サラワクは今…


■バクン裁判に住民勝訴判決!!..?

 アジア最大規模(面積にしてシンガポールと同等)と言われるバクン水力発電計画に「地域住民の意見が環境影響評価作成の過程で聴取されていない」として、裁判を起こしていた水没地域に住む先住民族に対し、クアラルンプールにある高等裁判所は6月19日の裁判で、住民側勝訴の判決を下しました!!今回の「サラワクは今…」ではこの裁判の経過を会員の皆さんにお知らせしたいと思います。
 この裁判はバクンダム計画がマレーシアの環境法(EQA 1974)にしたがって、十分な住民の意見の聴取と、情報公開の下で進められるべきであると主張した3人のカヤン、ケニャ族の代表、カジン・トゥベッ(ク)(Kajing Tubek)、タウ・ルジャ(Tahu Lujah)、サラン・イム(Saran Imu)によって昨年4月20日に起こされたものである。
 この裁判で焦点となっていたのは、1)マレーシアの1974年環境法の中(34条A項)に環境影響評価(EIA)の提出義務付けが規定されているにも関わらず、このダム計画では、環境影響評価レポートの作成過程に、ダム建設によって最も影響を受ける筈の地域先住民族の意見が全く聴取されなかった。そればかりか、そのレポートの作成過程も明らかにされず、従って中心的建設を請け負っているエクラン社は環境影響評価を連邦政府(環境庁)に再提出し認可を受けなくてはならない、2)上記環境法の条項では、環境影響評価は連邦政府に認可されなくてはならないが、エクラン側はこの手続きをサラワク州政府によって行われるものであると主張している。環境影響評価の認可の権限はどの法をもっても連邦政府から州政府へは委譲することは出来ない、ことの2点であった。

■サラワク州政府の参加が必要である??
第一回公聴会 1995年1月24日

 3人のカヤン族代表は3人の弁護士、G.S.ニジャル(G.S.Nijar)、M.タイヤラン(M.Thayalan)、M.ラーマン(M.Raman)を通じて、バクンダム建設計画に対する訴訟を起こし、意見を高裁に提出した。先住民族側はバクンダム計画実施には1974年環境法が適用され、連邦政府はバクンプロジェクトについて環境影響評価レポートを建設を進める前に提出し、連邦政府に認可をされなければならないと述べた。一方、この裁判長のJ.フォン(J.Foong)はこの問題にはサラワク州政府とサラワク自然資源環境委員会の(SNREB)の参加が必要であるとして、裁判を3月1日へ延期した。
しかしながら、この訴訟の事前に提出された意見書の中で、弁護士の一人、G.S.ニジャルは以下のように述べている。
「1974年環境法は科学技術環境長官に、どの州においても、その解釈を限定したり、適用を延期する権限を与えていない。また、同法は長官が環境影響評価の認可の権限を州政府に移行したり委任するような権限も与えていない。科学技術環境長官(Hieng Ding)による環境影響評価を認可する権限の、サラワク自然資源環境委員会への移行は無効である。長官が、サラワク州政府がバクンダム計画の環境影響評価の管轄権を持つことを認めるのは間違いである。」
 この彼の意見書の中にもあるように、その場その場で法の解釈を変えたり、限定して解釈することは、例えそれが科学技術環境長官であっても不可能であり、その権限は持たないにも関わらず、裁判長はサラワク州政府及びサラワク自然資源環境委員会(SNREB)の参加を促す発言をしたことには驚かざるを得なかった。(この裁判ではSCCの一名が傍聴)。

■バクンは州の問題??
第二回公聴会 1995年3月1日

 被告側であるエクラン社及びマレーシア連邦政府は、環境影響評価は州の管轄下にあるとの意見を変化させず、連邦政府の管轄外であると主張し続けた。前回に引き続きSCCからも1名が参加した。
 この件に関し、現地紙のボルネオポストは翌日2日の紙面で「先住民族問題、州政府の下に-法務長官、法廷に意見提出」という見出しで以下のように報道している。

 土地留保を含む先住民族問題は連邦政府の規定により州の法律下で扱われるべきだとの意見が、今日(3/1)の最高裁におけるバクンダム訴訟の聴聞会にて法務長官のJ.C.フォン(J.C.Fong)より提出された。
 サラワク州政府とサラワク自然資源環境委員会の弁護人として出廷したフォンは、バクンダム・プロジェクトは明らかに州の問題であり、州の法律下で扱われるべきだとの意見を強く主張した。
「土地利用、川の流れの迂回、水資源、先住民族の移転、彼らの墓地及び森林の移動、森林生産物などといった州に関係する(バクンダム計画における)環境保全関係の適切な法律は、州の環境法下で扱われるべきである」
(中略)
フォンは、連邦の法律はこの問題に適用されないとし、原告3人の動因は環境を守ることではなく、彼ら自身の土地や作物、家、代々の墓地の消失を避けるためのものである、と主張した。
「何度も言うが、原告らの興味・関心は環境それ自体にあるのではなく、州の法律であるサラワク土地法(Land Code of Sarawak)の規定条項によってのみ解決出来る問題にある。」
 マレーシア政府及び環境庁(DOE)の代議士をしている連邦司法長官室市民部門代表のI.スタンレイ(I.Stanley)は事前に彼の意見をまとめていた。
 彼はバクンダム・プロジェクトの環境影響評価レポート(EIA)に関する法律はサラワク法令 (Sarawak Ordinance) とサラワク命令(Sarawak Order)であると述べた。ダムの環境影響評価は連邦の憲法によって規定された、(立法上の)州政府の管轄内にあると彼は加えて述べた。
 エクラン側弁護士のM.S.アブドゥラ(M.S.Abdullah)は原告らには宣言を求める権利は与えられておらず、法廷は(環境法とサラワク法令及びサラワク命令)どちらがこの問題に対し、適切であるかを判断しなければならない、と述べた。
(後略)(ボルネオポスト、96年3月2日)

■先住民族に提訴権無し!?
第三回公聴会 1995年3月2日

 3月1日に引き続きクアラルンプールの高裁で聴聞会が開かれた。
 エクラン社の弁護士、M.S.アブドゥラは、このバクンダム建設問題は公共の権利に関するものであって、個人の権利に属するものではなく、原告の先住民族らはバクンダム問題に対して提訴権を持たないとの意見を法廷で述べるに至った。
「原告らはこの問題に対し、彼らが持ついかなる特別な利権も提示していない」とした後、この問題は公共的な問題であることから、先住民族ら原告はバクンダムの環境影響評価レポートによって満たされるべき何の既得権も持たないと加えた。そして「従って、公衆の代理となれるのは法務長官だけで、原告らがそれを代理することは出来ない」とした後、もしそれが訴えるべき問題であるとするのならば、原告らは法務長官を通して法廷に問題を提起することが出来る、と加えた。(ボルネオポスト、95年3月3日)

■第四回公聴会 1995年4月26日

 3月のエクラン社及び連邦政府の意見提出を受けて、先住民族側の弁護士の一人であるG.S.ニジャル(G.S.Nijah)は、先住民族は提訴権を持っていると述べた。 「マレーシア環境法の下では、環境影響評価が認められる前に、その内容を確認し、陳述する権利をもつ利害関係者(地域住民)の利益を考慮する義務があることは明らかである」
「原告とその他のコミュニティから来た人々は、破壊されるであろうものが彼らの家であり、土地であることから、もっとも多大で直接的な影響を被る。バクンダムによって影響を被る全ての人々が訴訟を起こしている訳ではないという事実は、3人の訴えを棄却する理由にはならない」
(ニュー・ストレイツ・タイムス、96年4月27日)

 こうして先住民族は最後の聴聞会にて、改めて環境影響評価へ対応する法律がサラワク法令ではなくマレーシア環境法であること、認可の権限が環境庁(DOE)にあることを主張した。

■住民側勝訴!!環境影響評価は無効!!...?
高裁判決 96年6月19日

 以上のような過程で、今年の6月19日、バクンダムによって影響を受ける先住民族は勝訴の高裁判決を勝ち取ることが出来ました。この判決は、1)現時点で進められているバクンダム建設の工事は即刻停止すること、2)仮にエクラン社が建設を続行したい場合は、マレーシア1974年環境法に従って連邦政府に環境影響評価を提出し、認可を得なくてはならず、また、3)それらの作成過程には十分な環境影響の評価と、その過程の公開と、住民の参加が義務付けられる、ことを意味します。
 しかしながら、現地では未だに建設に先立つ森林の伐採作業が続けられているばかりか、エクラン社代表取締役のP.K.チン(Ting Pek Khiing)は6月27日の記者会見にて「森林伐採は環境影響評価の規定事業外であり、これは単なる準備作業だ。従って、高裁はこれらの事業を止めろとは言っていない。」(スター紙、6月28日)と主張する始末です。また、彼は建設の落札交渉に関しても、8月中には予定通り契約書にサインをし、年内までには建設を開始する(スター紙、6月28日)と発表しています。


SCCホームページへ「サラワクは今…」一覧へ