンチャーである。
STIDC は、サラワクの林業業界を管理する政府機関であり、State Financial Secretary Inc. は、サラワク州政府の投資機関である。
出典: サラワク・トリビューン紙3月8日に掲載の2記事より抜粋
● 植林地は、持続的森林開発と言えるのか(現地NGO発行の記事より)
……アカシアの2品種が、自然な状態の森林の5倍に当たる1日0.5cmもの生長をみせる、という報告がある。生育すると27メートルに達し、パルプや紙の原料となる。
この報告が、製紙業界の持続型開発をバラ色に描いていることは、言うまでもない。しかし、植林が行われる時点では、木の幹が掘り起こされ地域の土壌が大量に取り去られることにも着目してほしい。木の根は特に微量元素を下層土より吸い上げているため、表土に化学肥料で主要なミネラルや栄養素を補給しても、長い目で見ると土地がやせる結果となる。さらに化学肥料は土壌と下流の水脈を汚染する。
このような単一作物の栽培は、生態系とその生物の多様性を減少させるだけでなく、有機質の分解の減速を原因として地面の落ち葉の堆積を増加させるなど、栄養素の循環のバランスを崩す。結果として、土壌の化学構成が変化したり酸性土となったりする原因にもなる。
植林には、重い機材を使用するため、土壌の侵食や圧縮などもひきおこす。
アカシアの植林地は、一種か二種の成長の早い種により構成され、ほんの少数の植物相や動物相の生存しか許さないため、森林とは呼べない。
1999年1月には、バワン川と ケメナ川沿いにある23のロングハウスに暮らす先住民が、ボルネオ・パルプ&ペーパー社(BPP)に対するバリケードを、地域に設置した。BPPへの補償の要求が、合意に達しなかったためだ。これらのコミュニティーに属する先住慣習地13,000ヘクタールが、BPPの植林プロジェクトにより影響をうける。コミュニティーは、BPP による彼らの土地への立ち入りを禁止する命令を、裁判所から取りつけた。
この地域の多くのイバン人たちや、同州のその他の先住民族のグループも、先祖から受け継いだ土地を、子孫が使えるように守る覚悟をしている。
出典:Rengah Sarawak、2000年3月27日
■マレーシアに、人権委員会設置−人権擁護のアリバイづくりか、希望の火か?−
(コタキナバル発)新たに設立されたマレーシア人権委員会のある委員は、この委員会に適切な情報が与えられるのならば、ここでサバ・サラワク両州の人権問題を審理することになるだろう−と語った。
委員会の中で唯一のサバ州出身委員、シモン・シパウン前サバ州次官は、昨日、委員会が討論の適切な場であると思われる場合には、自らが注意を喚起されたいかなる事柄でも提起することを厭わない、と語った。その発言は、サバ・サラワク両州における人権問題を委員会で提起するのかどうかという質問に、シパウン前次官が答えたもの。
人権委員会の委員長にムサ・ヒタム氏が選ばれたことについて、前副州主席大臣はこの仕事に最適の人物であると、シパウン氏は語った。また、最近、人権は頻繁に報道されているが、その擁護の意味は国により異なっている--とも、彼は語った。
「この委員会はまだ開催されていないので、私自身がどのように貢献できるかについて述べることは控えたい。それは、私の価値観と正義感だけでなく、経験と認識に基づいていると言うことだけにとどめておきたい」と、32年間サバ州の公務員を勤めたシパウン氏は語った。
今週の月曜日(2000年4月3日)、サイエド・ハシッド・アルバール外務大臣は、人権の啓発と擁
護という一般的な機能に加えて、マレーシアにおける人権侵害にメスをいれる権限を委託された人権委員会の設立を発表した。
アンワール・イブラヒム前副首相が警察に拘留中に被った傷害を究明する調査委員会にも加わった経験のあるシャンカール元控訴院判事は、委員会への任命について質問された際に、このように発言した。
「議会がついに人権委員会の必要性を認め、人間性の侵害に対する社会的無関心は侵害者たちの地歩を固めるだけであることに気づかなければ、人権委員会が設立されなかったであろうことは明らかである」
委員会の他のメンバーは、社会的弱者の支援者として素晴らしい実績を持っており、それは信頼性を高める要因となるだろうとも、シャンカール氏は語った。
リム・キット・シアンDAP(民主行動党)全国議長は、この委員会の最初の任務は、言論と報道の自由の侵害を調査することとすべきであると語った。シアン議長は、この人権委員会について批判的な評価を主要報道機関が報じなかったことについて遺憾の意を表明し、この事実こそは委員会の設立に対する批判が管制されることを例証するものだと語った。
「例えば、私はこの委員会が国内の人権侵害を合法化する弁明機関(アリバイ)に終止してしまうのではないかと危惧している。なぜならば、その人権の定義は、連邦憲法第2部に記載された内容に限定されているからである」
このような狭い定義では、国内治安法、公的機密守秘法、反政府活動取締法などを含む憲法下の「抑圧的で過酷な法」の全てを委員会が認め、尊重しなければならなくなるかもしれないと、彼は語った。
出典:THE STAR紙 2000年4月7日より抜粋
■バクン・ダム開発、再び−規模を縮小し、工事再開へ−
【解説】アジア経済危機にともない、計画が棚上げとなっていた、サラワク州における巨大ダム=バクン水力発電ダム計画が、規模を縮小して再開されることになりました。
(クチン発)マレーシア連邦政府は、バクン水力発電ダム計画を引き継ぐために9億5千万リンギを支払い、ダム建設を段階的に再開するゴーサインを出した。
シャフィー・モハメッド・サレー財務次官は、「その計画は昨年8月10日に正式にバクン水力発電社(BHC)から引き継がれた」と、昨日(2000年3月21日)発表した。
計画の権利譲渡と資産の売却も既に契約済みで、全ての未払い金の決済も完了したと、当地で開催された国際会議「2000年以降のサラワク」において彼は言った。
支払いのうちの4.36億リンギは金融機関に渡され、一方残りの3.9億リンギはエクラン社へ、2千4百万リンギはドンア建設社へ、そして1億リンギはBHC株主へ渡されたと、サレー財務次官は言った。
エクラン社はプロジェクトの推進主体であり、ドンア建設社は迂回トンネルの建設を請け負った韓国の会社である。エクラン社はBHCの筆頭株主で42%という大部分の株式をもち、サラワク政府25%、サラワク電力社(SESCO)12%,カザナー・ホルディングズ社6.67%,テナガ・ナショナル社(TNB)6.67%,公務員年金基金6.67%と続く。
「移管後の現在、計画はMinistry of Finance Incorporated(財務省の関連組織)の管理下にある。ドンア社は河川の迂回トンネルの仕事を再び始めた」と、財務次官は述べた。
「来年の初めまでにそのトンネルは完成する予定なので、TNBとSESCOはその実施のための最善の方法を研究するよう委託されている」と彼は付け加えた。
選択のうちの一例は、トンネルのひとつを、500メガワットの発電容量を持つ地下発電所に変えることである。
研究と勧告も来年初めにはまとまり、内閣によって承認される予定である、とサレー財務次官は言った。安価な電気への需要増加のため、政府は経済不況時に棚上げとなっていた計画の再開を決断したとも、彼は述べた。
しかしながら、国の経済成長と電気の需要の増加を見据えながら段階的に計画を実行することになると彼は指摘している。
「このような状況のもとでダム建設を段階に分けることは、コストの大幅削減に通じるので、賢明なことである。Ministry of Finance Incorporated(財務省の関連組織)は計画を実行し、政府を通じて資金を調達するでしょう。」と彼は付け加えた。
ダムで発電された電力は、サラワク州やサバ州、そしておそらくブルネイにも供給されるが、当初予定していたマレーシア半島部への供給は行わない、とサレー財務次官は言った。
「これは、ダムの発電容量と工事規模の縮小による。その結果、建設費用は(当初予定されていた)135億リンギではなく、50億リンギになる」
このプロジェクトが長期的には、サラワク・サバ両州への様々な産業の工場誘致など、この2州のより良い発展につながるだろうと彼は言い添えた。
出典: サラワク・トリビューン紙、2000年3月22日